カカの天下106「カカ達のお祭り、カカ編」
こんばんは、カカです。
いきなりですけどピンチです。今日はお祭り、トメ兄とサエちゃんとサユカちゃんと四人で仲良く出店をまわっていたのですが……
「はぐれちゃったみたい、だね」
「うん……そ、ソダネサエチャン」
「カカちゃん? なんかロボットみたいだよ」
仕方ないじゃん!
今日はお祭り! そして横には可愛すぎる浴衣姿のサエちゃん!
イベント中に好きな人と二人きり。
これはもうどこからどう見ても告白すべきシチュエーションでしょう!
いや、もういっそ暗がりに連れ込んであーれーよいではないかおだいかーんってやって押し倒してそれから……
ん? なんて言ったのかな。言葉の意味がよくわからない。
私は首をかしげて――仕方ないじゃん! と思ったあたりから何やらぼそぼそと耳元で囁いてきたその人に目を向けた。
「……あんた誰」
「えっと……通りすがりのお祭り怪人ですー」
私にいろいろと吹き込んできたそのお面をかぶった怪しい人は、そんなことを言った。
「カカちゃん、この人誰?」
「お祭り怪人だって」
「嘘だよっ!!」
いつもおとなしいサエちゃんが珍しく叫んだ。
「お祭り怪人っていうのは、頭にやきそばをかぶって鼻に綿アメつめて耳にフランクフルトさして口にひよこと金魚と亀をくわえてお面を股間にかぶってリンボーダンスしながら商売繁盛! って叫ぶ人のことなんだよ!」
……そこまで言ったっけ私。
というかそんな必死で……もしかして憧れてたりするのかな、お祭り怪人に。
「え、えっとー」
困惑しているらしい自称お祭り怪人さん。仕方ないなぁ、助けてあげるか。
「ま、この人がお祭り怪人っていうんだからそうなんでしょ」
「そ、そうですそうです」
「じゃ、とりあえずやきそばかぶろうか」
「え!?」
「お祭り怪人に変身するんでしょ?ならGOGO」
優しい私の助け舟に、自称怪人さんはなぜか焦った声をあげた。
「い、いやそのー。ちょっとそれはー」
「じゃあお面はあるわけだし、それを股間に――」
と、お面を触ろうとしたら物凄い勢いで手を叩かれた。
怪人さんはよほどあせっていたんだろう。それは手加減なしで、乾いた音がお祭りの喧騒の中でいやに強く響いて……痛さより熱さが手に滲む。
だけど。
それよりも鮮烈な音が響いた。
怪人さんは、ずれたお面を直そうともしないで呆然としているようだった。
私も呆然としていた。
それを見た周囲の人も呆然としていた。
ただ一人、サエちゃんだけがきつい視線で彼女を睨んでいた。
彼女の頬に平手を見舞った、サエちゃんだけが。
「カカちゃんに乱暴しないで」
「……あ、ご、ごめんなさ――」
「いこ、カカちゃん」
「へ、あ、うん……」
手を引っ張られながらも、私はまだ呆然としていた。
サエちゃんが、怒ってる。
「あ、あの、サエちゃん」
「なにー?」
さっきまでの厳しい表情はどこへやら。
いつもどおりのぽやーっとした表情で私と一緒に一パックのやきそばをつついている。
「もう、怒ってないの?」
「んー、一応」
い、一応?
「さっきはびっくりした。サエちゃんのあんな顔、見たことなかったから」
「私もあんなことしたの初めて。実は手の平、まだ痛い……ううん、熱いかな。どっちかというと」
えへへーと照れ笑いするサエちゃん。
「どうして、そんなに、怒ったの?」
私の疑問がよほど意外だったのか、サエちゃんはきょとんとしたあと、
「カカちゃんは、私が乱暴されたら怒らないの?」
そんな、口にするまでもないことを口にした。
そう、だよね。
言うまでもないよね、そんなこと。
私はサエちゃんの手を握った。
まだ熱さが残るという手を。
その熱さを確かめるように。
「それにしても、なんだったんだろ、あの怪人」
「どこかで聞いたことがあるような声だったんだけどなぁ……」
「今度会ったらどうする?」
「とりあえず焼きソバを頭にかけてあげよっか」
「サエちゃん、まだ怒ってる……?」
「お面してたから人違いに気をつけないとね」
「……ほんとにね」