王子様をキラキラさせる「背景演出師」に弟子入りしました 〜誰も気づかない無自覚ハイスペ魔法使いに一番大切な令嬢として溺愛されるまで〜
「きゃああっ! レオンハート殿下!」
「今日もなんて素敵な輝きなの……!」
城のバルコニー。
キラキラを背にレオンハート殿下が登場する。
彼の微笑みと星のように煌めく『キラキラ魔法』が完璧な演出で展開されている。
令嬢たちは、殿下の眩いばかりの姿と、その背負う輝きに陶酔している。
――でも、私は知っている。
違う。あの魔法は、殿下ご自身のものではないわ。
幼い頃から魔力の流れを見るのが得意だった私は、気づいていた。
殿下の影、さらにその背後の柱の陰に、魔力の源があることを。
誰かが、完璧なタイミングで殿下のために魔法を発動させている。
姿も見えず、誰にも気づかれず、ただ殿下を輝かせるためだけに存在する。孤独な魔法使いがいる。
なんて……なんて素晴らしい方なの……!
周囲の令嬢が殿下に見惚れる中、私は一人、その完璧にコントロールされた『背景魔法』の発動者に心奪われていた。
形、大小、輝かせ方、魔法の範囲……すべてが殿下の動きと呼吸を合わせている。
これほどの使い手が名誉も賞賛も得ず、ただ陰に徹しているなんて。
私は、殿下の背景を飾るその『キラキラ魔法』に憧れて。
自分でも必死に練習を始めた。
いつか、あの素晴らしい魔法使い様のように、完璧な輝きを作り出せるようになりたくて。
夜、自室のバルコニーでキラキラ魔法の練習をした。
「はぁ……。やっぱり、あの方のようにはいかない……」
指先に集中して魔力を練り上げるけれど。
殿下の背景のような、目を奪われる輝きが出ない。
溜息をつきながら夜空を見上げた。
その時だった。
私の瞳に、夜空の星ではない、見覚えのある輝きが映った。
「え、あれは……!」
間違いなくあのキラキラ魔法!
貴族街のどこか、屋敷のバルコニーから放たれている。
胸が高鳴るままに、ナイトドレスの上にケープマントを引っ掛け、屋敷を飛び出し魔法の光を目印に駆けていた。
近づくほどに確信する。キラキラの完璧さ――
辿り着いたのは、エーデルガルト伯爵家の屋敷。
二階のバルコニーに、一人の青年が立っている。
陰のように黒い髪と黒い瞳。
王家の側近が着るような黒いスーツに身を包んだ彼は無表情に、驚くほど精密な魔力操作で、夜空をキラキラと輝かせている。
あの方が……! 殿下の後ろにいる、本物の魔法使い様……!
立ち尽くして見惚れていると、彼と目が合った。
彼は驚いた顔をして、すぐに魔法を消した。
私が貴族の礼をしてみせると、彼も優雅に礼を返してくれた。
その瞬間、胸が甘く、激しく高鳴った。
初めての感覚……その衝撃に動けないでいると。
彼はすぐに門のところまで降りてきてくれた。
近くで見ると、冷ややかだと思っていた瞳はとても優しくて、そして驚くほど整ったお顔と姿をしていた。
「こんばんは。私はエーデルガルト伯爵家のリックと申します。殿下の……側近をしております」
「リック様……はじめまして。私はルシアと申します」
私が名乗ると、彼は少し首をかしげた。
やっぱり、私の存在など知らなかったのね……
殿下の側近として、常に陰に徹してきた彼には、周囲の令嬢など目に入っていなかったみたい。
「どうぞ、お入りください」
彼は私を庭のベンチに招いてくださった。
秘密の魔法使い様が、私の目の前にいる。それだけで、心臓が爆発しそうだった。
「ルシア嬢。突然訪ねてきた理由をお伺いしても?」
「はい。リック様、あなたの魔法を見て、思わず来てしまいました。ここからでもわかるほど素晴らしいキラキラ魔法でしたわ」
私が心からの賛辞を伝えるとリック様は意外そうな顔をした。
「……私の魔法を? 褒めていただけて嬉しいですが、あれは、殿下のキラキラ魔法を真似たものですよ……私の魔法などではありません」
リック様の言葉に、私は首を振った。
彼は陰に徹しようとしている。そして、自分の技術がどれほど特別か、理解していないんだわ。
「いいえ。私は知っていますわ」
私は意を決して、彼を見つめた。
「殿下の背景を飾る、あの完璧なキラキラ魔法。あれは、リック様、あなたが出しているのでしょう?」
リック様の黒い瞳が大きく見開かれた。
「……なぜ、それを?」
