カカの天下110「寒い話集」
暑い。トメです。
夏が近づいてきたせいか、気温が妙に高いような気がしてなりません。これも温暖化の影響でしょうか?
「トメ兄……暑い」
「僕もだ……」
そして僕ら二人は日曜の昼、しかも快晴というシチュエーションで、不健康にも居間の畳の上でぐったりとへばってます。
「アイスほしー」
「太るぞー」
「そんなの気にしないー」
「太ったらなおさら暑くなるぞー」
「んじゃトメ兄が代わりに太ってー」
「意味わからねー」
ひたすらだらけきった会話が進む。
「水ほしー」
「飲めばー?」
「台所まで歩くのだるい……トメ兄もってきてー」
「僕もだるい」
「このナマケモノー」
「知ってるか? ナマケモノって何から何まで木にぶらさがってするんだってー」
「だからなにー?」
「やぁ、僕ナマケモノ! あ、木がないよ! ぶら下がれないよ! 動くこともできないよ! アハハ」
「くたばれー」
だって動くのだるいもん。
「ねー、トメ兄。なんか涼しい話してー」
「すげー難しいご注文をありがとー。ふざけんなー」
「なんでもいいのー。ほらー。怪談とかさー」
あー、そういうのなら……
「むかしむかし、あるところにおじーさんとおばーさんがいました」
「それ怪談なのー?」
「まぁ聞けー。おばーさんが洗濯していると川から桃が流れてきました」
「ももたろー?」
「おばーさんは桃を拾おうとして、足を滑らせて川に落ちて、死んでしまいました。ちゃんちゃん」
「いろんな意味で寒いけどー、というか少し悲しいけどー、つまんなーい」
「んじゃ次はカカが言えー」
「わかったよー。んじゃねー、むかしむかし、一人暮らしをしているサユカちゃんがいましたー」
「なんでサユカちゃんなのかはまぁどうでもいいやー。それでー?」
「だらしないサユカちゃんは久々に部屋の掃除をしていましたー。そして見覚えのある炊飯器を見つけましたー。それはつい先日失くしたものでしたー」
「なんで炊飯器なんか失くせるんだー?」
「人間はねー、いろんなものを失くしながら生きてくんだよー」
なんだその妙に深い発言はー。
「そしてサユカちゃんがその炊飯器をあけるとー、そこはゴキブリの巣になってましたー」
「…………」
「…………」
うん。
ふつーに怖い。
というか想像したら背筋がゾクッと……ちょっと涼しくなったけど不健康極まりない。
「てらてら油に光る虫が一斉に」
「続けなくていい!」
「じゃあ次はトメ兄の番ねー」
むー、今のは気持ち悪かったけど効いたな……じゃあ……
「僕の働いてる工場でさー、先週だったかな。同僚がローラーの機械に指はさまれて、そのまま腕の血管が全部引っ張られて、腕一本ダメになった」
「うあ」
あああ想像しただけで寒気が。
「次私かー。んとね、もしも姉のヌード写真集が発売したら」
「それは寒すぎるなー。じゃあこんなのはどうだ。タケダ君がカカに告白してきたら」
「タケダって誰だっけー」
返答からして寒いとはやるなー。
「しかも卒業式の晴れ舞台に乱入してきて叫ぶんだ。『俺はカカが大好きだ。いつまでも一緒にいよう!』って」
「それは北極並に寒いねー」
「シロクマもびっくりだー」
「それでさートメ兄」
「なんだーカカ」
「涼しくなった?」
「……心は冷えた気がしないでもないが、身体は暑いしだるいなー」
あんま意味なかったか……
「水飲みたい……トメ兄もってきてよー」
「いやだっての」
「もってこないと、もっと暑くするよー」
「どうやってー」
「トメ兄。大好き」
「……あい?」
「好き、大好き、愛してる! お兄様! 私の身体を好きにして!!」
「わかりました今すぐ持ってきますだから妙なこと言わないでください!!!」
僕は大慌てで立ちあがり、台所へ走った……なんちゅー高度な技を使ってくるんだこのお子様は!
「ね、トメ兄。暑くなったー? 寒くなったー? どっちー」
「黙れ」
とりあえずコップに入った水をカカの頭にぶっかけてやった。これで涼しくなるだろう。
間違いなくケンカが始まるが、知ったことか。
暑いのが悪い。