さあ帰ろう 06
王都ボーゼマルの王城には俺の部屋がある。
勇者のために用意された豪華な部屋だ。
「なにか御用はございませんか福太郎さま」
そう問いかけてくるサラさんは齢50歳のベテランメイドさんである。
俺がこの城にいるときは俺専属として付き添ってくれている、ありがたい。
「うーん、べつに用事はないよ」
「あーわたしは喉が渇いたかなー、
あとあと、お腹もすいたかも、なにか甘いものでも食べたいかなぁー」
遠慮というものをつかわない居候妖精さんがメイドさんにオヤツをねだる。
「かしこまりました、お茶の用意をさせていただきます」
「いやいいですよサラさん、こいつはただの居候だから無視しといて」
「居候じゃないからね!
わたしは福太郎の無二の相棒、ということはわたしもこの部屋の主なのよ。そうよねサラ。」
「お前はペット枠なんだが」
「せめてマスコットっていいなさいよ!!」
俺達がおバカなやりとりしをしていると
クスクスとサラが笑っていた。
「本当に仲がよろしいですね。
お二人のやりとりを見ていると安心します。」
そういうとサラは頭を深く下げた。
「魔王討伐、本当にお疲れ様でした。
福太郎さまに仕えた15年間のことは絶対に忘れません。孫の代まで語り継ぎます。」
俺達は黙ってサラを見る、別れの挨拶なのだ。
「俺はこの世界でサラさんに大変お世話になりました。このことは一生忘れません。」
「サラはわたしにとっても優しくしてくれたわ。
ありがとね。」
本当に助けてもらったよ、俺にとっては姉のような母のような存在だったよ。
「私、お茶のご用意をしてきますね。
ちょうどいいお時間なので・・・」
そういいながら部屋を出ていくサラは、
「・・・サラ泣いていたね」
寂しそうに言うピノをしりめに
俺はただソファーに身を深く沈めるのだった。
それからお茶の用意をしてもらったのだが
なんかやけに量が多いなと思っていたところにティアーナ殿下が部屋にやってきた。
「あら、帰るの明日だから何か手伝うことないかと尋ねてきたのに、呑気にお茶とは余裕ねー」
そういいながら俺の横に座りお茶を飲む。
それ俺のお茶なんだが?
「姫さま、はしたないですよ」
サラがティアーナを注意する。
「まだ口をつけてなかったからいいのよ。
そうよね福太郎。」
「まあ、セーフだな、行儀の上ではアウトだが」
「甘いのよ福太郎は、このケーキぐらい甘い!
モグモグ、おいしいわねこれ、サラおかわりちょうだい」
「いったいその小さな身体のどこにはいっていくのかしら、メスガキ妖精の謎の1つね。
ところで福太郎、のんびりしてるけどちゃんと帰りの準備はできてるのかしら?」
「ああ、持って帰るのは無限倉庫にはいっている物だけにするから、この部屋の物はこのまま置いていくよ。」
「遠慮しないで全部持って帰りなさいよ。」
いやー、壁いっぱいの絵画とか、宝石満載の壺とかは持って帰っても飾るのに困るからね。
俺の家は小さな日本の一戸建てだから竜の頭蓋骨とか飾れないんだよ。
「ああ、そうそう福太郎の無限倉庫のことなんだけどー・・・」
そうしてお茶会は続いていく、別れを惜しむかのように他愛のない話を続けていく。
流れていく時間を惜しむかのようにいつか終わるであろうお茶会を俺達は続けるのだった。
(ああ、もうすぐ今日が終わってしまう。)
いつものように振る舞いながらお茶を飲む私。
本当は引き留めるつもりできたのに。
できるはずがない、15年間、側で見てきたのだ。
福太郎がどれだけ故郷に帰りたいのかを。
赤い月、青い月、白い月、
3つの月が1つに重なって見える瞬間が5年に一度だけ訪れる。その日に超大な儀式が行われる。
召喚の儀式もそうだった。
15年前、福太郎がこの世界に召喚された日
私もその場所でその瞬間を見ていた。
巨大な魔法陣の真ん中で当時14歳の福太郎の表情を私は忘れない、忘れられない。
5歳の私の心に刺さった棘。
何度も見たよ、帰りたいって泣いていたね。
帰りたい、帰りたいって。
それでも福太郎は頑張っていたよ、私達の前では笑ってくれてたよ。
5年前、どうせなら魔王を倒して帰るよって残ってくれた。
嬉しくて泣いちゃった私をいつもの調子でからかって笑って。
そんなあなたを
誰がとめられますか・・・・
だから明日は笑って見送るからね。