カカの天下129「名探偵カカの事件簿2」
「事件だ……!」
ども、トメです。
バーン! と壁を叩きながら居間へ乱入してきた妹のカカは、なにやら景気の悪い顔でそんなことを言いました。
「あ、また便秘か。それはすごい事件だな」
「それはトメ兄でしょ!」
「人聞きの悪いこと言うな」
「だってもう三日出てないでしょ」
「なんで知ってる!?」
カカはムカツク微笑を浮かべてちっちっち、と不器用に指を振る。
「この名探偵カカに知らないことはないのだよ」
「あっそ……んで、どうしたって?」
「サエちゃんとサユカちゃんと遊んでる間に、私のおせんべいがなくなったんだよ!」
おまえほんとせんべい好きだな。
「へぇ、で、犯人は誰なんだ?」
「それをこれから調べるの」
「名探偵に知らないことはないんじゃないのか?」
「トメ兄、世の中は臨機応変にいかなきゃ」
「……ああ言えばこう言う」
「そう言うからこう言うの。出直しなさい」
コノヤロウ。
お、カカの部屋で遊んでたサエちゃんやサユカちゃんも出てきた。
「君らも大変だね」
「楽しいですよー」
「いつものことですしねっ」
いい友達だなぁ。
「で、僕に何の用なわけ?」
「事情聴取にきたの。犯人はトメ兄?」
「いや。僕はいま、しょっぱいのよりチョコとか食べたい気分なんだ」
「あ、私もですー。気が合いますねートメお兄さん♪」
にこーっと可愛らしい笑顔で賛同してくれるサエちゃん。
「トメ兄、死刑!」
「サエすけ、処刑!」
……なんでこいつらこんな怒ってるんだ。
「冗談冗談、そんなに怒らないでよサユカちゃん。で、カカちゃんはなんで怒ったの?」
それはあなたにふぉーりんらぶだからですよサエちゃん。
「へ? いやその……ともかくっ」
ごまかしたな。
「私のせんべいを食べた犯人はこの中にいるっ」
「そうか? 気まぐれに忍び込んだ姉が食べてったっていう線もあると思うが」
「や、姉は今日デートだから」
……ほわっつ?
「ちょ、ちょちょちょちょっと待てっ!? あの姉がデートだと? 相手は何星人だ? 火星人か? いや、冥王星人が一番しっくりくる」
「それはどうでもいいからっ! 一人ずつ証言を聞いてくよ」
や、相当気になる話題なんだけどなぁ……
「まずサエちゃん」
「私、ずっとカカちゃんと一緒にいたよねー」
「うんうん、これからもずっと一緒にいようねー♪ 次いこう」
ぬるっ。ぬるすぎっ!
「サユカちゃんは?」
「わたしも基本的に一緒にいたじゃない。トイレ何回か行ったけど」
「サユカちゃんってトイレ近いよね。糖尿病?」
「はぁ!? ちょ、んなわけないでしょ!!」
実際は最近の小学生で糖尿病の人とか増えてきているらしいので、お子さんがいる家庭は気をつけましょう。
「トメ兄は?」
「僕はずっと居間で雑誌読んでたけど」
「しょぼい生活」
「やかましいわっ! 大体さ、せんべいってどこにあったんだよ」
「台所の上の戸棚」
……あれ?
「それ。おまえ昨日の夕方食べてなかったか?」
「いや、私が食べたのは、せんべいじゃなくて、クッキー……ぁ」
あ? いま小さく「あ」って言ったぞ。
「確かに犯人はこの中にいたみたいだな……しかも超中心に」
「うん、トメ兄を犯人だっ!」
「はいぃ!? なんで僕!? しかも『を』ってなんだよ普通は『〜が犯人』って言うだろ!」
「うるさいなっ! 事件の犯人を決めるのは証拠でも警察でもなくて探偵なんだよ!」
「はっきり言うにも程があるだろその真理! ていうか犯人はおまえだろがっ!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ僕らを見て、
「ああいうお兄さんいると楽しそうだよね」
「うん……でもわたしはお兄さんよりも」
「んん? なにがほしいのサユカちゃん?」
「やっ、お兄さんじゃなくてこ、こ、こいび……いやなんでもないっ」
「どっちにしろトメさんがほしいのねー」
「サエすけそれ言うなあああああ!」
なにやら二人も騒いでいたけど、カカがうるさくて聞こえなかった。
「事件は犯人が捕まるんじゃないっ、探偵の気に食わないヤツが捕まるんだっ!」
「だからそういうことハッキリ言うなああああ!!」