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カカの天下  作者: ルシカ
131/917

カカの天下131「迷える子羊よ、もっと迷え」

「……はぁ」


 ども、カカです。


 ただいま昼休み。そして場所は屋上。


 なぜこんなとこにいるかというと……サユカンに呼び出されたからです。


「でさ、サユカン。人を呼び出しといてため息しかつかないってどういうことさ」


「うぅ……何を言おうか迷ってるのよぅ」


「愛の告白じゃないだろね」


「君にしてどうすんの」


「トメ兄に言う練習とか?」


 ……あれ、いつもトメ兄の話したら愉快になるのに、今日はそれがないな。


「ほんと、どしたのサユカン。今朝から変だよ?」


「うぅ……」


「登校中に散歩中の犬とすれ違うとき、犬に気づかないで、犬のアゴ蹴っちゃうし」


「……う」


「電信柱にぶつかりそうになって、避けたときに隣を歩いてた男子へエルボーかましたり」


「……うう」


「私が『織田信長ってどう思う?』って聞いたら『食べたい』とか答えるし」


「……ううう」


「なんか変だよ、それも妙に暴力的に」


「…………ううう」


 自覚はしていたらしい。激しく凹んでる。


 サユカンは深々とため息をついたあと……遠いお空へ向けていた視線をようやくこちらに戻した。


「ねぇ、サカイさんって知ってるよね」


「うん、たまに一緒にご飯食べるし」


「どう思う?」


 はて、なんかまったく予想外な質問がきましたな。


「どうって……んー、ダメ人間?」


「だ、ダメなの?」


「うん、なんか色々ショックなことあったらしくて堕落しまくってる。ダメ街道まっしぐら」


「そ、そうなんだ」


「でも最近はなんか頑張ってるみたい。なんていうかな……固い雑巾をしぼるかのように元から無い元気をしぼり出そうしてるみたいな」


 まぁ、元から無いものしぼってもあんま出ないんだけど、一応頑張ってはいる。


「そっか……いろいろ、あるんだよね」


「サユカン?」


「わたしがどうこう言う問題じゃないんだよね……でもなー……放っておくのも……んんんん」


 またお空を見始めましたよこの人。むーっ、人と話すときは相手の目をしっかり見るのが基本なのに!


「うりゃ!」


「うぇあ!?」


 ムカついたから抱きついてやった。


 ついでに頭を撫でてやる!


「な、なにするカカすけ!」


「何を悩んでるの」


「……う」


 直球は痛かったのか、暴れるのをやめて押し黙るサユカン。


 まったく、仕方ないなぁ。


「ま、言えないなら別にいいよ」


「言えないというか……言おうかどうしようか迷ってるというか」


「じゃあ言うなー」


「……む、なによ。聞きたくないわけ?」


「迷うような相談なら言わないほうがいい、っていうのがトメ兄のモットーらしいよ」


「……トメさんの?」


「うん。相談しようか迷ってるってことは、それはとても大事なこと。相談したほうがいい方向に向かうと思えるならしたほうがいいけど、そう思えないならやめたほうがいい」


 えっと、次はなんだっけな。あ、そうだ。


「相談するにもいい時期と悪い時期があるから、ぎりぎりまで迷え。自分の納得できる答えを探せ。できる限り自分で答えを見つけて、それから相談するのもいい。そうすれば後悔しにくい選択ができると僕は思う。相談する時期を見定めるのが難しいけど、だって」


 さっすが私、よく覚えてる。


「難しくてよくわかんない部分もあるけど、簡単に言えば、相談するのも迷うくらい大事なことなら、まず自分で考えをまとめてから行動しろってことじゃないかな」


「自分の、考え」


「サユカンの悩みって、すぐ相談しなきゃならないこと?」


「そういうわけじゃ、ないと思う」


「じゃ、まだ焦ることないじゃん」


「でもさ、悩みあると不安なんだよ。早く解決しないとさ、なんか、苦しくて」


 おお。なんか笑える。


「カカすけ。なに笑ってるのさ。人が真剣なときに」


「それ、私がトメ兄に言ったのと同じだ」


「え……トメさんは、なんて?」


「悩みがあって苦しい、そのことだけを信頼できる人に伝えておきな。そうやって甘えておけば楽になるもんだ。その証拠に……僕に話して少しは楽になっただろ? って」


 そう、私がここまではっきり覚えてるのは、私自身が悩んでるときにそう言ってくれた兄のおかげで、少し救われたから。


「だからさ、とりあえず私に甘えときな、サユカン」


 抱きついたまま、頭を撫でたまま、できるだけ優しい声でそう言ってみた。


 サユカンは珍しく素直に頷いた。


 もうちょっとだけ頭を撫でてあげよう。


 ……でもお願い神様。


 この場面でサエちゃん乱入とかやめてね。


 浮気されたなんて思われたくないし。


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