カカの天下116「お菓子の恨みは裁判沙汰」
「トメ兄、私のおせんべえ食べたでしょ!!」
「あー、うん、ごめん」
妹のカカに怒られちゃったトメです。
どうやら昨日の夜につまんでしまったおせんべいはカカのだったらしい……って、買ってきたのは僕なんだけどなぁ。
「や、小腹がすいたんでつい」
「小腹ってお腹のどこさ!」
「へ? えっと、胃のあたりかな」
「ここに私のせんべいがあるのかー!」
「ごほっ!」
み、見事な正拳突き……! 胃の辺りに、直撃、した……
「必殺、エクスカリバー」
技名はそっちの聖剣できたか……やるな。
「わ、悪かったよ。せんべいならまた買ってきてやるからさ」
「あれはただのせんべいじゃないんだよ!」
「そういやちょっとシケってたな」
「シケたこと言ってるんじゃないよ! あのおせんべいはね……袋の中に一枚だけ別の味のせんべいが混じってたなんとも珍しいアイテムだったんだよ!」
「それ、不良品って言わないか」
「でもそういうの見つけるとなんか嬉しいじゃん」
わからなくはないが……
「とにかく、ごめんな」
「カカ裁判によるとね」
なんだその不穏な語りだしは。
「四分の一死刑」
なにその現実的っぽい数字。
「だから身体の四分の一を切り離すね」
なにその怖すぎる刑!! てか四分の一ってどこさ!?
「裁判官、異議あり!」
「却下。そんなこと言うヤツはこうしてやる」
カカは僕のズボンのベルトを外し、僕の身体を回転させるように一気に引っこ抜いた!
「あーれー! おたわむれをーってそれじゃカカお代官だろ」
「裁判官もお代官もそんなに違いないよ。アルミ缶とスチール缶だって似たようなものでしょ?」
官と缶ね。うまいこと言うな。
「とにかく新しいの買ってきて」
「はいはい」
仕方ない、我が家のお姫様の機嫌を損ねると何をしでかすかわかんないからなぁ。
そして、スーパーにて。
こういうときに限ってせんべいが売り切れだったりする。
「どうするかなぁ……」
「あら、トメお兄さん」
呼ばれて振り返ると、そこにはカカの愛する親友サエちゃんが。
「買い物か? えらいなー」
「ふふ、定番のセリフをありがとうございます」
一筋縄ではいかないセリフをありがとうございます。
「なにを悩んでるんですかー?」
「いやな、実は」
……お、いいこと思いついた。
「カカの機嫌とるためにお菓子を買おうと思うんだけどさ、サエちゃんはどんなお菓子が好き?」
「私ですか。そうですね……ポッキーとかチョコ系が好きです。ほら、今日も買いましたし」
サエちゃんの買い物カゴには確かにポッキーが。
この勝負もらった。
「ただいまー」
「おかえりー、せんべい」
「僕の名前はせんべいじゃないぞ」
「私にはせんべいしか見えないの」
「悪いがせんべい売り切れだった」
「え!? じゃ今私が見てたせんべいはトメ兄の顔か!」
「せんべいみたいな顔って言いたいのか失礼な」
「じゃトメ兄の顔をかじれば解決か」
「しない。そんな一部の人が大喜びそうなこと言うな」
「一部の人って?」
「深くツッコむな。とにかく、せんべいはなかったけど、もっと素晴らしいもん買ってきたぞ、これだ!」
そう言って僕はポッキーを取り出す。
「えー、私いまチョコとか食べる気分じゃ――」
「買い物中にサエちゃんに会ってな、これ買ってた」
「気分じゃ! チョコとか食べる気分なのじゃ!」
「サエちゃんも今頃食べてるんじゃないかな」
おー、ものすごい勢いで箱あけた。
おー、なんか顔赤らめて食べてる。
おー、なんかねっとりしゃぶってる。
おー……なんか危ない子になってる。
ま、機嫌直ってよかった。