さようなら異世界 06
俺はティアーナの墓石の前で座っている
他の奴らは地球に行く準備があるからと先に行った
さらさらと世界樹の葉が舞い落ちる
「なんで俺は泣けないんだろうな」
この世界で過ごした時間はとても濃密だった、その時間の中でティアーナの存在は誰よりも大きかったはずなのに
「あたしはなんとなく分かるよ、まだティアが死んだって実感ないから、だってさ100年後っていってもさ、あたし達にとっては1年前なんだよ、たった1年前のことなのにさ」
俺の膝の上に座ってるピノが言う
「どうにかなんないかな、ほら、ティアが死んじゃう前に戻って助けたりとかできないかな・・・」
「・・・たぶん無理だな、できるなら師匠達がやってるだろ、やってないということはそういうことだ」
故郷を捨てて地球に移住するなんて最終手段だったに違いない、ましてや超高次元体なんて居る世界に移住するなんて余程のことだろう
「俺のせいか・・・」
「福太郎?」
「俺が日本に帰らなかったら、あの時、帰らないで残ってたら・・・こんなことにはならなかったかもしれない」
ずっと、ひっかかっていた想い
「無駄だった、本当に無駄だった、帰っても誰も居ないし、家も無いし、父ちゃんも母ちゃんも」
俺は下を向いて想いを吐き出す
「残ってれば良かった、ティアーナと一緒にいればよかったんだ、この世界で生きればよかったんだよ、あんな世界に帰っても何の意味も無かったんだから」
「・・・・」
「ずっとずっと日本に帰りたかった、帰りたくて帰りたくて、家に帰りたくて、だから帰ったのに、ティアーナを、みんなを置いてまで帰ったのに、なんもかも無くなってた、会えなかった、帰りたい所に帰れなかったんだ」
ピノが何も言わず、ギュっと抱きついてくる、泣いてくれてるのか俺のために
「本当に俺はアホだな・・・」
俺は下を向いたまま動けなかった、動きたくなかった、もうここでこの星と共に消えるのも悪くない・・帰りたくない・・・
『本当にバカね!』
ポカンと頭を殴られた
「えっ」
顔を上げる
そこには1年前に見たままのティアーナが立っていた
『さっきからずっと聞いてたけどバカみたいよ』
「テ、ティアーナ?」
俺は手を伸ばすがその手はティアーナをすりぬける
『わたし死んじゃってるからねー、まあそんなことはいいのよ、それより福太郎!メスガキ妖精も!』
あっ、これティアーナだわ、と目を丸くするピノ
『待ちくたびれたわよ、わたしこんな若い姿してるけど、死んじゃった時はもうオバサンだったんだからね、どれだけ待ったか分かる?』
「ごめん」
「あんた、若い頃の姿で現れるとか、よっぽど、ひいっ」
いらんことを言ってジロリと睨まれたピノはビビッていた
『まあ、待ってたのは私の勝手だから気にしないでいいわ、でもね、日本に帰ったことを後悔しないで欲しいの、だって帰りたかったんでしょ?』
「帰りたかったよ、でも」
『うん、複雑だよね、気持ちもわかるよ、帰らなかったら良かったと思っちゃうのもわかる、でもだからってあの時にこの世界に残ってたらもっと後悔してたでしょ?』
帰りたくて
帰りたくて
本当に日本に帰りたくて
ずっと
ずっと
『あなたの選択は正しかった
間違ってなかったんだよ福太郎』
ずっと後悔していた、
日本に帰ったことに、君を置いていったことに
『泣かないで福太郎、こうやってあなたはわたしに会いに来てくれた、こんな離れた世界まで来てくれた』
違う、俺は、俺は
『そうやって自分を責めないで、後悔はもうここに置いていきなさい』
ティアーナは優しく俺を抱きしめてくれた
俺は何も言えない
謝ることすらできない
ただ、ただ、涙を流した
いろんな想いがこもった涙を
どれぐらい時間がたったのか
ティアーナは消えていた
でも抱きしめてくれていたティアーナのぬくもりはまだ消えていなかった
ぐす、ぐすと鼻をすするピノと共に俺は立ち上がる
いつの間にか俺の手には1本の苗木が握られていた、世界樹の苗木だった、それを持ったまま俺達は歩き出す
「福太郎、あのこ最後に言っていたね」
「ああ言ってたな」
消える前にティアーナは
『魂というものがあるんだから生まれ変わりもあるとおもうの、だから今度会ったら幸せにしてね』
笑顔でそう言いながら消えていった
「また会えるかな・・」
世界樹の根元にある墓石をピノは振り返って見た、俺も最後にもう一度ティアーナの墓石を見る
「会えるさ」
だってティアーナだからな、俺達の常識なんて通じないだろ?
「そうだった、ティアだったわ」
「今もどっかで聞いてるかもなティアーナだから」
「ええーっ、怖いんですけどー」
あははははー、と笑いながら俺とピノは歩いていく
でもまた会える予感はする、それがいつなのか分からないけど俺達は出会うだろう、
「あたしラーメン食べたい」
「俺もなんか腹へったし、帰るか姫路に」
だから生きよう、また出会うその日まで




