ラーメン高虎
『洗い場、焼き用の鉄板が不足。優先順位上げろオーバー』
『洗い場了解』
『焼き場、目標2名2名後4名ファミリーだ。焼き場バッシングバックアップ。4名ファミリーを先にズールー1に通す。ホールリーダーにあっては4名優先、前2名2名のフォローおくれ、オーバー』
『ホールリーダー了解。』
『焼き場了解、鉄板不足改善までバッシングバックアップ、後持ち場に戻る。』
『こちらホールアルファ、ヤンキー4においては完食間近、繰り返すヤンキー4完食間近。至急杏仁豆腐用意されたし、おくれ。』
『ヤンキー4杏仁豆腐了解。こちら本部よりホールブラボー、現地点の状況を報告せよ。どうぞ。』
『こちらホールブラボー、ズールー2より追加オーダー確認中。オーバー』
『了解。確認完了後、バックオーダー後杏仁豆腐をヤンキー4に配膳されたし』
『杏仁豆腐了解。ズールー2よりバックオーダーよろしいか』
ザッ『よろし。発信せよ』
ザッ『発信了解。替え3、内訳カタ1(かたひと)、フツ2(ふつふた)、ドリンク、ウーロン1、コーラ2』
ザッ『バックオーダー了解。麺場、替え3、内訳かた1、フツ2場所ズールー2』
ザッ『了解!』
「こちらデザートの杏仁豆腐になります!ごゆっくりどうぞー」
「杏仁豆腐配膳完了。これよりドリンクの配膳作業に移る」
『本部了解』
『本部より本店全員に通達。N23、距離1500メートル地点に常連車両確認、またその奥2200メートルに別常連車両を確認。曜日、時間からして来店確率強。焼き餃子及び細切れチャーシュー丼を用意されたし。なお洗い場においては装備アルファ。以上、おくれ』
『焼き場了解』
『麺場了解』
『ホールリーダー了解』
『洗い場了解』
「戦場の様な忙しさ」という表現があるが
、ここは戦場の様なラーメン屋。その名もラーメン鷹虎本店。
スペシャルな繁盛店だ。
店の構造はと言うと。厨房を囲うようにL字のカウンターが10席
L字の短い方を背にしてテーブル席が2つ
L字の長い方の先にはトイレがある。
厨房の奥はと言うと、スタッフルームに通じるドアがありそこは司令室も兼ねていた。
その司令室中央にある座り心地が良さそうな椅子に足を組みながら座っている女は、少々不機嫌そうな顔押しながら腕を組んでいた。
「効率が2パーセントも落ちている」
無線に乗らぬよう独り言ちた彼女は、デスク上にある3枚のモニターには目もくれず厨房への入口をただ睨みつけていた。
目もくれぬどころか、モニターは入口とは反対の壁にかけられているので厨房の方を見てしまうと視界に入らないのは当然だ。
『麺場、やはり私と変わるか?効率が落ちているぞ』
私用の通信に切り替え直接問う。
ザッ『ボス・・・もう少しだけチャンスをください。効率化させてみせます!』
『だからアップデートさせておけと言ったんだ。効率化にこうも時間をかけられてはかなわんよ。』
ザッ『いえ、既にアップデートは済ませております。しかし、何か不自然なんです。今までと何かが違う・・・』
『おい。今のノイズはなんだ。本部無線使用中にはなかったぞ・・・!』
『本部より本店全員に通達、フリークスイッチ、バックアップに切替える。全員確認後、応答されたし、オーバー。』
『こちら麺場、移行完了。通信状態クリア。』
『焼き場移行完了。状態異常無し。』
『ホールリーダー完了。異常無し。』
・・・
『こちら本部、洗い場どうなってる。状況を報告せよ』
『こちらホールリーダー。ホールブラボーより通達、洗い場ロスト。繰り返す、洗い場ロスト。指示を求む、オーバー!』
・・・ちっ。やはりか。判断が早いな。
『現時刻を持って麺場の試験終了。私が麺場に戻る。現麺場はホールリーダー。ホールリーダーはホールブラボー。ホールブラボーは洗い場に呼称と持ち場変更。以上。返答不要。』
長い髪の毛を後ろにまとめながら立ち上がる。
恐らく飛ぶつもりで入ったスパイだろう。しかし優秀だ。何食わぬ顔でバックアップ用の周波数に切り替えていれば当面は凌げただろうに。勘づかれた可能性が出るやいなや姿をくらませるとは。
