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みにくい顔だと思い込んでいるお姫様のおはなし  作者: 星野 満


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12. バークリー家の侍女見習いになるお姫様

 ✧ ✧ ✧ ✧



 翌日からアンヌ(デイジー姫)は大奥様のお抱え付き侍女見習いとなりました。


 まずは女中頭(じょちゅうがしら)のマリラがアンヌ(デイジー姫)を指導するようにと、大奥様は命じました。


「いいですかアンヌさん。この屋敷に来た以上あなたを客人ではなく、この家の侍女として働かせるようにと、ある方から命じられました」


「ある方とは?」思わずデイジー姫は聞きました。


 ──ある方ってお父様(国王)かしらと?

 デイジー姫は大奥様の言葉が少しひっかかったのです。


「それはいえません。ただ──」大奥様は銀縁眼鏡(ぎんぶちめがね)をキラリと光らせて、少し冷たく言いました。


「アンヌさんはデイジー王女の侍女とはいえ、由緒あるグランサム家の令嬢ですわね。もしもアンヌさんがこの屋敷の侍女が嫌というなら、いつでも実家にお戻りくださってもいいのよ」


「あ、いいえ、とんでもない!」デイジー姫は慌てふためきました。


「あの……大奥様、私、仰せの通りに侍女でも何でも致しますわ!」


 そりゃそうです。デイジー姫はこの屋敷においてもらわないと困る、この先いく宛てなどありませんからね。


 それにデイジー姫はもちろんアンヌではないし、そもそもアンヌの実家がどこにあるかさえ知らないのです。


「どうか奥様……今後共(こんごとも)よしなに、どうかお願いいたします!」

 とデイジー姫は咄嗟(とっさ)に大奥様に向かってカーテーシー(お辞儀)をしました。


 カーテーシーとは貴族令嬢のお辞儀です。

 片足を内側に引き、もう片足の膝を軽く曲げて、両手でスカートの裾を軽く持ち上げます。


「ほう、これはこれは……」と思わずダルタニアンが見惚(みと)れるくらい、それはそれは優雅なカーテーシーでした。


 本来、侍女は雇い主にカーテーシーなどしません。

 立ったままの姿勢で腰を折る丁寧なお辞儀(ボウ)のみでした。


「ふふ、可愛らしいけど。侍女ならば、まずその仰々(ぎょうぎょう)しいお辞儀から直さないといけませんね」


 大奥様はにこりと笑って、チリリンと呼び鈴を鳴らしました。


 すると応接間には続きの部屋があり、奥の扉が開くと一人の中年の夫人が入ってきました。

 みると背が高く角ばった体つき、茶色のドレスを着ていました。


 女性というには、とてもいかつい顔立ちです。

 白髪交じりの黒髪を後ろにひっつめにして、黒目は小さいが鼻の穴が大きい。

 口元は大きく口角は下を向いていました。


 これまた物腰が柔らかい雰囲気の大奥様と違い、見るからに怖そうな雰囲気でした。



 ──なんだかあれね。この人、カ(・)バ(・)に良く似てる。


 デイジーはいかつい夫人を見て、子供の頃、絵本で見た動物のカバを想像しました。


「こちらは侍女頭のマリラ。屋敷の侍女たちは全てマリラに任せています。今日からマリラがアンヌさんの教育係となります。これからは彼女の指示に従うように」


 そういって大奥様は、デイジー姫にマリラを紹介しました。


「初めましてアンヌ様、マリラです。失礼ですが、アンヌ様がバークリー家の侍女見習いになるならば、これからは、ただア(・)ン(・)ヌ(・)とお呼びします」とぶっきらぼうにマリラは挨拶をしました。


「は、はいマリラ様。こちらこそよろしくお願いします。」


 デイジー姫はとっても緊張したのか、マリラにお辞儀をするのを忘れてしまいました。


 なんだか前途多難のデイジー姫です。



✧ ✧ ✧



 翌日からデイジー姫ことアンヌはめまぐるしく働きました。

 いや働いたというよりは、部屋の中をしっちゃかめっちゃかにしただけですが。


 ここからはややこしいので、バークリー家(楡の木屋敷)ではデイジー姫をア(・)ン(・)ヌ(・)と呼びましょう。


 早朝、ニワトリが“ コケッコー ”と鳴くと、アンヌ(デイジー姫)はマリラのお付の侍女たちから、ベッドからたたき起こされました。


 そのまま寝ぼけ眼(まなこ)のアンヌは侍女たちに促(うなが)されて侍女服を自分で着ました。


 侍女見習いの服は、若草色のワンピースで白いフリル柄のエプロンとお揃いのメイドキャップでした。


 他の侍女たちは明るい水色のワンピースでした。

 どうやら見習いは若草色のようです。


 ──あら、見習いの若草色のワンピースの方が可愛いわ。


 と姿見鏡(すがたみきょう)で自分の侍女姿をくるりと回って眺めたアンヌは、この侍女服がとっても気に入りました。


 アンヌが女中頭のカバに良く似てると思ったマリラは、いかつい顔の通りの人でした。

 

 つまり物凄くきっちりとした夫人でした。


 まずアンヌをひととおり、侍女の仕事を自由にさせてみました。


 大奥様の部屋の整頓(せいとん)や衣類やリネンの管理、ドレスのボタンやレースなどの縫い物など、お抱え侍女がする人通りの仕事をさせましたが、何一つ満足に出来ないと知るや、さっそく大奥様に相談しました。


「そうね……そこまで何もできないなら、まずは下働きからしてもらいましょうか」


「え、でも大奥様。そんなことをしてよろしいのですか? アンヌ様は国王様の親族……」


「しっ……マリラ、その話はここでしてはいけないといったでしょう!」

 と大奥様は小声で人差し指を口に当てて、マリラを睨みました。


「これは失礼いたしました」すぐさまマリラは謝罪します。


「──いい、国王はね。あの娘を私に一存したの。どうか好き勝手にして良いと。時には厳しく働かせて欲しいとね」


 と大奥様は銀縁眼鏡(ぎんぶちめがね)を外して、柔らかな絹のハンケチで眼鏡を拭きなおしました。


 その時の彼女の眼は、美しいはしばみ色の瞳をしていました。


 そう、その瞳はデイジー姫の眼の色と同じ。デイジー姫にそっくりでした。


 実は大奥様は国王の母親──つまりデイジー姫のお祖母様(おばあさま)でした。




 

※ ダルタニアンに連れられてバークリー家に来たデイジー姫。これから侍女アンヌとして働けるのでしょうか。

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― 新着の感想 ―
いかつい顔の侍女頭のマニラはカバそっくりなんだ〜!!ww でも、デイジーちゃんも若草色の見習いの服を気に入ったんだね♪ あ、やっぱり大奥様も、マニラもデイジーちゃんが王女様なのを知ってるんだ……?…
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