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カカの天下  作者: ルシカ
133/917

カカの天下133「心の言葉、花言葉 後編」

「はぁ……」


 どうも、最近元気がないサユカです。


 あまりの元気の無さに今日はカカすけとサエすけの「一緒に帰ろう」という誘いも断ってしまいました。はぁ、ほんとなにやってるんだろ。


 屋上でもうすぐ赤くなるかなーというくらいの空をひたすらボケッと見上げていると……電話が一本。


 カカすけだ。


 わたしが屋上にいると言ったら、わざわざここに来るそうだ。


 サエすけも一緒に。


 何がしたいのやら。


 はぁ……どうしようもないのはわかっていても。


 カカすけの言葉のおかげで、わたしが言うべきことじゃないというのはわかっても。

 

 サエすけが寂しい思いをしてると思うと、やっぱりなんだか落ち込む。




「待たせたねサユカン!」


「まぁ、元からここにいたからいいけどさ」


「サユカちゃん、やっほー」


 ん……サエすけの顔見るとなんか気まずいなぁ……隠し事してるし。


「今日はサユカンに元気を出してもらおうかと思って、花を買ってきました!」


「え」


「私たちね、一生懸命選んだんだよー」


 ……花? わたしの、ために。


 なによ、わたし、バカみたいじゃない。


 サエすけのお母さんのこと考えて、サエすけ大丈夫なのかなとか心配してたのに……わたしのほうが心配されるなんて……


「はいっ、これが私たちのプレゼントだよ!」


 そう言ってカカすけが花をわたしに差し出してくれる……


 なんていい笑顔なんだコイツら……くそぅ、不覚にも涙腺が緩んで……


「これはハコベっていってね、花言葉はね……なんと! 『ランデブー』だよ!」


「……は?」


 あれ。


 緩んだ涙腺がなんか締まった。


「や、だからランデブーだよ、ランデブー」


「それでわたしが元気になると?」


「だって花のくせにランデブーとか言ってるんだよ。笑えない?」


「……いや、笑えなくもないかもしれないけどさ」


 なによ、感動しそうになったわたしがバカみたいじゃない!


 そうよね、コイツらはそういうやつらよね。


 人が悩んでるのも気にせずこんなおちゃらけた――


「もう、カカちゃん。ふざけてちゃダメだよ。サユカちゃん怒ってるよ?」


「……う、や、だってさ」


「はいはい、恥ずかしがらないで本命の花だしてー」


「へ?」


 珍しく顔を赤くしたカカすけはハコベをしまって、再び花を取り出した。


 それは今のカカすけの頬みたいに赤くて小さい、一輪の切り花。


「あー、うー、はい、サユカン」


「これ……は?」


「ガーベラだよ」


「花言葉はね、『一家だんらん』だよー」


 一家……だん、らん。


「あのさ、私らって家族みたいなもんじゃん? だからさ、えーっと」


「ふふ、サユカちゃん」


 どもっているカカすけの頭を「任せて」というようにぽんぽんと撫でて、サエすけは一歩近づいた。


「何を悩んでるのかはわからないけど、大丈夫。サユカちゃんには、私たちがいるから」


 ――いまは、あなたたちがいるでしょう?


 その言葉が、不意に浮かんだ。


「そうそう! 私とサエちゃんがいれば天下無敵なんだからね」


「うんうん、何も心配することないよ」


 サエすけのお母さんの言葉の意味が、やっと理解できた。


 そうだ、わたしにカカすけやサエすけがいるように、サエすけにはわたしとカカすけがいる。


 家族みたいなもの、とカカすけは言った。


 私たちがいる、とサエすけは言った。


 一家だんらん、とガーベラが囁く。


 もしサエすけが寂しいなら……その寂しさをわたしたちが埋めてあげればいいだけじゃないか。


 だってわたしたちは、友達で、家族。


 一家だんらん、天下無敵。


 ――わたしにできることが、やっとわかった。


 サエすけのお母さん、サエすけは任せて。そして頑張って。


 いつかサエすけとまた家族になれるその日まで。


 サエすけには、わたしとカカすけが一緒にいるから。


「あ、サユカン笑った! ……あれ? なんか不敵な笑みだよ」


「ほんとだ、誰かに挑戦するみたいな感じだねー」


「ぷっ、あはははは! 君らさ、さっきから恥ずかしいことばっかり言ってる」


「恥ずかしいって言うな!!」


「わ、カカちゃんとサユカちゃん。いつもと逆だー」


 わたしの答えは出た。


 家族として、友達としてみんなと一緒にいる。


 ただ、それだけ。





 夕暮れどきの屋上。


 風も世界も赤く染まる、そんな中で。


 一家だんらんの意味をもつ赤い花だけが、その小さな家族たちを穏やかに見つめていた。


 えー、自宅のPCのトラブルによりいつもより投稿時間が上下してしまいました。申し訳ありません!

 今回で少しシリアス風味のお話はひと段落、しばらくはいつもの感じな展開が続くので、またよろしくお願いします^^

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