しかも昇格試験のタイミングを狙ってきている。やつの想定外だったのは、私が個人間で通信を行うほど隊員と「仲がいい」という事だろうか。
ドアを開け厨房へと入る
その瞬間定員たちの間で安堵とも取れる緊張が走った。
客たちからは歓声ににたため息が聞こえる。
「女店長が麺上げするのか……」
「俺替え玉もう1個頼もうかな」
どうやら彼女の造り手としての腕も相当に優秀なようで、味のファン達は歓喜したようだった。
そこからは早かった。
まるで未来でも見るように客が注文を完了する前にラーメンを作り始め、オーダーバックより早くその品への指示を飛ばしていた。
パフォーマンスと効率化重視の為なのか。脳内無線をやめ口頭指示に切り替えたようだった。
女店長麺場復帰の情報はsnsで瞬く間に拡散され、店前の行列は更に長くなっていった。
「ホール隊のバックオーダーを一々聞くな!お客様の注文の声で動け!食券機のボタンを押した音を聞き分けろ!常連様の心の声を感じ取れ!」
『サー、イエッサー!』
「焼き場、餃子在庫残りわずか!」
「既にチャーリー隊に発注をかけてある!慌てるな!」
「製氷機、氷ロスト!使い切りました!」
「もっと早く報告せんか馬鹿者!2階にストックがある!持ってこい!駆け足!!」
「御新規1名様、カウンター席へどうぞー!」
「どんだけ待たせるんだこの店はよー!」
「貴様は客などではない!!返金受けてさっさと帰れ!!!」
「なにをー!」
その客が立ち上がったその時には既に、ホールブラボーの短剣が首元に添えられていた。
「お引き取り願えますか?」
「……あ、ああ、わかったよ。悪かったよ……。」
両手をあげ、ゆっくりとした足取りで出入口へと進む。
「バーカ二度と来るかよ!」
そう吐き捨てると走って逃げていくのだった。
『チャーリー隊、狙撃許可。ただし足を狙え。装備は非殺傷。以上、返信不要。』
そう短く無線を飛ばす。ほぼ同時に遠くで大きな爆発音が響いたのだった。
『こちらチャーリー隊リーダー。狙撃許可の段階で若いのが打っちまいました。オーバー。』
『後でどうにかしとく。即時撤退。せめて痕跡を残すな。』
『了解。』
「ありがとうございましたー。」
日もとうに暮れ、夕飯時を過ぎ、やっとの事で最後の客が帰った。
「只今よりアフターブリーフィングを始める。焼き場、ホールよくやった。麺場、問題発生につき昇格保留。
洗い場のロスト問題だが現在身辺調査中。シフトは再編成後通達する。チャーリー隊は全員この後罰掃除だ。以上解散」
やっと一日が終わった。
ボスがいると効率よく動けるが、それより客が増えすぎる。在庫ほとんど無くなっちまった。やっぱボスはすげーな……。
しかし洗い場のアイツめ……。探し出してとっちめてやる!
『やめておけ』
!
『ぼ、ボス!いつから聞いていたんですか!』
『最初からだ。不用意にチャンネルを開けた状態で物騒な考え事をするんじゃない。』
『あ……。すみません!それで、なにか御用ですか?』
『2つ。麺場合格だ。今上から通達があった。邪魔を受けているにしてはいい動きだったんだとさ。』
『おお!やった!ありがとうございます!』
『もう1つは、明日以降指揮もとれ。』
『ええええええ!早すぎますって!』
『しらん。上の許可はとってある。私はやる事が出来た。』
『ぐ……。は、拝命しました……。』
『よろし』
『ボスは何するんですか』
『今日のあの、洗い場のやつな』
『は、はい。』
『来々軒のやつだったよ』
『!』
『明日から3日ほどかけてな、挨拶の準備をしようと思ってな。』
『じ、自分も』
『私一人では力不足とでもいいたいのか?』
『い、いえ!そんなことは!!』
『冗談だ。厚意だけ受け取っておくよ。それでは後は任せたぞ。』
その会話を最後にボスは帰ってこなかった。
続く?
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