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サンキュー、マッティ

 東京都豊島区椎名町4丁目の交差点を新目白通り落合方面向かって右に入ると出所定かではないコンビニエンスストア「マッティ」が存在する。


 その床にいま、俺は転がっている。


 とくに問題なのは俺が腹部にかなり重大な損傷、控えめに言えば致命傷を負っているということである。


 びっくりだろ?

 俺もびっくりだ。まさか致命傷を負いながらこんなテンションだとは思わなかった。


 たすけてください。

 しにそうです。

 おねがいします。


 200回くらいずつは言ったが(合計600回発音するのに途方もない時間がかかるという点に着目してはいけない)、だれも助けてはくれなかった。


 もはや視界もかすみ、なんやかやの感覚もなくなってきて、ただ寒くなりつつある。


 マジでピンチだ。

 どうしてこうなったか、ちょっとだけ話す。


【2017年7月15日 午前11時21分】


 午前の段階で、気温は33度まで上がっていた。


 椎名町民いこいのば、「こんびにえんす・マッティ」。なんと江古田と東長崎にもあるのでチェーン店である。

 由緒怪しきこのコンビニ、かつては表記が英語だった。

 わざわざそのようなことがあったというエピソードトークをするとき、頭文字「C」から始まる、とたいていは思うだろう。

 そうだ、nがmになっているとか、iが抜けているとか、そういう高尚な話題であろうと思うことだろう。

 だが、そこは我らがマッティである。

 かつて、コンビニエンス・マッティの看板はローマ字表記だった。


 KONBINIENSU MATTEI


 ありがとう、マッティ。それだとマッテ()だけど。いつも涼しいのは感謝している。

 ただそれも過去の話。去年改装した結果、マッティはひらがな&カタカナ表記になった。


 俺はそのマッティで週刊少年ジャンプを読んでいた。

 とくに重要ではないと思うのでなにを読んでいたかは伏せるが(銀魂だ)、おい、マッティ、いつもと比べてあんまりエアコン効いてないよー、と文句を言いたくなったその瞬間だ。


 強烈な光と熱。

 そして、轟音、濁音、異音、爆音、物音、騒音。

 上手に表せるかわからないが、


 ぎぎっっぎぎぎいっぎゃどおおおおおおんどぅどぅおんごぎゃばぎびりばりばばばばりびりりぎっぎばぎゃぎぎぎぎばきどごぼおおおおおおおおおおんどがびりがりがりがりがりぱりん


 と、こんな感じだ。

 たぶん俺はどぅどぅあたりで体のコントロールを失った。


 かくて。気がついたら俺はマッティの床に転がっていた。

 銀魂のページをめくろうとしたときからおよそ2分くらい。2分あれば世界は変わる。クソが。


 経緯は短いが、これがいま俺の置かれている状況だ。

 どうだ、最悪だろ?


「あー、最悪だ」と倒れている俺の前に割れたガラスを踏む音。人影が仁王立ちする。


「おーい、生きてるか。うわ、結構傷深そうだな。()()かな。おい、桐村きりむら宗太郎そうたろうでまちがいないか? 返事できないのか。うーん、結構マズいな。まちがってないよな? もう見切るぞ? 見切り発車するぞ?」


 聞こえている、全部。そして名前もあっている。

 痛すぎてなにも言えないだけだ。


「やっちまったなー。まさかミスるとはなー。ポロジー、きぼうほう持ってきて」

「用意してあります」

「いいね。撃つ。問題は?」

「桐村宗太郎であることの本人確認がとれておらず、宇宙法第293条4項に抵触する可能性があります」

「でもこいつ、しゃべれないみたいだし、傷深くて死にそうだよ? 本人確認どうしたらいい?」

「大尉のミスですので、このまま確認がとれなければ、撃っても撃たなくても懲罰委員会ということになります。地球人の生命力から考えて、ここからしゃべることができるようになる可能性はほぼありません」

「抜け道」

「ありません。本人確認をとる以外の方法がありません」

「クソだなー。確認って音声である必要あったっけ?」

「ありません。ただし、地球人には魔法、念話等の能力はありませんので、音声以外ですとボディランゲージのみが現実的です」

「めんどくさいよな、こいつら。おい、おまえ。しゃべれなくていいんだけど、指動かせたりしない? このままだとおまえは死ぬ。そしてアタシも100年くらい監禁罰になる。だけどおまえがあと2回だけ指を動かせればお互い助かる。どうだ? まず聞こえてて動かせるなら1回動かせ」


(なーにを言ってるのかわからないし、視界が狭すぎるし、かすみすぎていておまえが仁王立ちしてることくらいしかこっちにはわかんねえんだよクソが)


「お、素直だな。死にかけなのに。親指が動いた。ポロジー、意思表示できるとみなしていいか?」

「はい。確認しました」

「わかった」とそいつは言った。「おい、おまえは桐村宗太郎か? イエスなら指を10回以下、ノーなら2万回光速で動かせ」

「大尉、その質問は本人確認として適切ではありません。やはり懲罰の対象となります」

「わかったよ、クソ。イエスなら1回。ノーなら2回」

「十全です」


 俺は限界だった。こいつらが長々コメディをしているうちに、目が完全に開かなくなった。瞑っているからだが、かりに開けたとて見えるのかは知らない。

 絶対に危機だ。


(こんなクソ怪しいやつらになぜ俺が……なぜこのような仕打ちを……)


「はい、動いたー。1回だね、1回。イエスだ。よくやったぞ桐村宗太郎。まあ、こんな状況で素直によくやるよなとも言えるが。ポロジー、これでいい? いいよな?」

「本人確認が取れました。対象は桐村宗太郎です」

「きぼうほう装填、既存の腹部損傷箇所に発射する」

「了解。確認しました。箇所、事前確認いずれも問題ありません」

「3、2、1。発射」


 ぱしゅ、と軽い破裂音がしたが、痛みはまるでない。俺は思考が暗い闇に落ちていくのを感じて#

お読みいただきありがとうございます。

最初ちょっと突飛ですが異世界します。

ブックマークしていただけるとありがたいです。

週3~5更新(主に平日)になるかと思います。

よろしくおねがいします。

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