カカの天下104「カカ達のお祭り、前編」
「ね、トメ兄。今度お祭りあるんだって」
「ああ、知ってるぞ」
あるんだってトメです。別に芸名じゃないよ?
ただいまカカと二人して夕飯を食べています。メニューは……しょぼいんで聞かないでください。
「みんなで行くか? サエちゃんとかサユカちゃん誘って。うわ、両手に花だな僕」
「私もいれて三人だから背中にも花だね」
「背中……カカに花のトゲで刺されるような気がするのはなぜだろう」
「刺すに決まってるじゃん」
「決まってるんすか」
「こんな納豆ご飯と野菜ジュースなんていう夕飯出されたらそりゃ刺すよ」
それだけで刺すのかー、キレるお子様時代ですかー、というかせっかくこの夕飯状況を見ないようにしてたのにコイツはー。
「お祭り行くのはいいけど、使うお金あるの? ウィンドウカーニバルなんて寂しいことするくらいなら行きたくないよ?」
ウィンドウショッピングの祭りバージョンか……それは確かに拷問だ。でも言葉を聞くだけならなんとなく楽しそうだから不思議だ。
「ま、明日給料日だから大丈夫だよ」
「じゃ明日の夕飯はマンカンゼンセキだねっ!」
「んなもん食ったら一瞬で給料消えるわ。大体、意味わかってるのか」
「満(一万人の)漢(おとこ達が)全(全裸で)席(席に座って食べる料理)でしょ?」
「由緒正しい中華の宮廷料理をよくそこまで変態料理にできるなおい」
「姉がそう言ってたけど」
「姉の言うことは九割がキワモノなんだから信じちゃいけません」
「じゃあ正しい意味ってなにさ」
「中国が清朝のときの満州族の料理と漢族の料理のうち、山東料理の中から選りすぐりのメニュー並べた宴会様式だよ。現代で中華料理屋で出されるやつはその頃の想像を膨らませて作ったのが多いらしいけどな」
「……なんでそんなに詳しいの」
「へ? いや、その……ほら……僕も、食べたいって思ったこと、あるし」
兄妹で考えることは一緒だよなぁ。
「で、結局お祭りは大丈夫なわけね」
「おう、少しくらいなら奢ってやれるぞ」
「じゃ、お祭り全てのタコ焼き屋さんをまわろう」
「全部買うのか?」
「うん。伝説のタコのないたこ焼き屋を探すの」
「見つけてどうするんだ?」
「おうおうアンちゃん! このたこ焼きどうなっとるんや!? っていちゃもんつけるの。お祭りの風物詩だって姉が言ってた」
「だから姉の言うことは聞いちゃいけませんとあれほど言ってるだろ。あいつの声はマンドラゴラの叫び声とでも思ってだな」
「聞いたら死ぬじゃん」
「だから聞くなってことだよ」
「だって聞いてるとおもしろいもん。それで行動して失敗しても姉のせいにできるし」
……ほんと、いい性格してるよなぁコイツも。
「とにかくな。お祭りの風物詩といったら射的とか」
「射的でお兄さんを当てて、あなたは私のもの……逃がさないわ! って押し倒すんだよね」
「やるのか?」
「冗談だよ。私が男に興味あるわけないじゃん」
や、その返しもどうかと。
「あとは綿アメとか」
「綿アメを固めて鼻につめるとおもしろいんだって。トメにやってあげるね」
「焼きソバとか」
「頭にかぶって髪の毛に」
「フランクフルトとか」
「耳にさして」
「ひよこ釣りとか金魚釣りとか」
「釣ったのを口にくわえて」
「お面とか」
「股間につけて」
「喧騒をBGMに」
「どじょうすくいを踊り狂えばりっぱなお祭り怪人だねっ!」
「人はそれをりっぱな変態と呼ぶ」
そんなこんなでくだらないことをいいながら話は進み、カカはサエちゃんとサユカちゃんを誘っておく。僕は姉とサカイさんを誘っておくこととなった。念のため、大人は多いほうがいいということだ。
「大丈夫。お祭り怪人が出るって言えばみんなきっと来るよ」
「そりゃ来るだろうさ。本当に出るなら」
「出るよ。ていうか出すよ」
「やめれ」




