カカの天下117「姉は爆発だ」
「よう、おひさっ!」
「お、姉だ。久しぶりだな」
トメでっす。
夕食の買い物から帰るところで姉と遭遇しました。ほんとに結構久々だ。お祭りに誘って断られて以来か。
「ん? もしかして包帯まいてないか?」
服の袖からちらりとのぞく白い布に気づいた僕に、姉はなぜか目をそらして笑った。
「あ、んと、ね、これは、その、名誉の負傷というか、名誉の火傷というか、名誉の爆発というか」
「爆発?」
「や、芸術は爆発じゃん! だから名誉も爆発するんだよ!」
よくわからんが姉の言うことをいちいち考えていては心が病んでしまう。
「にしても姉もケガとかするんだなー。初めて知った」
「するでしょ普通は」
「普通じゃないから言ってるんだよ」
「なにさ、あたしが人間じゃないみたいな言い方!」
「……え、人間なの!?」
「なにさっ、今初めて気づいたみたいなそのリアクションは!」
いや、だってキャラ的になんか……こほん。
「だってさ、姉ってなんか普通の人間っぽくないじゃん」
「じゃあ逆に聞くけど、普通の人間ってどんなのよ」
うーん……と考えること数秒。
「えっと……まず、目があるだろ」
「おい」
「それに、耳もある」
「こら」
「あと、口もあるだろ」
「まてや」
「鼻……は、ない人もいるか」
「クリ○ンのことかー! ってそうじゃなくて!」
なんだようるさいなぁ。著作権にはちゃんと気を使ってるぞ?
「あたしにそれらが全部ないとでも言うつもりかっ」
僕は数秒、姉の顔をまじまじと見て……
「……え、ある!?」
「なにさっ、今初めて気づいたみたいなそのリアクションはテイク2!」
「でもどうせ飾りだろ。目とかにごってるし」
「失礼なこと言うな! にごってるのは頭の中だ!」
よくわかってんじゃん。
「大体これが飾りだとしたら、こんな精巧な飾りどこで売っとるのさ!?」
「タケダ医院でこないだ販売してたぞ」
目の飾りとかな。額につけて遊んだりするおもちゃだ。待合室の幼児対策に院長が趣味で置いたらしい。
「で、結局は元気でやってるのか?」
今の反応を見る限りでは、元気さは一切損なわれていなさそうだが。
「なに、もしかして今のって、あたしが元気か心配して確かめるためっ!?」
「あんたさ、そんなに自分が愛されてると思ってるのか」
「当たり前じゃん」
すげぇなこいつ。
「家族に愛を信じられなくなったら終わりだよ」
「カカだったら間違いなくこう言うな。キショイ」
「そんな!? もう家族なんて信じられない!」
「撤回はえーな」
「神よ! 憐れな誰かから愛を奪ってあたしにください!」
「憐れなあたしに愛をって言えよ厚かましい! あとこんな道の中心で愛だのなんだの叫ぶなっ」
「えー、なんだよぅ。世の中にはさ、世界の中心で愛を叫びたいのにスクリーンの中でしか叫べない人もいるんだぞ?」
「そんな身も蓋もない言い方やめろよ」
世間が認める名作に何たる言い草だ。
世間様ごめんなさい。責めるならこの姉をつるし上げてください。
「とにかくさ、これ以上情報社会の荒波に叩かれる前に帰れよ」
「むぅ、情報社会と聞いたら帰るしかないか……」
姉は漢字の羅列に弱い。
しかしなんだかんだで元気に帰っていった。
そして僕の夕飯の買い物袋の中から、お菓子が一つだけなくなっていた。
おそるべし姉。