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グッバイ、マッティ

【2017年7月15日 午前11時49分】


 ♮ごわふっ!?


「おいいいいいいいいいいい! そこじゃないだろおおおおおおおおおお! いまからってっつお! あっづ! あっづいよ!? うゔぉええええええええええええほっっっっっっっっっごっほげっぐごぐっ!? バ、アバ、ヤブッベ!?」

「急いでください。桐村宗太郎、あなたは死にます」

「よし、もどった。1秒ラグめんどくせえな。飛ぶぞ、タコスケ」とルルカは俺を()()()()()()()


「大尉! 桐村は生身です!」

「ッと、あぶね!」


 バーベル上げの選手みたいに俺を掲げてルルカは着地した。


「ッデ!?」


 背中かどこかが不自然に伸びた気がする。

 俺が悶絶しているあいだにルルカはポロジーに消火しろと命じたが、ちらりと見るとまだ燃えているような気はする。


「そのような目で見られても、私は物理的活動は得意ではありません」


 マジかよ。

 なんでもできそうだったけど、よく考えるとこいつの地球活動は俺数分しか知らねえわ。

 もう何ヶ月もいっしょにいるから麻痺してたわ。


「ポロジー、これは?」と路駐みたいになっているアダムスキー型円盤にルルカは触れた。

「ステルスはまだ有効です。ときますか?」

「収縮機能は?」

「不時着の影響で一部物理変更処理に問題が出ています。直径1メートルが限界収縮です」

「しょうがねえな。それで。こいつん家に置いていこう」


 ん……?

 なんかとんでもないことを言ってる気がするが気のせいか? いや、気のせいじゃないよな。こいつらに希望的観測を持ち込むと100%裏切られる。


「いつまで痛がってんだよ。さっさと立て」とルルカは俺に言った。

「いや、本気で痛い……」

「運べ。重量は20キロくらいだ。持てる」


 持てるけど! けども! 持ちたくない重さだろうがそれは!


「おい、地球だからな、ここは? 反抗的態度はわかってんだろうな?」

「持ってるじゃないですか!」


 直径1メートルのアダムスキー型円盤を持っている男・俺。

 豊島区広しといえども、アダムスキー型円盤を抱えているのは俺くらいだろう。

 ちなみにつるつるしているように見えるがなぜかジャストフィットする感じがあって持ちやすい。重いけど。


「急げ。見られるとやっかいだろ?」


 だぞ、じゃないあたりにとてつもない邪悪さを感じる。


「俺ん家行けばいいんですか?」


 こくりとルルカがうなづいたので、俺は燃えている(消化はしたってよ、ポロジーが。本当か?)マッティの方を振り返る。煙を吐いているマッティ……。さようなら、マッティ。

 おっちゃん、卒倒しないかな、これ。


 さて。

 20キロをなんとか持ち歩くこと5分。我が愛しのコーポアルパハイム荘202号室の前に俺は立った。

 軽い気持ちで銀魂読みに行っただけだったのに、ひどい惨劇だ。

 地球時間でたぶん30分くらい。体感、3ヶ月ぶりの帰宅。


 俺はカギを開けて(あやうくルルカに蹴破られそうになった)、広さだけはあるキッチンの壁に1メートル直径のアダムスキーを立てかけた。


「よし、異世界行こうぜ、もう安全だ」

「ナメてんのかてめえ?」

「魔法! まだ俺魔法使ってすらないんだけど! はやく! はやく! はっやっく!」

「いや、まだやることがある」

「リースデンが心配するでしょうがああああああああああああああああああああああああ!」と俺は思わず本音を吐露した。


「ダメだこいつ。捨てよう。やり直そう、ポロジー」


 カチャ。


「ワダパッ!? わかった、ちょっと。待って。いやでも、早く行きたいけどでも、ちょっと待って」

「落ち着け。深呼吸しろ。信仰はあるか? あるなら祈れ。祈りながら目を閉じろ」

「わかりました。すいません、ちょっとぼくが悪かったみたいです……」

「ポロジー、対象が落ち着いた。今回の数分でなにをすればいい?」

「第1目標であったマッティからの離脱は完了しました。第2目標として身体安全確保が必要です。こちらを現在進行中。さらに、第3目標として、敵対宇宙生命体の調査を行うべきですが、これは初期調査を終えるのに8時間かかる予定です」

「あっちじゃ一生終わりかけてんな」

「その時間、私のサポートなしではミッション達成は困難と目されます」

「わかった。今日はあきらめよう。後手に回るかもしれんが、こいつがここまで無能だと仕方がない。次回はどのくらい滞在が適当か?」

「地球時間で1時間ほど滞在するのがよいでしょう。いい加減に魔法を習得しなければなりません」

「信じがてえ愚物だよ。異世界転生しといて3年なんもしてねえんだぞこいつ」


 俺のせいだろうか?

