カカの天下108「カカ達のお祭り、後編」
「……お、カカ」
「……お、トメ兄」
「トメお兄さん」
「…………」
トメです。
お祭りにみんなで来たはいいもののはぐれてしまった僕らでしたが、再び見かけたバナナ仮面を追っているうちに見事合流を果たしたのでした。
「ふう、合流できてよかったよ。僕、今日は携帯置いてきたからさ」
「まったく、その歳で迷子なんて情けないったらありゃしない。勘弁してよね」
「迷子はおまえらだろが。おまえらのほうが子供だし」
「トメ兄達だよ。私たちは迷ってないもん」
「じゃあなにしてたんだよ」
「いちゃついてた」
ぅおい。
「トメ兄もでしょ」
「いや、僕は……」
僕ら兄妹は改めて互いの連れを見る。
「やけにべったりしてるなー、おまえら」
「カカちゃんが腕組んで離してくれなくて……」
困りながらも若干嬉しそうに言うサエちゃん。
「トメ兄とサユカちゃんこそ手繋いでるじゃん」
「いや、なんというか、変な仮面のやつのおかげで、仲良くなれた、と、思うんだけど」
そのサユカちゃんに視線をやるが……俯いたまま顔をあげない。
なんかさっきから会話をするたびにものすごく体力を使っていたらしく、力尽きてしまったみたいだ。顔が赤いのも疲れによるものだろう、多分。
「へぇ、ほぉ……」
「サユカちゃん、よかったね」
カカはサユカちゃんの顔を覗き込んでニヤニヤしてる。
サエちゃんは全てお見通しと言わんばかりにニコニコしている。
なんだこいつら。
「さて、せっかく合流できたことだし……もっかい屋台めぐるか」
「おーっ」
「輪投げだとさ。やるか?」
「私、やりたいです」
そう言って進み出たのはサエちゃんだ。
お金を払って、屋台のおっさんから輪をもらう。
「何ねらうの?」
「えい」
答えずに投げられた輪は綺麗な放物線を描き……僕の頭に乗った。
「トメお兄さんは私のものね」
「ちょっと待ったぁ!!」
あれ、サユカちゃんが生き返った。
「サエすけ! あんた今なんて言った!?」
「トメお兄さんは私のものだって言ったの。この輪に入ったものは何であろうと投げた人のものになるんだよー」
そりゃすげぇな。
「だからトメお兄さんの首は私がもらった」
武将か君は。
「じゃあわたしだって!」
サユカちゃんはサエちゃんから輪を奪い、僕の頭に向かって二つの輪を投げ……見事に僕の頭に乗る。っておい。
「二つ乗った! サエすけより多い! だからトメさんはわたしのもの!」
「ほいほいほい。さらに三つ乗った私の勝ち」
「あー! じゃあわたしも……もう輪がないっ。おじさん、輪っかもっとちょうだい!!」
「……いいかげんにしろやおまえら」
頭を、というか顔を輪っかだらけにした僕はどうしたもんか、とカカに相談しようとしたけど……
「サエちゃんが……サエちゃんがたかがトメ兄なんかを……許さない、呪ってやる……必要なのはイモリと……ねずみと……カマキリと……」
な、なんかいじけてる……のはいいんだけど地面に書いてあるのが「の」の字じゃなくて黒魔術の怪しい方程式っぽいのがなぜなのか気になるなぁお兄さんは!
とにかくこの騒ぎを止めてカカの機嫌を直さなければ!
「はいはいはい! サエちゃん、もういいだろ? サユカちゃんは元気になったんだから」
「はーい。悪ふざけがすぎたかな。ごめんねーサユカちゃん」
「……そうあっさり笑顔を見せられると怒ってた自分が馬鹿らしくなる……ほんと、いい性格してるねサエすけ」
なんで怒ったり元気になったりしたのかいまいちわかんないけど、まぁいいや。
とにかく、カカの機嫌を!
「カカ、なにか食べるだろ? 奢ってやるぞ?」
「……コウモリの牙と……悪魔のしっぽと……」
……食べるの? それ……
妙な呪いの儀式をたこ焼きとりんごアメで阻止して、僕らが次に行き着いたのは……
「風船割りだって。えーと……ダーツを投げて、風船を割ってポイントにする、だって」
「じゃ、カカちゃんは射的、私は輪投げでボケたから、次はサユカちゃんの番ね。はい、ボケてボケて」
「え、え、えーと……」
「サユカちゃん。そのダーツ僕に向けないで? ほんとにヤバイから」
「…………」
「ねぇ、なんで残念そうなの? しかもなんで三人とも同じ顔すんの? 余計なこと言うなよって顔しないでよ、なんか悲しくなるじゃん!」
と、そのとき。
腹にまで響く重低音が空から聞こえてきた。
「お、花火だ。サエちゃん、サユカン、いこっ」
「うん。この先の坂の上に見晴らしのいいとこがあるよー」
「えっ、ちょっと待ちなさいよっ! この風船割り、どうすんのよっ」
「サユカちゃん、花火もそんなすぐには終わらないから。のんびり行こう」
「あ、そ、そうですか……じゃあ、いきます」
急にしおらしくなったサユカちゃんの風船割りを見届けてから、僕はカカ達の後を追った。
ちなみに、風船割りの結果は全弾命中、ダーツが刺さりまくった。
風船の下にある、景品に。
もちろん景品はもらえなかった。弁償請求されなくてよかった……
そして、丘の上にある公園から花火を眺める。
僕ら四人は夜空を彩る花々を無言で見上げていた。
少し前まで肌寒かったのに、すっかり暖かくなった風。
重々しく、そしてどこか懐かしい花火の音。
お祭りの風物詩を堪能していた僕らの中で……カカがぽつりと呟いた。
「いいね、こういうの」
「ん」
僕はただ、頷いた。
今日は楽しかった。こんな大騒ぎのお祭りは姉が旅立ってからしたことがなかった。
こんな時間を、また過ごせたらいいと思う。
「ねぇ、トメ兄」
「なんだ、カカ」
「いまさ、花火の中でバナナのお面が見えた」
「……気のせいだ」
人がいい感じで浸ってたのに、不吉な影を落とすな。
僕はカカの言ったことを忘れるため、一心不乱に花火へ視線を注いだ。