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9/11

あら、おにいさま、監禁ですって?

 2日経っても、俺は相変わらず監禁されていた。


(おー、ここかァ? おにーさまー!)

(ついたのか?)

(今朝な。いやー、なんか安定しねえんだよな。ラグは2日もないと思うんだけどな。前回も何日か遅れたし。地球に戻るときもコンマ何秒かズレてんのかなー。ここらを特定しとかないといざってときに困るな、っていま考えてる。おまえを助ける気はない。)


 そんな宇宙技術に興味はないが、とりあえずこいつを使ってなんとかここから出たい。

 そしてリースデンを助けなくては!


(おい、おまえ。まさかあのメイド取り戻そうってんじゃねえだろうな?)

(……え?)

(遊びに来てんじゃねえんだよ。ちゃん――)


「バエリアさま、お入りになりますか?」とドアの向こうからファーシェルの声がした。

「うん」とルルカはわざとらしく元気のいい返事をした。


 白々しい。

 ドアがあいて、見た目はかわいらしい我が妹(中身は世紀末)が入ってくる。


(やめろよ?)

(やらねえよ。おまえじゃねえんだよ。)


「おにーさま! 会いたかった!」とルルカが走って俺に飛びつく。


 やりやがったクソが。

 おまえもノリで生きてるだろ!


「バエリアさま。おやめになってください」とファーシェルは警戒心100%で俺からルルカを引き剥がす。

「えー、おにいさまに久しぶりに会えたんだよ?」

「今日はすこしお話するだけで近づかないようにと言いましたよね?」

「はあい」


(はあい、じゃねえだろ!)

(まあ、このほうがおまえもみじめになっていいだろ。)


 ルルカはかわいらしい顔で悪役みたいにニヤリと笑った。

 クソ野郎である。


(とんでもねえことになってんだぞ、すこしは助けようとしろ!)

(知らん。おまえのせいだろ。)

(そんなわけあるか! ポロジーのせいだろ! はしゃぐ、話を聞かない、暴れる、変態的行為。どこが俺だ!)

(おまえの行動そのものだろうが!)

(いや、ギリギリのラインでわきまえてるぞ、俺は!)

(ポロジーの視点からの行動解析だからな。)

(納得がいかねえ!)


 ひとつ、ふたつ、ルルカはファーシェルに耳打ちして、とことことやって来る。


「アタシをナメすぎたバツだよ、バカおにいちゃん」と嬉しそうに耳打ちした。

「おまえ、まさか……わかってたのか?」

「オートで行動するのは時間がかかんだよ。全力のポロジーでも2、3年はいる。ましてや異世界。圧倒的にデータが足りてねえ。高度な立ち居振る舞いができねえのは織り込み済みだ」


(この、クソ野郎が……!)


「まあ、ここまでひどい扱いだとは思わなかったが」

「なんでわざわざハードにすんの!?」

「今回は2、3年いることになるだろうから、せいぜい努力しろよ? 廃嫡されないようにな? ああ、そうだ。この世界で女児の当主ありえるかは調べとかねえとなあ?」


 とんでもねえやつだ。


「バエリアさま。もうよろしいでしょう。お離れに」とファーシェルは強めに言った。「()()()があっては困ります」


 こいつもこいつでひでえやつだよ!

 昨日も今日もメシだけ差し込んでしゃべりもしねえしな!

 なんだおまえ()()()って! ねえよ!


「今日はこのあたりにしておきましょう。さあ」とファーシェルは退室を促す。

「じゃあね、おにーさま!」と愉悦に浸った表情でルルカは言って、部屋の外へと走って行った。


 おそらく、今日のルルカとの対決は引き分けだ。

 俺の冷静な分析と状況把握能力がそう言っている。


「イエルデンさま。このあと旦那さまがお会いになるそうです」と部屋から出るときにファーシェルは言った。


 お会いになるそうですって言われてもなあ、と俺はきしむベッドの上で暇を持て余した。

 待った。

 待って、待った。

 2日経っても慣れないもの。それは暇である。

 部屋の隅においてあった()()にはうまく乗れるようになったが、役には立たないだろう。というか、こんなにうまくバランスがとれるのはすごい、魔法かもしれない、と俺は思った。


