日常 04
「ちょっと、そこのお兄ちゃん寄っていきーな、一緒にお茶でもかまそうや」
朝、姫路城の周辺を散歩していたら土産物屋から、お茶を飲んでけと声をかけられた、アンドロイドのナナだ。
「ちょうどいいじゃん、喉乾いてたし」
「そうだな」
この店は俺達が姫路に帰ってきて最初にナナやトワと出会った場所でもある
「あっ、勇者さまピノさま、おはようございます!」
店の周りを清掃しているエルフの女の子に挨拶をされたので、おはようございます、と挨拶を返しながらナナが待っている店内に入った
「どうやー、可愛いやろ〜、アルバイトの女の子!」
店の外を一生懸命に掃除している見た目が20歳ぐらいのエルフの女の子を見てナナはだらしない顔をしていた。
「アルバイトとか必要?全部ロボットとかがやってくれるのにさー」
「ウチらには必要ないけど、彼女達エルフには必要やからな〜、欲しいもんがある言うてたし」
家賃無料、上下水道無料、電気代無料、交通費タダ、そしてさらには税金無し!!!!! 、という好待遇で姫路の街に住んでいる異世界から来た住民達、しかし食事や衣服などは自腹で購入することになっている。
「月八万円支給は生きていくだけなら余裕なんやろけど、ここは日本やで、こんなに物で溢れかえってるとこはないやろ?」
そりゃそうだ、ここは日本、街を歩けばお店だらけ、世界一美味い食べ物がそこら中に並び、オシャレな服が沢山売っている、いくら見た目が美しいエルフでも趣向品には目が眩むのである、しかもメイド・イン・ジャパン製の品々。
楽しい物たくさんありまっせ!
「足らんよなー、八万円では足らんよなー、ヒッヒッヒッ」
「うっわー、エグいわね、八万円」
「最近清掃作業してるエルフとか制服着てる飲食店の店員さんとかが増えたのはこういうことか・・・」
本当に欲しい物があるなら働いて買え!ということなんだろう、感心感心。
「冷たい言い方やけど、異世界人はウチらからしたら赤の他人やからな〜、必要以上に甘やかすつもりはないんや」
「タダで生活出来る時点で大甘だと思うけど・・・」
ピノがつぶやく
毎月、大人八万円、子供五万円(五十歳以下)の支給金配布は彼女達アンドロイドさんにとっては甘くはないのだろうか?
「まあホンマはな、何もせずにダラダラされてるよりもマシってことなんや、現に毎日食っちゃ寝してるエルフさんもおるみたいやしな〜」
「豚みたいに太ったエルフが誕生する日も近いわね」
今まで見たことがない太ったエルフを想像してタラ〜っと汗を垂らすピノと俺
「なんか俺だけ申し訳ないな・・・」
俺にはいくら使っても減らない魔法のカードが支給されている、永遠に働く必要がないのだ
「福やんは特別に決まってるやろ?胸をはって高い物を毎日食べまくったらええんよ」
「福太郎は遠慮しいなのよ、お手軽な値段のものばかり買ってるんだから、あたしにカードを寄こしたら毎日豪遊してやるのに」
「渡せんな」
別に贅沢なんて毎日する必要はない、時々でいいんだよ
「店長ー、お店の周りのお掃除終わりました〜」
眩しい笑顔で店内に入ってくるエルフのアルバイトさん
「おおーご苦労さんや、一服してからでええから店番頼むな〜」
「はい!」
ううっ、働いている人は眩しいな、ピノがその光を浴びて消えかかっている、お前も今日から働くか?
「ところでこの店って、トワの店じゃないのか?」
「トワは駅前の高級服店に移動したで」
「高級服店?」
「今度行ったらええわ、ボッタクリみたいな値段設定やからな〜笑ろてまうこと間違いないから」
「あ〜、私知っています、有名ですよね、あそこの服欲しいですけど買ったら余裕でバイト代飛んじゃいますよ〜」
「それってバイト代上げてって意味なん?」
違いますよー、と手を振って否定するアルバイトさん、そんなの見たらオジサンが買ってあげたくなるよ、今こそ魔法のカードの真価を発揮する時なのか!
その後、アルバイトの娘とお茶を飲みながら談笑して、俺達は店を出た、お仕事がんばってね。
「よく見るとけっこう居るわね、働いてる人」
「そうだな」
駅前まで歩いてると異世界人が清掃作業や店員として働いているのが目にはいる
「必要ないと思うけど」
「この世界は人間の手なんて要らないからなー」
ロボットやAIが街を完璧に維持してくれている上に、沢山のアンドロイドさんが居る、こんな世界で人間の労働者は必要なのかという話になってくるのだ。
「きっと必要なんだろ」
「そうかな」
「そうさ」
「注文した物を可愛い店員さんが持ってきてくれたら、ピノも嬉しいだろ?」
「えっ、べつに」
「・・・・」
まあ異世界の人達が姫路の街に馴染んでくれてるのは良いことだ、それに生活する為ではなく欲しい物の為に働くのは幸せなことだと思うぞ
「福太郎、約束の12時まで時間あるけど何する?」
「う〜ん、何か手土産でも買いに行くか」
今日の12時にエレムミーネが俺達を家に招いてくれた、食事会というやつだ、きっとフーナのことを話す気になったんだろう。
「楽しみね〜」
「食事じゃなくて話の内容が楽しみなんだろ?」
「決まってるじゃん♪」
あれだけ話すのを躊躇っていたんだ、いったいどんな話がでてくるのやら俺も楽しみではある。
「でさあ、何買っていこうか」
「まあケーキとかお菓子とかそういうのだろ?」
「ええー、もっと変わったの持ってこうよ」
「失敗するパターンだなそれは」
俺とピノは駅前の店を巡りながら運命の12時まで時間を潰すのであった。