「私、魔力の流れを見るのが得意なんです。いつも、殿下の陰から素晴らしい魔力が流れているのを感じていました……ずっと、尊敬していたんです。誰も気づかない場所で、あんなに完璧な役目を果たされている、あなたのことを」
「……!」
リック様は息をのんで私を見つめていた。
やがて、その瞳に微かに涙が浮かんで、彼は顔をそらした。
「……知りませんでした。気づかれているなんて……ずっと、孤独でした。殿下にさえ "あ、ここに居たの?" と言われる始末で。自分は誰からも見えない、ただの陰なのだと……」
彼の絞り出すような声に胸が締め付けられる。
なんて尊い、そしてなんて悲しい孤独。
「私は見ていましたわ!」
私は思わず、彼の両手を握りしめていた。
「殿下が輝いているのは、リック様、あなた様がいるからですわ。あなたが誰よりも完璧に役目を果たしていらっしゃるから、皆、幸せな夢を見られるのですわ。私は、殿下よりも、その陰で支えるリック様の方が、ずっと……ずっと素敵だと思います!」
リック様がゆっくりと私の方を向いた。
握りしめた手から、彼の体温が伝わってくる。
彼の瞳の中の孤独が、私の言葉で、少しずつ溶けていくのが見えた。
「ルシア嬢……あなたが、私のことを見つけてくれたのですね」
リック様は、生まれて初めて心から笑ったような、そんな眩しい笑顔を見せてくれた。
その笑顔は、どんなキラキラ魔法よりも、私の心を強く惹きつけた。
「よろしければ……リック様の素晴らしいキラキラ魔法、私に教えていただけませんか? 憧れの先生に、習いたいですわ」
「……もちろんです、喜んで。私の魔法、全てあなたに伝授します。このことは二人だけの秘密ですよ」
私たちは、月明かりの下で、次の約束を交わした。
片想いだと思っていた憧れが、確かな恋へと変わった瞬間だった。
それから、リック様との秘密のレッスンが始まった。
お父様とお母様は、エーデルガルト伯爵家との交流を喜び、リック様を歓迎してくれた。
レッスン中のリック様は真剣でそして驚くほど優しかった。
彼の手が私の手に触れ、魔力の流れを正してくれるたび、心臓が跳ね上ってしまう。
落ちついて……!
弟子でいなきゃと心に言い聞かせていた。
それでも、
「さぁ、鏡の前へ。まずは私がルシアをキラキラさせてみせます」
リック様にキラキラ魔法をかけてもらえて。
鏡のなかの私がキラキラの輝きを背景にいる姿!
夢見た理想の光景を目にして感情がおさえられなくなった。
「わぁっ、凄いですわ! 綺麗なキラキラですわ~!」
レッスンなのを忘れている私に、
「そんなに喜んでいただけると、私も凄く嬉しいですよ」
リック様は可笑しそうに微笑み、そしてふと、切なげな微笑みになった。
「殿下も、初めてキラキラ魔法で輝かせた頃は凄いと喜び褒めてくださっていました……私も、とても嬉しかったのを思い出しました。今はそんなこともなく、私も使命感だけで輝かせてきましたが……ルシア、あなたを見て、キラキラ魔法を使うことの真に大切な気持ちを思い出せた、ありがとう」
「リック様……」
私がリック様の気持ちを呼び起こした。
陰に徹していて孤独に苛まれていた瞳がキラキラしている。
もっと、輝かせてあげたい!
「今度は、私が! リック様をキラキラさせてみますね!」
笑顔で言ってから真剣な眼差しで。
リック様の背後を、優しく美しく、どうか完璧に――
キラキラの星々が私の想いに応えるようにリック様を輝かせていった。
「わっ、私が! キラキラさせていただけるとは! 光栄ですよ、ルシア!」
リック様は鏡のなかのご自分の姿に狼狽えていらして。
それでも、とびきりの嬉しそうな笑顔をみせてくださった!
「私の放つ、殿下の眩いキラキラとは違いますね……」
リック様は真剣な瞳にもなりキラキラを分析しはじめた。
「さすが、魔力の流れを見るのが得意だけあって素晴らしい魔法使いだ。星形も上手くできているし、大小のバランスもいい、瞬きも繊細な動きで、キラキラさせる対象のことをよく観察し考えている」
私がリック様のことを……!
どう見て、どう考えているか。気づかれてしまわれないかしら?
期待と緊張にドキドキしていると、リック様は微笑みかけてくれた。
それは、師匠の優しい微笑みで……私を弟子として落ち着かせた。
「ルシアは筋が良いですね。もうすぐ、瞳の動きだけで発動できるようになりますよ」
「本当ですか? リック先生のおかげですわ」
褒められただけでも充分、嬉しい!