 親父はそのあとたっぷり日が傾くまで待たせてから部屋に入ってきた。

 もはや俺は()()乗り名人を名乗れるかもしれなかった。そうだ、魔法がなくても芸があれば生きていけるだろ、たぶん。よし、()()乗り芸人として異世界で一旗揚げよう、と決意しかけたころだった。


「ホコリっぽいなここは」と顔をしかめる。


 おまえだよ、入れてんのは。


「お久しぶりです」と俺は言ったが、いつ会ったのか知らない。


 というか、なんか何度かは話した記憶があるが、名前を聞かれたら積むレベルで印象がない。

 領主という情報しかないが、そもそもどのくらいの領主なのかもしらない。


「そう久しぶりでもないだろう。先月会ったばかりだ」


 久しぶりだろうがよ、それはよ!

 6歳だぞ、俺は!


「単刀直入にお伺いしたい。どうしたらここから出られますか?」

「断る」


 断りやがった!

 おいこいつ、下手に出てればこのザマだよ!


「冗談だ。まあ、ファーシェルも言っていたからな。出してやってもいい。だが、リースデンは来週追放する」

「断る!」


 バカああああああああああああああああああああああ!

 俺のバカああああああああああああああああああああああ!

 バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!

 なーんで、あと1週間あるから、って我慢できないの!?

 先生! 桐村宗太郎くんはいつもぼくの期待を裏切ります! いや、俺が桐村宗太郎でした!

 ノリで生きてきたツケだよこれは。由々しいよクソったれ。


「おまえ、自分の立場をわかっているのか?」

「なにがお気に召さないんですか?」

「なにもかもだよバカ息子! なんでそんなにしっかりしゃべれるのに、大事なところで必ず失敗するんだ、おまえは」


 だって、覚えてないしー。

 俺じゃないしー。

 ポロジーが俺の性格や行動を見誤ったせいだしー。


「それはそれ、これはこれです」と俺はキッパリ言ってやった。

「アホウが。とてつもなく図太いやつだな、おまえは」

「任せてください」

「任せられるか!」

「あのですね、お父様。ぼくにはリースデンが必要なのです」


 主にやわらかみのあるスローライフのために。


「悪影響しかないだろう。リースデンもまだ若い。解放してやったほうがいい。おまえが近づけないように追放というかたちにはするが、迷惑料はそれなりに払う」


 慰謝料じゃん!

 え、俺そんなに嫌われてたの?


「え、ぼくってリースデンに嫌われてたんですか……?」

「いや、あのアホメイドもアホメイドでおまえをさんざん甘やかしたのは事実だ。だが、おまえがかけた迷惑のほうが常軌を逸している」


 言いやがったなこの野郎。

 なんだよ、迷惑が常軌を逸しているって。迷惑行為が常軌を逸しているだろ。ということはつまり、常軌を逸している常軌を逸しているじゃないか!

 あれ、すっごい常軌を逸しているってこと? じつの息子に言いすぎじゃないのそれ!?


「どうしてもリースデンを戻してもらうわけにはいかないですか?」

「ダメだ。おまえには家を継いでもらう必要がある。どれだけ愚鈍で奇行をしようともな。せめてお飾りには仕立て上げる。それが俺の責任だ」


 クソみたいな決意だった。

 しかし、ここまで言わせる息子のほうがマズそうな気もしてくるよな。どんなやつなんだろうな、一体。


「ならば、立派な息子ならいいんですね?」

「……できることを言え。もうすでに立派ではない」とため息までつきやがった。

「ぼくが6歳のときに覚える予定だった魔法はひとつですか?」

「ああ、そうだが……あのな、イエルデン。俺はできること――」


「3つだ! 3つの魔法を完璧に使いこなして見せましょう! 1ヶ月以内に! そしたらリースデンを戻してください」


 我ながらカッコいい。

 でもちょっと後悔はしている。

 当然のことだが、俺は魔法のマの字も知らない。

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