12. バークリー家の侍女見習いになるお姫様
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翌日からアンヌ(デイジー姫)は大奥様のお抱え付き侍女見習いとなりました。
まずは女中頭のマリラがアンヌを指導するようにと、大奥様は命じました。
「いいですかアンヌさん。この屋敷に来た以上あなたを客人ではなく、この家の侍女として働かせるようにと、ある方から命じられました」
「ある方とは?」思わずデイジー姫は聞きました。
──ある方ってお父様(国王)かしらと?
デイジー姫は大奥様の言葉が少しひっかかったのです。
「それはいえません。ただ──」大奥様は銀縁眼鏡をキラリと光らせて、少し冷たく言いました。
「アンヌさんはデイジー王女の侍女とはいえ、由緒あるグランサム家の令嬢ですわね。もしもアンヌさんがこの屋敷の侍女が嫌というなら、いつでも実家にお戻りくださってもいいのよ」
「あ、いいえ、とんでもない!」デイジー姫は慌てふためきました。
「あの……大奥様、私、仰せの通りに侍女でも何でも致しますわ!」
そりゃそうです。デイジー姫はこの屋敷においてもらわないと困る、この先いく宛てなどありませんからね。
それにデイジー姫はもちろんアンヌではないし、そもそもアンヌの実家がどこにあるかさえ知らないのです。
「どうか奥様……今後共よしなに、どうかお願いいたします!」
とデイジー姫は咄嗟に大奥様に向かってカーテーシー(お辞儀)をしました。
カーテーシーとは貴族令嬢のお辞儀です。
片足を内側に引き、もう片足の膝を軽く曲げて、両手でスカートの裾を軽く持ち上げます。
「ほう、これはこれは……」と思わずダルタニアンが見惚れるくらい、それはそれは優雅なカーテーシーでした。
本来、侍女は雇い主にカーテーシーなどしません。
立ったままの姿勢で腰を折る丁寧なお辞儀のみでした。
「ふふ、可愛らしいけど。侍女ならば、まずその仰々しいお辞儀から直さないといけませんね」
大奥様はにこりと笑って、チリリンと呼び鈴を鳴らしました。
すると応接間には続きの部屋があり、奥の扉が開くと一人の中年の夫人が入ってきました。
みると背が高く角ばった体つき、茶色のドレスを着ていました。
女性というには、とてもいかつい顔立ちです。
白髪交じりの黒髪を後ろにひっつめにして、黒目は小さいが鼻の穴が大きい。
口元は大きく口角は下を向いていました。
これまた物腰が柔らかい雰囲気の大奥様と違い、見るからに怖そうな雰囲気でした。
──なんだかあれね。この人、カバに良く似てる。
デイジーはいかつい夫人を見て、子供の頃、絵本で見た動物のカバを想像しました。
「こちらは侍女頭のマリラ。屋敷の侍女たちは全てマリラに任せています。今日からマリラがアンヌさんの教育係となります。これからは彼女の指示に従うように」
そういって大奥様は、デイジー姫にマリラを紹介しました。
「初めましてアンヌ様、マリラです。失礼ですが、アンヌ様がバークリー家の侍女見習いになるならば、これからは、ただアンヌとお呼びします」とぶっきらぼうにマリラは挨拶をしました。
「は、はいマリラ様。こちらこそよろしくお願いします。」
デイジー姫はとっても緊張したのか、マリラにお辞儀をするのを忘れてしまいました。
なんだか前途多難のデイジー姫です。
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翌日からデイジー姫ことアンヌはめまぐるしく働きました。
いや働いたというよりは、部屋の中をしっちゃかめっちゃかにしただけですが。
ここからはややこしいので、バークリー家(楡の木屋敷)ではデイジー姫をアンヌと呼びましょう。
早朝、ニワトリが“ コケッコー ”と鳴くと、アンヌはマリラのお付の侍女たちから、ベッドからたたき起こされました。
そのまま寝ぼけ眼のアンヌは侍女たちに促されて侍女服を自分で着ました。
侍女見習いの服は、若草色のワンピースで白いフリル柄のエプロンとお揃いのメイドキャップでした。
他の侍女たちは明るい水色のワンピースでした。
どうやら見習いは若草色のようです。
──あら、見習いの若草色のワンピースの方が可愛いわ。
と姿見鏡で自分の侍女姿をくるりと回って眺めたアンヌは、この侍女服がとっても気に入りました。
アンヌが女中頭のカバに良く似てると思ったマリラは、いかつい顔の通りの人でした。
つまり物凄くきっちりとした夫人でした。
まずアンヌをひととおり、侍女の仕事を自由にさせてみました。
大奥様の部屋の整頓や衣類やリネンの管理、ドレスのボタンやレースなどの縫い物など、お抱え侍女がする人通りの仕事をさせましたが、何一つ満足に出来ないと知るや、さっそく大奥様に相談しました。
「そうね……そこまで何もできないなら、まずは下働きからしてもらいましょうか」
「え、でも大奥様。そんなことをしてよろしいのですか? アンヌ様は国王様の親族……」
「しっ……マリラ、その話はここでしてはいけないといったでしょう!」
と大奥様は小声で人差し指を口に当てて、マリラを睨みました。
「これは失礼いたしました」すぐさまマリラは謝罪します。
「──いい、国王はね。あの娘を私に一存したの。どうか好き勝手にして良いと。時には厳しく働かせて欲しいとね」
と大奥様は銀縁眼鏡を外して、柔らかな絹のハンケチで眼鏡を拭きなおしました。
その時の彼女の眼は、美しいはしばみ色の瞳をしていました。
そう、その瞳はデイジー姫の眼の色と同じ。デイジー姫にそっくりでした。
実は大奥様は国王の母親──つまりデイジー姫のお祖母様でした。
※ ダルタニアンに連れられてバークリー家に来たデイジー姫。これから侍女アンヌとして働けるのでしょうか。




