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果たされなかった約束

 俺に足りないものはなにか教えてやろう。危機感だ。


 異世界ライフはここまで完全に俺得だ。というかたぶん、俺しか得をしていない。

 ルルカは動けないし、なにを言っても顔を見たらなごんでしまう。よって抑止力は皆無である。

 さらに俺には22時間くらいリースデンがついているので、ルルカもおいそれとは近づけない。

 つまりいいいいいいい? 大学以来の人生の夏休み到来だあああああああああ!


(誤りです。あなたは平均的地球人のおよそ3倍程度休みをとっています。正確には大学以来()()()夏休みです。)

(あれ、念話漏れてた?)

(まだ感情が高ぶったときのコントロールはいまいちですね。)

(精進するわ。)

(それよりもそろそろ魔法の習得を具体的に考えないと大尉が実力行使に出る可能性は極めて高いと言えます。)


 まあ、気にすることはない。

 すくなくともふたりになるまでにはかなり時間がある。


 とか言っていたら、ある夏の日、リースデンが寝込んだ。

 まあ、本当にいつ起きてもリースデンいたしなあ。仕方ないとも言える。休んでいいよとは言ったんだよ、俺も。

 リースデンがいなくともメイド長もいるし、ほかのメイドが今日は俺たち兄妹の面倒を見ているので、ふたりだけの時間はすくない。ただ、やはりリースデンほどは部屋にはいない。


「だーあうあー(おい、今日はあのメイドいねえからな。覚悟しろよ? 桐村宗太郎)」

「妹の姿でやめてよそういうの」と俺は言う。


 俺は結構ちゃんとしゃべれる。出生時の骨格からして地球人のそれとは異なるらしく、3歳でもあまり舌足らずにならない。

 はっきりとしゃべれる。


 さすがに0歳は厳しいみたいだが。


「だーうー(クソ、しゃべれねえんだよなあ。どうすんだこれ。)」

「このままここで成長を待つか、一度地球に帰還して時間を早めるかの選択になります」とだれもいないのでポロジーは念話ではなく音声で言う。

「やだ! やだ! やだ! 俺はここん家の子になる!」

「あーぷー(おい、マジメにやれよ。ここでの生活はおまえが宇宙人を倒すためなんだぞ。遊び呆けるためじゃねえ。)」

「いい。だいじょうぶ、地球とか。俺リースデンと暮らす」

「あーうー……(思ったよりずっとやべえやつだった……。)」

「大尉、桐村宗太郎を敵対勢力と認定する上申を行いますか?」とポロジーは冷静に(いや、いつも冷静だが)言った。

「いや、ごめん。本当、ごめん」

「地球は危機です。いい加減にご理解ください」

「そうは言うけどさー、実感ないわけ俺」

「もう一度確認が必要ですか?」

「いや、それはいいよ。聞いた。散々聞いた。ここ2、3ヶ月、なんならそれしか聞いてない」

「うー?(じゃあ、言ってみろ? あ?)」

「地球に寄生型の宇宙人がやってきた。目的は資源か、もっと大掛かりな作戦の中継地点。不明瞭だが、地球人の殲滅はどうやら必須。よって、俺がその寄生型の悪性宇宙人を倒す」

「充分な理解です」

「アタマではわかってんのよ? でもさ、俺その宇宙人見てないし、俺が倒す理由も全然わからんし、なんで異世界で魔法修行しないといけないのかもわからんし、リースデンと遊ぶの楽しい」

「うー(最後、本音が漏れてるぞ、クソ野郎。)」

「そもそも地球っていま夏だっけ? みたいなレベルで遠い昔なんだけど」

「大尉もともにイセカイに来てから2ヶ月が経過しております。地球では2017年7月15日、午前11時48分ごろです。参考までにステルスと延焼防止処置は充分にもちますが、一部が開放されているとは言え、屋内で燃焼しています。あと3分程度で桐村宗太郎の個体は、一酸化炭素の影響で高確率で死亡します」

「えっ!?」

「これは説明しました」

「いーや、聞いてません!」

「いいえ。あなたがくだんのメイドと遊びに夢中だっただけです。そもそも実体の年齢は27です。なぜ3歳相当の遊びに夢中になれるのかが理解不能です」

「やればわかる」と俺は言い切った。


(まあ、いったん帰るか)とルルカは発音すらあきらめたらしい。


「いや、待って。せめてあと1週間待って!」

「なぜですか?」

「来週、リースデンと川に行く」


(おい、真面目にやれ。頼むから真面目にやってくれ。)


「だのぢみにじでんだよぉぉぉぉおおおおおおお! ずっと指折り数えてたんだよ! なんでだよ、ふざけんなよ!」

「客観的に言って、ふざけているのはあなたです」


 ごもっともだが、俺は真面目だ。


「たのむ。来週帰るから、ぜったい来週川に行ったら帰るから!」

「知性の低下が見られます。イセカイへのテンセイで知性が低下したケースは確認されていません。貴重なサンプルです」


(下がるほどの知性はなかっただろ……。)


 なんとでも言え、俺はリースデンと川で遊ぶ!


「川遊びをリースデンとさせてくれるなら、俺は真面目におまえらの計画に従う」


(どう思うポロジー?)


「大尉の判断におまかせします。事実ではあろうかと思います。ただし、この地球原生生物は嘘はつきませんが、不誠実な個体です」

「おい! 言いすぎだろ!」


(まあ、そういうならおまえのことばを信じるか。1週間だけだぞ。アタシはもう眠い。)


 しかし、その約束は果たされなかった。

 リースデンと川遊びの約束の日は、異世界に来てからもっとも強いんじゃないかというくらいの豪雨だった。


「あらー、残念ですね、イエルデンさま。でも心配いりません! また今度にいたしましょう!」と元気づけてくれたが、当然ルルカは再延期を認めてくれるはずもないので、俺は沈みきっていた。


(どうにかなりませんよね?)

(なるわけねえだろ? アタシはよォ、桐村ァ? うまいこと扱ったような気になってるクソ野郎を見ると、絶対に言いなりにはならねえって決めてんのさァ?)


 ルルカはにやり、と笑った。


(まさか、この雨は……!?)

(いいや、アタシは願っただけさァ!!!)


 いや、めちゃくちゃ無能じゃねえ♮

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