カカの天下132「心の言葉、花言葉 前編」
「最近、サユカちゃんの元気ないよねー」
「んー」
こんちは、カカです。
学校が終わってさぁ帰ろうというとき、サエちゃんがそんなことを言いました。
「なにか悩んでるみたい。何を悩んでるのかは聞いてないけど」
昨日ので少しは吹っ切れたみたいだけど、やっぱりまだ元気ない、かぁ。
「そっかー。じゃ、元気づけてあげたいね」
何を悩んでるのか、そこを必要以上に突っ込まないサエちゃんはさすがわかってる。私たちって大人だよね。
「元気づけるか……なにしよ」
「花でもあげればどうだ?」
「花?」
「おう、古今東西、花をもらって喜ばない女はいないという伝説がある」
「そか、わかった。ありがとトメ兄――ってトメ兄がここにいるわけないっ!?」
ということはテレパシートメ兄にしてその正体は私のお父さん!? どこ、どこにいるの!?
「カカちゃん、一人で何を話してたのー?」
「いない……くそぅ、いつか見つけてやる」
「カカちゃん、頭狂ったー?」
「ソフトな声で過激なこと言うね……サエちゃん」
そこも好きだけど。
「とにかく、花を買ってあげよう!」
そして訪れた花屋さん。
入り口にでっかく掲げられた看板には『鼻は口ほどにモノを言う』と書いてある。字、間違ってない?
とにかく私とサエちゃんは二人でその花屋さんに入った。学校の帰り道なのだけど、いつも一緒に帰るサユカちゃんは「今日はちょっと」と言って教室に残っていた。相当重症らしい。
「でさ、何の花買う?」
「そうだねー、花言葉とか考えて選ぶといいかも」
「鼻言葉? 鼻声のこと?」
「そうそう、それぞれのお花の声みたいなものだよー」
ちょっとズレてるような気がする会話をしながら店内を見渡すと、親切にも各花に『花言葉は〜』と書いてある。
なんだ、鼻じゃなくて花の言葉か。そりゃズレるわ。
「あ、私はこのお花好きだなー。えっと、福寿草。花言葉は……『長寿』だって」
「さ、サエちゃん、それ渋すぎ。なんか元気でないよ」
「そうかなー。じゃ、これは? えっと、ボタン。花言葉は……『王者の風格』だって」
「や、だからなんでそんな渋いのばっか選ぶの……」
さ、とサエちゃんが差し出した花はヒエンソウ。花言葉は『気まぐれ』
気まぐれ……ああ、私への返事か。
「気まぐれに選ぶのもいいけどさ、やっぱ元気が出る花言葉のやつにしようよ」
サエちゃんが差し出した花はコデマリ。花言葉は『努力する』
「うん、がんばろ……あ、これはどうだろ。ツワブキ、花言葉は『愛よ蘇れ』だって。トメ兄への愛が蘇って元気にならないかな」
ふるふる、と首を横に振りながらサエちゃんが差し出した花はラッパスイゼン。花言葉は『片想い』
「そうだよねぇ、片想いだし長続きしないよねぇ……うーん、ほんと元気になってほしいよね」
うんうん、と神妙に頷きながらサエちゃんが差し出した花はヒャクニチソウ。花言葉は『亡き友を想う』
「死んでないから」
むぅ、と唸りながらサエちゃんが差し出した花はケマンソウ。花言葉は『あなたに従います』
「あ、私が決めていいの? それじゃ……」
私は偶然目に止まった切り花を手に取った。小さな赤い花……可愛いし、なにより花言葉がいい。
「サエちゃん、これ」
私の見つけた花を見てうんうん、と頷きながらサエちゃんが差し出した花はアナナス。花言葉は『満足』
「いいよね、これ。よし、これにしよう!」
サエちゃんはその切り花を買いにレジへ。そして私はサユカンに電話をかけた。
「もしもしサユカン。いまどこ――」