気を取り直して真剣にレッスンを続けましょう。
お茶の時間には、リック様が私のために、ケーキをキラキラと輝かせてくれた。
私だけのために使われる、世界一の魔法……!
「ありがとうございます、リック様。私、私だけでなく令嬢の皆さまが、この魔法を自分で使えたら楽しいだろうなと思っていたんです。でも、リック様に出会ってからは……」
私は溢れる気持ちを抑えきれなくなって。
彼の顔を見れなくなりながら。
そっと告白した。
「この秘密の魔法を、私とリック様、二人だけのものにしていたい、なんて……ズルいことを考えてしまいますわ」
リック様は驚いた顔をして、それから私を優しく見つめてくれた。
「ズルくなんてありませんよ。私も、同じことを思っていましたから……」
リック様は微笑んで私の手を握ってくれた。
あ、繋いだ手から、小さな星がキラキラと出てくる。
浮かび上がっては消える可愛くて綺麗なキラキラ……
凄くロマンチック。そんな風に思える特別な演出?
リック様……?
真剣な眼差し――
「殿下は、この魔法を "一番大切な女性" にだけ教えていいと言っておられます……ルシア。あなたは私にとって、誰より大切で、愛おしい女性です」
「リック様……!」
「私を見つけてくれて、私の孤独を救ってくれた。あなたこそ、私の運命の人です……愛していますっ、ルシア、私と婚約してください」
リック様の輝きに満ちたプロポーズ――
私の、キラキラを通した想いは、ちゃんと届いていたのですね……!
嬉しさのあまり涙が溢れて止まらない。
涙のせいかしら? リック様がキラキラしてる!
まるで――本当の王子様みたい。
「はい……!」
誰よりキラキラしている、私の王子様!
「はい、リック様。喜んで! 私も、あなたを愛していますっ」
私たちは、私たちが作り出した、世界一美しいキラキラ魔法の中で、初めてのキスをした。
翌日、城のお茶会で、リック様のお役目を見学した。
キラキラと輝く殿下――
歓声が私まで特別な気持ちにさせてくれる。
私の婚約者様が、あの背景を演出している、国中の人々が見惚れるキラキラの殿下を作り出している。
殿下の陰に……私だけが知っている秘密の幸せがありますわ。
一人満たされる私の元に、お役目を終えたリック様がさり気なくやって来てくれた。
「いかがだった?」
こっそりと聞いてくるリック様に、
「素敵でしたわ。太陽の光と、とても綺麗に調和していて、美しい白昼夢のようでした」
私もこっそり感想を伝えて。
思い出してうっとりしていると、
「ありがとう……今日は、君に喜んでもらうためにも張り切ってしまった。心の高ぶりが魔法を乱さなくてよかった……」
リック様……私のためにもなんて……!
「完璧なキラキラでしたわ……!」
「嬉しいよ……!」
私たちはこっそり見つめあっていた。
「お茶会が終わったら、少しここで待っていてください。ルシア、君を殿下に紹介したい」
リック様は驚く私に微笑んだ。
お茶会の後、通された部屋に殿下がいらした。
「殿下、私が唯一キラキラ魔法の秘密を教えた女性をお連れしました。ハルシオン伯爵家のルシア嬢です」
リック様の言葉を聞いて殿下は私に優しく微笑みかけてくださった。
「ルシア、祝福と共に歓迎するよ。今日から君はリックの婚約者であるだけでなく、私とリックとキラキラ魔法の秘密を共有する仲だ。いいね?」
「はい、殿下。光栄です……!」
緊張しつつ礼をすると。
殿下は大きくうなずいてから、リック様に顔を向けた。
「心配していたんだ。リックは最近、何か悩んでいるようだったし、時々お役目の合間に居なくなるし、もしかして、私をキラキラさせるのを止めて別の者のことを輝かせるつもりなんじゃないかと……」
リック様は殿下の予想に驚かれた。
「どこかに行きだしてからは、生き生きしだしたというか、リックの瞳がキラキラと輝きだしていたから……」
殿下もリック様の変化に気づいていらしたのね。
「リック自身もキラキラさせてくれるような相手にリックのキラキラ魔法が移ってしまったら……私は王子としての輝きを失い、リックのキラキラさせる者が国一番輝きを放つ者になってしまうかもしれないからね」
殿下は冗談交じりに笑い、けれど、真剣な瞳だった。
リック様のキラキラ魔法がどれほど殿下にとって重要か、私にもよくわかった。リック様も……キラキラと揺れる瞳で殿下を見ていらっしゃる……
「リック、居なくならないでくれてよかった!」
「殿下……」
感情を爆発させて泣き顔になった殿下!
