カカの天下101「宝探しの家捜し」
ただいま、トメです。
何がただいまかというと、会社から帰宅したところだからです。
そして日課になっている玄関のホワイトボードに目をやります。そう、カカがレンガを拾ったのをきっかけに購入された、すでにラクガキ帳と化しているあのホワイトボードです。
なにげに毎日更新されているからちょっとした楽しみなんだよね。
昨日は「走れとうがらし、あと一歩」で一昨日は「忍法ミソにこみ、覚悟しろうどん」でその前は「ゴリラとドッジボール」だったか。さてさて、今日は……いつものと違って結構長いな。
『宝探しゲーム! この暗号を解いて宝を見つけよう! 早く見つけないと宝は萌えてしまうよ!』
宝探しか……この『萌え』という部分は果たして狙いなのだろうか。宝は何に萌えるんだろう。というか宝ってなにさ。まぁどうせ大したものじゃないだろうけど……
『ちなみに宝はトメのキャッシュカードです。萌へ〜』
大したことありすぎる上にちっとも萌えやしねぇしっ!!!!
なぜ? ホワイ? いつどこで盗まれたんだ……カードをいつも入れてる財布の中を急いで確認してみるけど……ない。そういえば昨日銀行から下ろしたよな……そのときたしか、そう、ポケットに入れた。しまった入れっぱなしにしててそれをカカが見つけたのかっ。
なんてマヌケな!!
……自分のマヌケさを悔やんでも仕方ない。クールになれトメ。所詮は小学生の作った暗号だ。簡単に解いてやる。なになに……
『ままおままままましまいまままれまままのなままかままま』
ふむ、これだけ『ま』の文字が多いということは『ま』を抜くんだろう。タヌキと似たような暗号だ。
『ま』を抜く。
『ま』を抜け。
マヌケ。
「クールになれねええええええ!!!!!」
たった今自分で悔やんだことを改めてカカに言われた気がして、メチャクチャ腹が立って思わず絶叫してしまった。暗号が簡単すぎるのも逆にムカつく。
はぁ……落ち着こう。ほんと落ち着こう。暗号が解けてよかったじゃないか。僕の宝、というか財産はおしいれの中だ。
僕はキャッシュカードが萌え要素になってしまう前に(どんな風になるのか見てみたい気もするが)急いでおしいれをあけようと玄関を突っ切り――気づく。
「おしいれって、どこのだ」
とりあえず客間のおしいれを開ける。ない。
かつて姉の部屋で今は倉庫になっている部屋のおしいれを開ける。ない。
開かずの間の部屋は開かないのでわからない。でも開かないからおしいれがあるのかもわからないから別にいいだろう。そういやなんでこんな部屋があるのだろう。あれ、考えようとすると頭が痛い……気にしないでおこう。
さて、と。まさか勝手に開けてないだろうなぁ、と思いつつ自分の部屋のおしいれを開ける。そりゃいい歳した男性ですから。押入れの一部にはお子様には見せられないものも多少隠してある。カカのやつ、キャッシュカード隠そうとして偶然見つけたりしてないだろうな……と、探してみてもカードは見当たらない。
と、なるとだ。残りはカカの部屋しかない。正直、勝手に妹の部屋のおしいれを開けるのはいろいろとヤバイ気がするが今回は緊急事態だ。
いそいそとカカの部屋に入る。
そういやカカいないな。ホワイトボードに書き込んだということは一度は小学校から帰ってきてるはずだけど。
などと考えながら、おしいれを開けた。
果たして、そこには……
「萌える宝、参上!」
「萌えねーよ」
布団の代わりに詰まっていたカカをとりあえず蹴飛ばす。
「いたっ! なにトメ兄。家庭内暴落?」
「ああ、おまえの株が大暴落だ」
「カブの漬物っておいしいよね」
「かぶっとかじるとうまいんだなこれが」
静寂。
はい、話戻そう。
「カカ。おまえな、遊ぶのはいいけど、やっていいことと悪いことがあるぞ」
「ポケットに大事なカード入れたまま洗濯カゴいれるのはいいこと?」
……痛いところを。
「……そうだよ。ちょっと汚れてたから洗おうと思ったんだ」
「そうなんだ。そりゃ綺麗スッキリするだろうね。懐が」
……いや、カード失くせば全部終わりってわけじゃないけど……入れっぱなしにしてたのは確かに僕が悪かったしなぁ。
「……はいはい、悪かったよ。さ、ちゃんと宝見つけてやったんだからカードよこしな」
「ないよ」
「……はっ!?」
「私が宝だもん。トメ兄の宝だよね?」
「僕の全財産より価値があるとでも?」
「ないの?」
「……カカと八万円、どっちが高い? むむむ……」
そこ、貧乏とか言わないでね。
これは僕の口座の話であって、我が家全体の口座は別にあるんだから。
「トメ兄と八万円だったら、迷わず八万選ぶなぁ」
「僕は八万円以下か」
「少なくとも日曜日は」
「なぜに」
「稼ぎがないから」
「……言いたいことはいろいろあるけど、いいから返せよ」
「カード? だからおしいれの中にあるって言ってるでしょ」
「……? そのおしいれの奥にあるのか?」
「トメ兄の部屋のおしいれの、紺色の水着の人が表紙の本の真ん中あたりにはさんで――」
兄キック!!!
カカを吹っ飛ばして僕はマッハで自分の部屋へと走った。