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9話

 ルドルがトイレから戻ると、父とオルドはちょうど会話を終えたところだった。2人は軽く手を振り、別れを告げると、組合の建物を後にした。


 「用は済んだが、せっかく来たんだし、出店でも見ていくか」

 「うん!」


 父の提案に、ルドルは目を輝かせて頷いた。2人はゆっくりと足を進め、市場の賑わいへと身を投じた。


 組合の建物を中心に、放射状に広がる小道と、東西南北に延びる大通り。その全てに、色とりどりの出店が所狭しと軒を連ねていた。焼きたてのパンの香ばしい匂いや、スパイスの刺激的な香りが風に乗って鼻をくすぐる。人々の賑やかな声や笑い声、時には子供のはしゃぐ声も混じり、そこはまるで祭りのようだった。


 混雑した通りでは、出店の店主たちが少しでも多くの商品を並べようと、店先を広げていた。そのため歩くスペースは狭く、肩がぶつかることもしばしば。ルドルと父ははぐれぬよう、しっかりと手を繋ぎながら進んでいく。


 「お腹空いただろう。何か食べよう」


 父の言葉にルドルは嬉しそうに頷いた。市場に到着したのは午前中だったが、組合の本部での時間もあって、すでに昼を回っていた。


 市場には屋台の他にも、しっかりとした店舗型の飲食店も数多く存在する。2人はその中から、赤レンガ造りのお洒落なレストランに入ることにした。窓辺に飾られた花々と、木製の看板が温かな雰囲気を醸し出している。


 店内のテーブル席に案内され、しばらくして注文した料理が運ばれてきた。湯気の立ち上るスープと、香ばしい香りの焼き肉。ルドルは目を輝かせながらスプーンを握り、勢いよく食べ始めた。


 「ゆっくり食べていいからな」


 微笑みながら声をかける父の優しさに、ルドルは照れたように笑って、少しだけペースを落とした。久しぶりの外食がよほど嬉しいのか、ルドルは一口一口を大事に味わっている。


 食後には、父のコーヒーとルドルのプリンが運ばれてきた。プリンの上には、艶やかなカラメルソースがとろりとかかっている。


 「この後なんだが……。ルドル、自分用の武器、欲しいか?」


 その問いかけに、ルドルはスプーンを持ったまま固まった。目を丸くして、今にも落としそうなスプーンを慌てて持ち直す。


 「欲しい! でも……いいの? お母さん、僕が戦う練習するのはまだ危ないって……」


 これまで父は何度か市場や狩りにルドルを連れて行ってくれたが、自分用の武器を与えると言ったのは初めてだった。それは、母が強く反対していたからだ。


 「それはそうなんだが……。ルドルには、俺のせいで危ない目にあわせてしまった。その罪滅ぼしくらい、させてくれ」


 そう言って、父は真剣な眼差しでルドルを見つめた。もちろん母には自分から話す、と付け加えると、ルドルは嬉しそうに「うん!」と頷き、残っていたプリンを大急ぎで口に運んだ。


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 いくつかの武具屋を巡った2人は、そのうちの一軒で気になる品を見つけた。


 「これなんか、ルドルにちょうど良さそうだがな」


 父が手に取ったのは、一本の短剣だった。刃渡りは短めで、装飾も控えめ。けれど握りやすそうな柄と、しっかりとした鞘が付いている。


 「けど、これ2本セットなのか」


 どうやらその短剣は、より大きな長剣とのセットで売られているらしい。子どもであるルドルには、長剣は明らかに大きすぎた。


 「僕、これがいいよ!」

 「でも長剣の方はどうするんだ?」

 「大きい方はお父さんのにして、お揃いにしたい!」


 その瞳は真剣で、どこか誇らしげだった。父と同じ武器を持てることが、ルドルにとっては何よりの証だった。


 ルドルの無邪気な提案に、父は一瞬目を丸くし、それから思わず吹き出して笑った。


 「そうか! じゃあ、これにするか!」


 店主が軽く笑いながら丁寧に梱包を始める。短剣と長剣、それぞれに専用の鞘がついており、それを留めるための革ベルトまで揃っていた。


 「このベルト、お子さんでもしっかり装着できますよ。ちょっと細工がしてあるんで」


 「ありがたいな」


 父は礼を言いながら代金を支払い、2人は新しい武器を腰に装備して店を後にした。


 店を出たとたん、ルドルは嬉しそうに短剣を抜き、小さく構えの真似をしてみせた。その仕草があまりに嬉しそうだったので、父は微笑みながら彼の頭を優しく撫でた。


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 昼間に輝いていた太陽はすでに赤く染まり、空を茜色に染め上げていた。1日の終わりを告げるような光の中、ルドルと父は村への帰路を辿っていた。


 「はしゃいで怪我するなよ」

 「うん!」


 父の忠告にも、ルドルは頷くだけで、目を輝かせながら手にした短剣を眺め続けていた。その腰には、新品のベルトと、それに取り付けられた革の鞘が輝いている。夕陽の光が、鞘の金具をわずかに鈍く反射させていた。


 「なぁ、ルドル」

 「何、お父さん?」


 ルドルは短剣を丁寧に鞘に戻し、父の方を振り返った。その表情は、いつもよりずっと真剣だった。


 「少し寄り道していこうか」

 「寄り道って……もうすぐ暗くなるよ?」

 「すぐに済む。それに、とても大切な用事なんだ」


 父の目に宿る強い意志に、ルドルは戸惑いながらも頷いた。


 「……分かった」


 こうして2人は、暮れなずむ道を外れ、静かに歩き出したのだった。


 その先に何が待っているのか。父の言う“大切な用事”とは何なのか。ルドルは父の背中を追いながら考えた。

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