カカの天下113「ダメな人のなおしかた」
「ぐでー」
……どうも、カカです。
「だはー」
今日はトメ兄の帰りが遅いなーと思ってたら、どうやら会社の飲み会だったらしいです。
「くはー」
そして飲みすぎたようでへべれけ状態です。うなりながら玄関でくたばってます。こんな崩れたトメ兄を見るのも珍しい。
「トメお兄さん、大丈夫なの?」
ひょこ、と私の肩口から覗き込んできたのは親友のサエちゃん。
うちに遊びに来ていたのですが「トメお兄さんの顔を見てから帰る」と言ってちょっと遅い時間だけど待っていたのです。
「と、トメ、さん……」
そして同じ理由で待っていたサユカちゃん。
目を見開いて私の不甲斐ない兄を見つめている。
ふむ、このだらしない姿を見れば百年の恋も冷めるかな。口なんか半開きでだらしないったらありゃしない。
「トメさん……可愛いっ」
……恋する乙女にとってはそんなことどうでもいいらしい。
「いーとーまきまきー」
意味不明なトメ兄の言葉に、
「まきまきー♪」
楽しそうに答えるサユカちゃん。
や、なんというか、ほんとなんでもいいらしい。
「それで、どうするのカカちゃん。中に運ぶんなら手伝うけど」
「んー、トメ兄重いからなぁ。ここで起こしたほうがいいんじゃ」
「わたしが運ぶっ!!」
いきりたって叫んだサユカちゃんは素早くトメ兄の身体に手を滑り込ませ、なんかいろいろ無駄になでたりさわったりした後、勢いをつけてトメ兄を背負った!
「てりゃー!」
「てりやきー」
あ、支えきれずにつぶされた。
やっぱ重かったのかな……それともトメ兄の発言で力抜けたのかな。
「ぐしゃー」
「あ、そ、そのっ、トメさん、あのあのあの」
そしてトメ兄につぶされてるサユカちゃんは沸騰していく。
「ねぇカカちゃん。もうこのままでよくないかな」
「そだね。サユカン幸せそうだし」
「ちょっと待ってよ! ほ、ほんとに苦しいんだから!」
「へー。じゃ、どかすけど……ほんとにいいの?」
「も、もちろん!」
「ほんとに? サユカン」
「ほんとに? サユカちゃん」
「……あと三分だけこのままで」
「「正直でよろしい」」
で、三分後。
「……はぁ、はぁ、激しかった……」
夢うつつのサユカちゃんは放っておいて、トメ兄をどうするか作戦会議。
「壊れた人ってどうやって治すの?」
「んー、やっぱお医者さんに聞いてみるのがいいんじゃないかな」
「電話かけてみよっか」
私のモットーは『思いついたら即行動、被害がでたら人のせい』だ。
というわけで早速病院へ電話してみることにする。
『――はい、タケダ医院です』
「あ、すいません。カカと申します。えっと」
トメ兄の症状は……
「顔を真っ赤にしながらよくわからない言葉を吐きつつ女子小学生を押し倒したりする成人男性の人って、どうやったら治りますか?」
『…………』
あれ、なんか向こうの人が黙った。
長い沈黙のあと、電話の向こうの人(女性)は無機質な声で答えてくれた。
『昔から馬鹿は死ななければ治らないと言われています。ですから――今すぐコロセそんな社会のゴミクズ』
ガチャン! と荒々しい音が響く……きられた。
「カカちゃん、病院の人なんて言ってた?」
「こ、殺せって……すごく怖い声で」
「だろうねー、あの言い方じゃ」
うんうん、とサエちゃんは頷く……なんかまずい言い方しちゃったのかなぁ。
「じゃ、お医者さんの言うとおりにする? 包丁もってこようか」
「え!? 待って待って! それはさすがに」
「冗談だよー」
あははーと笑うサエちゃんに背筋がゾクリとした……しびれるなぁサエちゃん、そこも好き。
「んー、でもそれじゃどうすればいいんだろう」
「三人で居間まで運んで、布団かけてあげればいいと思うよ」
サエちゃんはあっさりと無難な解決案を提示した。
「……あれ? 最初からそうすればよかったのに、なんでこんな長引いたんだろ」
「そのほうがおもしろいからだよー」
カラカラと笑うサエちゃんには、もう私ですら敵わないのかもしれない。
当然か。惚れた相手には敵わない、ってこないだテレビで言ってたし。
トメ兄の寝顔をつついていたサユカちゃんにも呼びかけ、私たちはだらしない兄を引きずっていった。