リック様も私も驚いて目を丸くするしかできませんわ……!
「お前が居なくなったら、私は凄く困るんだよ! わかってる!? 自分の重要性! リックはずっと私をキラキラさせてくれると思ってたからっ、居なくなったらダメなんだよ!?」
「わかっています、殿下。私は、どこにも行きませんよ、ずっと、あなたの陰にいます。ご安心ください!」
子供のように泣きつく殿下にリック様も泣きそうになりながら、抱きあった。
「殿下……最近は、私の存在などそれほど重要視しているとは思いませんでした……陰に控える私に "あ、居たの?" などと言ってくるから」
「それは、本当に居ることに気づかなかったからだよ! リック、気配消すの上手すぎる!」
なんだ、存在を消してるリック様に本当に驚いていらしたのね。
ほっとしたり可笑しくなったりで、私とリック様はそっと苦笑いを交わした。
それから、リック様と殿下は顔を見あせて。
友人のような笑顔を交わしていらっしゃるわ。
殿下はようやく安堵した様子で、私にも笑顔をみせた。
「リックがこっそり会いに行っているのが君でよかったよ。キラキラさせたい気持ちもわかる、美しい令嬢だ」
「で、殿下っ」
冷やかすような笑顔を向けられて。
私とリック様は恥ずかしくなり、二人で慌ててしまった。
「ははは、息ぴったりの二人だね。恋人としてだけでなくキラキラ魔法の使い手としても、どうかな? ルシア、君はリックからキラキラ魔法を学び、使いこなせるようになったそうだね」
「はいっ……」
使いこなせる……
少し不安になり、リック様を伺うと、優しく微笑んで力強くうなずいてくれた。
「ルシアは私に匹敵するキラキラ魔法の使い手になっています」
リック様の断言に私はほっとして、殿下は満足そうにうなずいた。
「ルシア、君にもお役目を任せたい、どうか、頼むよ。引き受けてくれるだろうか?」
私はもう一度、リック様と瞳を見交わした。
それから殿下に向き直った。
「はい、光栄でございます。私にもお役目をくださいませ!」
こんなに強く自分の意思を殿下に見せる日がくるなんて――
殿下は、嬉しそうにうなずいてくだった。
「ありがとう! 君にキラキラ魔法での背景演出を任せたいのは他でもない、私の婚約者エリザだ」
殿下の隣に美しい令嬢が優雅にやって来た。
キラキラ魔法で輝かせるのに相応しい人だと一目でわかる、そんな人ですわ……
私が、この方をキラキラさせたい!
そんな強い気持ちを感じる……これが、殿下をキラキラさせているリック様が持っている使命感というものかしら?
私もこれからは――!
「私たちで、お二人をキラキラさせてみせます」
リック様と一緒に誓った。
殿下とエリザ様の婚約発表パーティーが開かれる。
私たちは約束通り二人で演出することになった。
殿下の後ろにリック様、令嬢たちの中に私。
寄り添いあって立つ殿下とエリザ様に、人々の視線が集中する――
今ですわ、リック様!
瞳の動きだけで発動させたキラキラ魔法!
完璧なタイミングで、私とリック様、二人の魔力が合わさっていく。
殿下とエリザ様の背景のキラキラが交じりあっていき――
大きなハートのキラキラが完成した!
会場は、今まで見たことも聞いたこともないような驚きと大歓声に包まれた。
「完璧だったよ、二人とも! 最高の演出だ!」
パーティーの成功の後、四人だけの部屋で。
殿下は私とリック様をめいいっぱい称賛してくださった。
エリザ様も、感動の涙を流して喜んでくださっている!
「これからは二人で、私たちを輝かせてくれ」
殿下のお言葉に、私たちは顔を見合わせ、幸せな笑顔で答えた。
「はい、喜んで!」
パーティーを無事終えた夜、お城のバルコニーで、リック様の隣で夜空を見上げた。
「本物の星も美しいけれど、ルシアの作ったキラキラの方が、私は好きだな」
リック様が私の肩を引き寄せて、耳元で囁いた。
私は顔を赤くしながら彼の胸に寄り添った。
もう、彼は陰の存在じゃない。
私が見つけた光、世界一かっこいい、私の魔法使い様――!
「私、リック様の隣で、一生キラキラしていたいですわ」
「一生、君を誰よりもキラキラ輝かせると誓うよ」
瞳と瞳が合った瞬間、完璧なタイミングで。
私たちは、永遠に輝くキラキラのなかで、誓いのキスを交わした。




