カカの天下115「まじで、がんばれタケダ」
俺はやる!
どうも、タケダです。今は朝の登校時間。いつもカカ君たちが通る道で待ち伏せ中だ。
そして今、カカ君たちの足音が聞こえてきた……!
昨日のゲンゾウさんの言葉を思い出す……
何が悪いかが問題なんじゃない。何が正しいかが問題なんだ……!
さぁ、いくぜ!
いま俺にとって正しいのはカカ君に謝ること!
そしてそのためなら悪いことでもなんでもしてやるのだ!!
「ゲンゾウさんの言葉ってそういう意味でいいのか?」
テレパシートメさんの声も振り切って飛び出した俺は、持っていたナイフを突きつけた。
まずは話を聞いてもらう。そのためならこんな悪いことだって!
「俺の話を聞け! さもないとこいつを……」
尻すぼみに小さくなっていく声。
それは臆したからじゃない。
「あ……あの、坊や?」
人違いだったからだ!!!
犬の散歩中のおばさんではないかああああああ!!!
「な、なにをそんなに悩んでるんだい? おばさんに言ってみなさい」
しかもすんごい慈愛に満ちたいい人ではないかあああああ!!!
「……なんか、その……世の中の不条理が悲しいんです」
「世の中そういうもんよ。でも、歯を食い縛ってがんばりな」
「……はい」
この街はいい人ばっかりだ、ちくしょー……
さぁ、リベンジだ!
今度はしっかり標的を確認。突撃だ!
「待った! 俺の話を聞け! さもないとこいつをぶっ刺す――」
言い終わる前に、俺の手元からナイフが消えていた。
カチャ、と地面に響く無機質な音。
離れたところへ落ちたナイフ。
目の前には、脚を振りきった状態のカカ君……
「なにを、どうするって?」
「な、ななななななんなのだ今のハイキックは! 君、なにか拳法でもやってるのか!?」
「んー、姉に習ったから、姉拳法?」
「しかもナイフだぞ! 怖くないのか!?」
「だって姉拳法だし」
わけがわからない……いや、そんなのいつものことじゃないか!
「とにかく話を聞いてくれ!」
「ナイフ突き出すやつの話なんか」
「じゃあこうしてやる!」
俺は再びナイフを拾う。しかしカカ君に突き出したりはしない。さっきの動きを見る限りではきっと無駄だ。
だから僕はナイフを、自分に向けた。
「話を聞いてくれ! さもないと死んでやるからな!」
「うわ、ださ」
「なさけないねー」
サユカ君とサエ君の声が痛い……しかしこの際どうでもいい! 何が悪くても! 格好が悪くても! 俺は正しいことをする!
「……そこまで言うなら聞いてあげる。なに」
「先日は君の友人を侮辱して、本当にすまなかった!」
そう言って、土下座した。
そう、俺は謝るのだ。それしか、できない!
「ごめんなさいすいません申し訳ない謝る謝罪する謹んで頭を下げるすまないごめんねごめんなごめんくさいごめごめごめごめ――!」
「やかましい!」
「ごめんなさい!」
頭をひたすら下げているのでカカ君の顔はわからない。
静かな時間が過ぎた。
やがて、カカ君は言った。
「……わかった。そこまで謝るなら許してあげる」
「本当にすまなかった。カカ君にとっては大切な友人だったのだろう?」
「そうだよ……とりあえず顔上げて。男が簡単に頭さげるもんじゃないよ」
言われたとおり、顔を上げて……呆れている顔のカカ君、そして呆然としているサユカ君を見た。
「君にも謝る。この間はすまなかった!」
「え、ええ」
「君はカカ君の大切な友人だ。だからどうか、俺とも友人になってほしい!」
「え、や、やだ」
……冷たい風が、吹いた。
「さ、行こうかサエちゃん、サユカちゃん」
「う、うん。でも、いいの?」
「サユカンが再起不能にしたんでしょ? 私しーらない」
そして過ぎ去っていくカカ君とサユカ君……
「俺って、いったい……」
「まーまー。ちゃんと根性みせて謝ったし、私も許したげる。また暇つぶしに協力してあげるよー」
「さ、サエ君!」
でも、ちょっと救われた。
また頑張ろう。