カカの天下120「父の日はうまい棒」
「ちょっと寄り道していい?」
こんにちわ、カカです。
いつも通りにサエちゃんとサユカンのトリオで帰っている途中で、サユカンがそんなことを言い出しました。
「いいけど、どこいくの」
「商店街いきたいのよ」
「何か買うものあるのー?」
「ほら、今日って父の日じゃん。だからなんか買っておこうかと」
父の日……ああ、だから帰りのHRで先生が『お父さんに日頃の恨みをはらしましょう』って言ってたのか。
「で、どうやって恨みはらすの?」
「……は? カカすけ、あんた何言ってんの」
「うちのクラスの先生がね、今日は父親に恨みはらす日だって」
「テンカ先生の家、仲悪いらしいからねー」
「ああ、今年から入った先生だっけ」
「愉快な先生だよー。サユカちゃんも私たちのクラスくればよかったのにね」
うん、前の先生はやたらのんびりした先生だったけど、今回のテンカ先生は程よくテキパキ、程よくだらだらで結構いい感じだ。
「こ、こっちの先生だっていい感じよ! もう老いぼれてて、わたしら小四なのに足し算教えようとするんだから!」
「それ、いい感じにボケてるんじゃん」
「サユカちゃん、まだそんなこと習ってるから成績悪いんだねー」
「うっさいな! 最初にちゃんとツッコんでるから普通に授業受けてるわよっ」
「せ、先生にツッコんでるんだ」
さすがトメの追っかけ。ツッコミ志望か。
「でもさ、普通に授業受けてて成績悪いなら、サユカンって普通に頭がわる――」
「でさ、あんたらも父の日のプレゼント買いなさいよっ」
む、強引に話を戻した。
「プレゼントと言っても……私のお父さんとは、会えない状態だしなー」
サエちゃんが呟き、サユカンが「げ」とまずいことを言ったみたいに口つぐんだ。
あれ? お父さんと会えないって……?
「ねえ、サエちゃん。それって」
「か、カカすけは!? お父さんに何か買ってあげないの?」
む……? サユカンなに慌ててるんだろ。ま、いいか。
「お父さんねぇ……まぁ、何か買ってあげてもいいけど」
「そういやさ、わたしら何回もカカすけの家に行ってるけど、ご両親に会った事ないわね」
「そういえばそうだねー。トメお兄さんしか見たことないよ」
「…………」
「れ? どしたカカすけ」
「カカちゃん?」
「…………?」
首を傾げる。
んん?
んんんんんん?
あ。
「そういや私、お父さん見たことない!!!」
「「ぅおい」」
びしっ、と二人にツッコまれた。
「トメ兄いいいいいいいいいいいいいい!!!」
「なんだ妹」
トメ兄が仕事から帰ってきて一番、私は突進した。
「妹とびひざげり!」
「ぐはぁ! ……な、なにする」
「大変だよトメ兄!」
「僕のみぞおちのほうが大変だよ……なんでいきなり攻撃を」
「大変さを表現したかったんだよ!」
トメ兄はなぜか口をひくひくさせた。
「へぇ……そうかそうか。この後おまえにもっと大変なことしてやるから覚悟しろ。それで何が大変なんだ」
「ねえ、私にお父さんっているの!?」
トメ兄はきょとんとして私を見た。
「そりゃいるよ」
「どこに!?」
「どこにって、この家に住んでるじゃん」
「うそっ!? 私見たことないよ! っていうかどこに住んでるの!?」
「どこって、両親用の部屋あるだろ。開かずの部屋」
「あそこ!? でも見たこと……や、待って。んー……? 考えてみれば何年か前まで四人でこの家住んでたような……」
「ああ。僕が就職してから、両親とも「仕事頑張るー」って言って留守がちになったからな。でも母さんはともかく、父さんならわりと家にいるよ」
……や、でも開かずの間に住んでるって、どうやって出入りしてるの、ていうか私が見たことないって……
「お父さんって、なにしてる人?」
「忍者」
……は? ちょいとこのお兄さんマジな顔してナニをぱっぱらぱーなことを。
「あ、ほら。カカさー、このまえ僕にテレパシーでツッコむなとか言ってたじゃん。その声、たぶん父さんだよ」
「あれかああああああああ!!!」
私はあまりの事実に珍しく絶叫した。
「あ、あのさ、父の日だから何か買ってあげようかと思ったんだけど」
「それはいいことだな。置手紙でも書いてテーブルに置いとけばいいよ。いつのまにか消えてるから」
……へー、忍者だったんだ、お父さん……
……あれ、じゃお母さんってなにしてる人なんだろ……いや、ダメージ受けてる今聞くのは怖いから、今度聞いてみよう。
「……なにあげたらいいと思う?」
「父さんはうまい棒好きだから、詰め合わせでも買ってやれば?」
こうして私のプロフィールに『うまい棒忍者の娘』という項目が加わった。
どんだけ〜。