出会い 05
ホテルニュー姫路の最上階にはロイヤルVIPルームと掛け流しの天然温泉がある。
「ふあ〜極楽だわ〜ご〜く〜ら〜く」
蕩けるような表情で温泉にプカプカ浮いている大妖精さん
「お前大丈夫か?茹でダコみたいだぞ」
「失礼ね、タコさんに謝りなさいな」
「どういう意味だ?」
訳のわからない会話をしてると
「ううっ、熱い〜もう駄目〜」
俺の横でお湯に浸かっていた輝空奈がギブアップらしい。
「上がろうか」
「うん、茹でダコになっちゃう・・」
「うわわわ、真っ赤っ赤でもう茹で上がっちゃってるじゃないの、幼女に温泉は早すぎるのよ、さっさと上がるわよ」
輝空奈を女湯に1人で入らせるのは危ないと思い一緒に男湯に入ったんだが当然のごとく貸し切り状態、男と女に別ける必要あるのか?とは思うけどきちんとしたいんだろうな。
ちなみにエルフでホテルに泊まる人はいないらしい、俺達が家に住むようになったらどうなるんだろう?
「まあ、元に戻るだけなんだろうな」
俺とピノが来るまでは人間なんてこの世界には居なかったんだから・・・
そして長かった俺とピノのホテル暮らしの最後の夜が終わっていく
「昨晩はおたのしみのようでしたね・・」
朝食をレストランで食べていると、当たり前のように同じテーブルで座ってらっしゃるエレムミーネがそんな事を言ってきた。
「おたのしみって、」
「一緒に寝てたんでしょ、幼女と」
輝空奈とは別々のベッドに寝てたんだけど、いつのまにか俺に抱きついて寝ていたんだ、それを目撃したエレムミーネが
「まさかとは思ったけれど福太郎の好みって・・」
「それはない」
ちゃんと否定しておく
「朝っぱらからなにアホなこと言ってんのあんた、福太郎はねDカップ以上が好みなんだから、あんた達みたいなペッタンコは論外なのよ」
この馬鹿妖精は勝手な事を言いやがる、Cカップ以上だ。
「福太郎お兄ちゃんエッチだね」
「誰かさんがわたしの胸を大きくしてくれないから小さいままなんだけどね〜」
「ヤダヤダ胸なんて飾りなのにさ」
飾りの大切さを教えてやろうかと思ったがやめておこう、俺は黙ってコーヒーを飲んだ。
ゆっくりとした朝食の後
「さて、昼まで時間を潰さないとな」
家は昼までには完成しているという話なので昼頃まで待つつもりだった
「時間潰しといったらパチンコでしょ」
「絶対行かない」
エレムミーネと輝空奈を連れてパチンコなんて行けるわけない
「じゃあさ、駅前でブラブラしましょうよ」
というわけで俺達は駅前のショッピングモールに来ていた
「うわ〜キラキラだ〜」
沢山の服や装飾品が売っているこのフロアにはけっこうエルフのお客さんが入っていた
「欲しい物があったら買ってあげるから言うんだぞ」
「え!いいの!」
エレムミーネが喜ぶが、俺は輝空奈に言ったんだけどな、でもまあ偶にはいいかと女子3人組のショッピングに付き合う。
とうぜん俺は荷物持ちなので両手が紙袋でいっぱいになっていく
「これなんか似合うんじゃない?」
「何いってんのこっちに決まってるでしょうが」
ピノとエレムミーネが輝空奈の洋服を買いまくる
「てぃあなはこれがいい」
「あなたにはまだ早いわよそんな大人っぽいのは」
「そうよ、これとかが似合ってるわ」
俺には女の買い物にはついていけないので、離れた場所で座っていたら
「お久しぶりですね、お買い物ですか?」
「と、トワか、久しぶりだな」
アンドロイドの『トワ』から声をかけられた、そういえば駅前の服屋で働いてるんだったな
「服なら私の店も良いものが沢山ありますよ、見ていきませんか?」
「そうだな・・」
座っているのもなんだし俺の服でも買って帰るか
「ここです」
トワの店は窓側の見晴らしが良い場所だった
「なかなかにオシャレな雰囲気だな」
いつもユニクロで買っている俺にはハードルが高そうだ。
「どれどれ、おっコレは良さげだな」
ちょっと良さげな長袖のシャツを見つけた、うむなかなか良い、そう思いながら値札を見る
「高!」
コレ1枚が三万円?高すぎだろ、頭の中でタカスギグループのCMソングが流れる、タカスギ〜タカスギ〜
「良いものですからね、高いのは当たり前でしょう」
「売れるの?」
「売れませんね」
そうか、と言い俺はそっと店を出ようとする
「ちょっと待ってください、貴方なら買えるでしょう、魔法のカードで」
ああ買えるさ、でもなあ
「贅沢が当たり前という人間にはなりたくないんだよ」
「毎晩ロイヤルVIPルームに泊まっていた人間がよく言いますね」
それもそうか・・・
「じゃあ、買うわ」
「それでいいんですよ貴方は」
たまには高い服もいいだろうと自分に言い聞かせてみることにした
「ここからここまで全部買うわ」
「ヒュー、漢らしい〜、それでは噂の新築に配送しますね」
「ああ、よろしく頼むよ」
上限なしのカードをカッコつけて差し出す。
「またのご利用をお待ちしています」
茶番もいいとこなやりとりを終えて女子の元へと帰る
「あっ帰ってきた、福太郎〜、支払い頼むわね」
やまのような服や装飾品を見て金額を聞くのも馬鹿馬鹿しくなりカードをエレムミーネに放り投げてやる
「カードくれるの?」
「やるわけない、さっさと支払いを済ませて返せ」
まるで大富豪のような買い方をしているが、別に俺は金持ちでもなんでもない小市民なのだ
「・・・福太郎お兄ちゃん、凄いことするね」
「いつもはケチってユニクロやGUでしか買わないくせにどうしちゃったのさ?」
今日は特別だ、なんたって一国一城の主になる日なんだから
「女々しい買い物の仕方なんてやめたのさ」
この世界に経済なんて関係無いからな、なんたって税金すら存在していないんだ、買い物なんてリアルなおままごとみたいなもの、本当の意味で札束なんて尻を拭く紙にすらなりゃしねえ世界なのだから。
「そんな事を言ったらエルフの人達に悪いから言わんけどな」
やっぱりこんな買い方するのは今日だけだ、次からはユニクロにしよう、身の丈にあった生き方をしないと駄目になる。
満面の笑顔で両手いっぱいに他人の金で買った荷物を持ってやって来るエレムミーネを見てそう思ったのであった。




