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カカの天下  作者: ルシカ
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カカの天下1「カカと言葉」

「ねえ、トメゾー」


「実の兄を呼び捨てにするな妹。あと僕の名前はトメであって、そんな時代劇にありそうな名前じゃない」


「そのおばあちゃんみたいな名前よりはいいと思うけど」


「……あえて遠まわしに言ったのに、はっきり言いやがりますかお嬢さん」


 とんちきな会話を始めたのは僕、笠原留の妹、香加カカです。


 今年で小学三年生になる、言動と性格が結構ユニークな子供です。まあ、最近の子供は皆そんな感じなのかもしれないけど。


「でさ、トメゾーばばぁ」


「おかしな呼び名を足すでない。わしゃまだ若いんじゃ」


「これ、なんて読むの?」


「せっかくノッたんだから反応しろよ」


「このクソババァ」


「てめぇ」


 そんなことを言いつつカカが差し出してきたのは、手に収まる小さなサイズの小説だった。ライトノベル――世間では気軽に読まれているらしいが、僕はあまり読んだことはない。


 とはいえこれでも二十歳を越えているので、漢字はそれなりには読める。


「どれどれ」


 『嘘』か。


「うそ、って読むんだよ、妹」


「ふーん、なるほろ。『口』にするのが『虚』しいってことですな」


 そんな漢字が読めないガキのわりには難しいことを言う。


「ねえねえ、トメキチばばぁ。これはー?」


「微妙に変形してるその名前はどっからくるのですか我が妹よ」


「これはこれはー?」


 僕のツッコミをことごとく無視してくれて本を押し付けてくるカカ。


 いつものことなので別に怒りはしないが、そんなに鼻の頭に押し付けられては読もうにも読めませんことよ? ってこれババァじゃなくてお嬢口調だな。おほほ。


「ばばぁー、ばばぁー! ばっばぁぁ!!」


「連呼しない! 本を少し離しなさい! 字を読むときは適度な距離を保つべし!」


 断っておくけど僕の喋り方が微妙に個性的なのは、カカへのツッコミが毎日毎日毎日続いて普通の喋り方に飽きたからである。断じて地ではないのでよろしく。


「どれ……『錯覚』さっかくって読むんだよ」


「なるほろ。意味は、お『金』のことはどんな『昔』のことでも『覚』えてる、ってことでおっけ?」


 可愛く小首を傾げるカカは本当に素直だ。いや、ひねくれてるのか? どっちだろう。


 そんな無意味な問いをぼさっと考えていると、カカが本を音読し始めた。


「えっと、『友人に五千万円を貸したと錯覚した』」


 ……どういうお話をどうしたらそんな文章が出てくるのだろう。


「そんなにお金を貸したら、誰だって覚えてるよねぇ?」


 やれやれ、と大人ぶってるカカはまるっきりマセてるガキにしか見えないし、意味も勘違いしまくっているのだが……訂正するのも面倒なので放っておこう。


 保護者の義務だって? そんなのは生ゴミにでも出しといておくれ。僕は元来てきとーな性格なのさ。そんな責任重そうな役割を担うつもりはないのである。可愛いから食わしてやる、それでいいのだ。


 可愛くなくなったらどうするか? それはそのとき考えよう。ところで保護者の義務って生ゴミで合ってるのかなぁ。今度、業者に聞いてみよう。


「のう、トメさんや」 


「なんだいカカさんや」


「『死を錯覚した』っていうのは生命保険がからんでるのかな」


「カカ、生命保険の意味わかってるか?」


「死んだら儲かる」


「身も蓋もないなオイ」


「『その錯覚は囮さ!!』っていう文は、お金がにせ札だったってことかな」


 複雑なトリックの探偵物でも読んでるのかな。どうでもいいけど錯覚って言葉多いな。一体どういう内容の本なんだか。


 というか囮って漢字はわかるのね君。


「『サッカーを錯覚』」


 しまいにはダジャレかい、しかもつまらん。


「さっかく……サッカー食う?」


 食うな。


「あのな、妹」


 観念して本当の意味を教えてあげよう。


「おまえの『錯覚』という言葉の使い方は間違ってる」


「や、それは錯覚だよ」


「そんなわけないだろ。いま言った『錯覚』の使い方だって間違って――ないじゃん」


 この小娘、まさか。


「知ってて遊んでた?」


「えっへん」


 ……こんなふうに、僕は変な妹となんでもない日常を過ごしている。




 おまけ。


「あ、もしもし。業者さんですか?」


『はい』


「保護者の義務って生ゴミであってますか?」


『あってます』


 生ゴミすげぇ。




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