 いや、ちがう。……たぶん?


「あ、あっちの魔法ステータス確認してなかったわ」

「後天努力補正ありの儀礼付与型です。魔力は天与型ですが、努力補正がこちらもつきます」

「努力補正はどのタイプだ?」

「加齢反比例型です」

「クソが。めちゃくちゃ時間無駄にしてんじゃねえか」とルルカはキレる。「獲得可能なのは全原生生物?」

「左様です。ヒト型の原生生物限定ですが」

「いいだろう。7万3千倍経過だよな?」

「はい。したがいまして、きぼうほう収納時にも7万3千分の1になります」

「向こうのナンバー1くらいか?」

「調査しきれませんでした。魔法の樹形図も記録できていません」

「あー、めんどくさい? 真理隠匿系か?」

「いいえ。調査不足です。つまり、めんどくさいのはあのメイドです。あれが桐村宗太郎を離していれば、調査は行えた可能性が高いです」

「まあ、また愚鈍なイエルデンさまに戻ってるからな。おっと不用意に動くな、桐村宗太郎。アタシに撃たせるなよ?」


 俺は高速で頭をタテに振る。

 早すぎて光の速さも越えられそうな気がしてくる。


「べつに激しく動いてないじゃないですか!」

「逃げようという意志を感じた」

「顔洗ったらダメなんですか!? なんかホコリっぽいんですよ!」

「……マジで図太いなおまえ……」

「混乱して使い物にならないよりは好条件と言えます。大尉、すでに10分経過しました」

「あー、アダムスキー運んだしな。まあいいタイムではあるだろ」とルルカは投げやりに言った。「世界構成は」

「魔法が使える者はそれほど多くないと考えられます。テンセイしたリックリード家は中流貴族で、自前の領民領土を持っています」


(っていうか、なんでいまここでやるんですか!?)


 あっ!? 念話使えねえ!


「っていうか、なんでここでやるんですか!?」

「おまえいま念話しようとしただろ?」

「いいんですよ、そういうことは。向こうで確認したらいいんじゃないです?」

「すでに今回の転送によって、私の獲得した情報は地球に移動しています。データ格納は地球にて行われ、イセカイには転送されません。あちらで参照しようとした場合、参照までに往復地球時間40秒。つまり、ひとつの情報参照に4週間かかることになります」

「じゃあ、持ってくる前に向こうでもうちょっと粘ればよかったんじゃ!?」

「おまえはアタシをナメたからな。しつけは必要だ」

「ええ……。つまり、嫌がらせ?」

「そうだぞ。ナメられたらおしまいなんだよ!」


 昭和のヤンキーかよ、おまえは。


「向こうに行ったらビハインドからの脱却をしなくちゃならんが、自業自得だあきらめろ」

「なん……だって……?」

「いまのところの滞在予定がおおよそ――」


 と。

 インターフォンが鳴った。

 宅配便だろうと思ったが、いま金がなくてなにも注文したおぼえがない。となると訪問販売か宗教勧誘か。

 という空気を俺はつくっていたが、どうやらルルカやポロジーの感じを見るに、そのような事態ではないようだった。

 物音を立てないように俺までジェスチュアで制している。


「見られたか?」

「おそらく。ドアの向こうにどの系統の組織がいるかにもよりますが、居留守が最適です」

「えっ!?」

「黙れ、見つかるだろ。ポロジー、調べろ」

「視覚情報調査は入れましたが、治安維持組織ではないと考えられます」


(治安……? ああ、警察か。ん? 警察じゃない……? ナニソレ? え、やべえぞこいつ、怖いぞ、イカレてるぞ。)


 と俺は百万回くらい思った。

 しかし、こいつらがヤバくなかったことがあるだろうか、いや、ない。

 反語成功。クソッ、最悪だッ……。


「しょうがねえ。ポロジー、ドアに強化シールド貼れ。まずアタシと桐村で跳ぶ。おまえは2秒以内であいつらのデータをとってから跳べ」

「承知しました」

「いやー……あのー……?」

「念願の異世界だ、よろこべクソ野郎」

「え、いやそれって、俺のこちらでの立場がわるぐっ#

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