表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/11

俺のことメイドが愚鈍って言う

 #意識が遠のいてぇ? そして、戻ってくるぅ!

 こんにちは、異世界。意外と楽しめてるかもしれない、俺。えらい。


「イエルデンさま、さあ」とメイド長が言った。


 ちょうど俺は脇を支えられていた。まさに持ち上げんとす、みたいな状況だ。

 ふくよかな中年女性である。おかんがだいたいこんな感じだ。イデア的おかん。


「いやー、メイド長ー、イエルデンさまたぶんわからないですよ、妹のこととか。3歳なのに」とリースデン。


 お、こいついまディスったか?


(あなたは非常によく眠る愚鈍な3歳児として認識されている可能性が高いです。)


 玉もいるじゃん。


(ポロジーです。玉ではありません。現在、念話を試みていますが、大尉の反応がありません。推定される可能性はいくつかありますが、大尉のほうが転送量が多いため、1秒弱のラグがあるものと考えるのがもっとも整合性があります。)


 つまり?


(数日間、大尉の魂が到着するまで「おにいちゃん」として妹をかわいがってください。)


 よし、いいだろう。

 メイド長がリースデンに言われて、それもそうか感を出して俺を抱えあげるのを止したので、


「いや、リースデン、妹を見たい」と俺は言った。「見せて」


 その瞬間のメイド長とリースデンの様子を俺は正確に形容できる自信がない。いや、音があれば形容の必要はないかもしれない。


「ぎゃああああああああああ!? ぼっちゃん!? イエルデンさま!? しゃ、しゃべりましたか!? あの!? この!? その!? リースデンさまが!? ちがうわ、それ私だ!? よその家の御子息御令嬢がつぎつぎと聡明さの片鱗を見せる中、当主様が社交の場に出さなくなりつつあるほど愚鈍だったイエルデンさまが!? しゃべった!? しかも、私の名前!? はあああああああああああああああああああああああああああああああ! いっしょうお仕えします! あああああああああああ、イエルデンさま! イエルデンさま! イエルデンさま!」

「あまりに常軌を逸しすぎるとクビになりますよ、リースデン」

「でも、メイド長! 何回私たちが責められたと思ってるんですか!? どれだけ国中の育児方法を試しまくったと思ってるんですか? 思い出してください、あの血の滲むような日々を!」


 どうやらとても迷惑をかけたらしい。

 なにも思い入れはないが、さすがにここまで悲壮感漂っていると同情したくはなる。


「我々の任務です」とメイド長は言った。「イエルデンさま、妹君をご覧になりますか?」

「うん、メイド長、見せて」

「わかりました」とメイド長はちょっと涙声で、でもうれしそうに俺を抱き上げてくれた。「私の名前もお教えしなくてはいけませんね、おぼえていただけるかしら?」


 さて、メイド組の感動はとりあえずおいておく。ここは俺が妹と感動の対面をうああああああああああああああああああああああかわいい!

 なにこれ!!!!!!!!!!!!!!!!

 嘘だろ!?

 去年いとこの生まれたばかり子どもを見たが、正直サルだった。あんまりかわいくなかった。でもこれはあきらかにかわいい!


(このイセカイでは容姿の変化が地球よりも比較的ゆるやかです。つまり、生まれたばかりでも幼児のような容貌を持ち、成長をおえたあとの容貌の劣化も地球と比較するとたいへん緩やかです。)


 それじゃ、見た目で歳がわかんないじゃん。


(老いてはいきますので、見分けはつきますが、緩やかということです。おおよそ25歳前後で成人の容貌に。その後、50歳前後で衰え始め、100歳前後で死亡します。)


 アンチエイジングワールドじゃん。大儲けできそうなにおいがするぜ。


(推測します。おそらくあなたには商才はありません。)


 うるせえな。いちいち刺すなっつってんだよ!


(事実の指摘が叱責に思える場合には、一般論として自己認識が正確ではないか、努力が足りていません。)


 よし。無視。


(推奨されません。あなたは大尉の到着を待つあいだ、私から情報を得るべきです。)


 ちっ、うっせーな。

 ちょっとでもいま、妹見てるから、あとにして。


「さ、イエルデンさま。そろそろバエリアさまも疲れてしまいます」とメイド長が言ったが、仁王立ちガールの魂が入る予定の妹はいまはただの新生児。


 そう、シンプルに彼女は爆睡中である。


「わかった。また今度にするよ」と俺は言った。「眠っているのを起こすのも悪い」


 いい子にしておいて悪いこともないだろう。

 と思ったのだが。

 やりすぎた。


「ええええええええええええええええええ!?」とリースデンが大絶叫パーティを開催しはじめた。「3歳! まだ3歳ですよ! それなのにこの聡明さ! リックリード家に未来永劫の繁栄が! 輝かしい王都へのみヂッ――」

「いい加減になさい、リースデン。旦那さまにお話してきて」

「イエルデンさまをごいっしょにお連れしたほうが早いのでは?」と叩かれた頭をさすりながらリースデンは言った。


 これまずい?


(このイセカイにおいても、3歳児の言語レベルを少々逸脱しています。)


 どうすれば?


(流れに身を任せてください。)


 お、こいつ、よく考えるとあんま役に立たねえぞ?


(回答を拒否します。)


 事実の指摘が叱責に思える場合には、一般論として自己認識が正確ではないか、努力が足りていません、とかなんとか言ってた気がするが。


(回答を拒否します。)


「さ、イエルデンさま、旦那さまのところへお連れします」とリースデンが言って、俺を抱きかかえた。


 え、なにこれ、やわらか。

 いいにおいする。なにこれすごい。異世界、すごい。


(残念ながら、地球とほぼ同様です。個人の経験の問題です。)


 クソ、さてはこの玉、俺のアンチだな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