カカの天下133「心の言葉、花言葉 後編」
「はぁ……」
どうも、最近元気がないサユカです。
あまりの元気の無さに今日はカカすけとサエすけの「一緒に帰ろう」という誘いも断ってしまいました。はぁ、ほんとなにやってるんだろ。
屋上でもうすぐ赤くなるかなーというくらいの空をひたすらボケッと見上げていると……電話が一本。
カカすけだ。
わたしが屋上にいると言ったら、わざわざここに来るそうだ。
サエすけも一緒に。
何がしたいのやら。
はぁ……どうしようもないのはわかっていても。
カカすけの言葉のおかげで、わたしが言うべきことじゃないというのはわかっても。
サエすけが寂しい思いをしてると思うと、やっぱりなんだか落ち込む。
「待たせたねサユカン!」
「まぁ、元からここにいたからいいけどさ」
「サユカちゃん、やっほー」
ん……サエすけの顔見るとなんか気まずいなぁ……隠し事してるし。
「今日はサユカンに元気を出してもらおうかと思って、花を買ってきました!」
「え」
「私たちね、一生懸命選んだんだよー」
……花? わたしの、ために。
なによ、わたし、バカみたいじゃない。
サエすけのお母さんのこと考えて、サエすけ大丈夫なのかなとか心配してたのに……わたしのほうが心配されるなんて……
「はいっ、これが私たちのプレゼントだよ!」
そう言ってカカすけが花をわたしに差し出してくれる……
なんていい笑顔なんだコイツら……くそぅ、不覚にも涙腺が緩んで……
「これはハコベっていってね、花言葉はね……なんと! 『ランデブー』だよ!」
「……は?」
あれ。
緩んだ涙腺がなんか締まった。
「や、だからランデブーだよ、ランデブー」
「それでわたしが元気になると?」
「だって花のくせにランデブーとか言ってるんだよ。笑えない?」
「……いや、笑えなくもないかもしれないけどさ」
なによ、感動しそうになったわたしがバカみたいじゃない!
そうよね、コイツらはそういうやつらよね。
人が悩んでるのも気にせずこんなおちゃらけた――
「もう、カカちゃん。ふざけてちゃダメだよ。サユカちゃん怒ってるよ?」
「……う、や、だってさ」
「はいはい、恥ずかしがらないで本命の花だしてー」
「へ?」
珍しく顔を赤くしたカカすけはハコベをしまって、再び花を取り出した。
それは今のカカすけの頬みたいに赤くて小さい、一輪の切り花。
「あー、うー、はい、サユカン」
「これ……は?」
「ガーベラだよ」
「花言葉はね、『一家だんらん』だよー」
一家……だん、らん。
「あのさ、私らって家族みたいなもんじゃん? だからさ、えーっと」
「ふふ、サユカちゃん」
どもっているカカすけの頭を「任せて」というようにぽんぽんと撫でて、サエすけは一歩近づいた。
「何を悩んでるのかはわからないけど、大丈夫。サユカちゃんには、私たちがいるから」
――いまは、あなたたちがいるでしょう?
その言葉が、不意に浮かんだ。
「そうそう! 私とサエちゃんがいれば天下無敵なんだからね」
「うんうん、何も心配することないよ」
サエすけのお母さんの言葉の意味が、やっと理解できた。
そうだ、わたしにカカすけやサエすけがいるように、サエすけにはわたしとカカすけがいる。
家族みたいなもの、とカカすけは言った。
私たちがいる、とサエすけは言った。
一家だんらん、とガーベラが囁く。
もしサエすけが寂しいなら……その寂しさをわたしたちが埋めてあげればいいだけじゃないか。
だってわたしたちは、友達で、家族。
一家だんらん、天下無敵。
――わたしにできることが、やっとわかった。
サエすけのお母さん、サエすけは任せて。そして頑張って。
いつかサエすけとまた家族になれるその日まで。
サエすけには、わたしとカカすけが一緒にいるから。
「あ、サユカン笑った! ……あれ? なんか不敵な笑みだよ」
「ほんとだ、誰かに挑戦するみたいな感じだねー」
「ぷっ、あはははは! 君らさ、さっきから恥ずかしいことばっかり言ってる」
「恥ずかしいって言うな!!」
「わ、カカちゃんとサユカちゃん。いつもと逆だー」
わたしの答えは出た。
家族として、友達としてみんなと一緒にいる。
ただ、それだけ。
夕暮れどきの屋上。
風も世界も赤く染まる、そんな中で。
一家だんらんの意味をもつ赤い花だけが、その小さな家族たちを穏やかに見つめていた。
えー、自宅のPCのトラブルによりいつもより投稿時間が上下してしまいました。申し訳ありません!
今回で少しシリアス風味のお話はひと段落、しばらくはいつもの感じな展開が続くので、またよろしくお願いします^^




