さようなら異世界 05
エルフの王城の東側には聖域と呼ばれる場所がある、目的の場所はその聖域にあるらしい
「相変わらず神々しいわ、この大木」
俺達が歩く先には世界樹が生えている、夜の闇の中で薄い虹色のオーラを放つ世界樹を見たピノは、勿体無いけどコレは地球には持っていけないね、と溜息をついた
「この地と完全に融合してるからね、他の場所に移しても枯れちゃうのよ」
残念だけど、とエレムミーネは目を細める、エルフの国を照らし続けてきた偉大なる神樹を置いていくことになるのがどれ程に無念なのか、俺にはわからないことだ
「あっ、誰かいるよー」
世界樹の根元に人間の後ろ姿が2人分、尻尾が見えるから獣人だな、う〜む、見覚えあり
「福太郎!犬猫コンビだよアレ!」
ピノが2人に向けて飛んでいく、こちらに気づいた2人組がこっちに振り向く
「嘘だろ?タマコとワンコか?」
2人は俺の仲間だった犬人のワンコと猫人のタマコだった
「福太郎にゃ!ついでにメスガキ妖精もいるにゃー!」
「感動の再会ねえ、さあ、お姉さんの胸に飛び込んでいらっしゃい」
「おらぁ!この馬鹿乳があ!」
ボヨーンとピノがワンコのお胸にパンチして反動で吹っ飛ぶ、それを見て俺の口元がにやける
「相変わらずだな2人共、ていうか100年経ってるのに見た目が変わってなくないか?」
ワンコとタマコの姿は、俺が日本に帰る前と同じ姿に見えるのだ、エルフと違い獣人は人間と寿命は変わらないはずなのに
「うちは猫又族だからにゃ、めっちゃ寿命長いんだにゃ」
「お姉さんも実は犬神って種族なのよねー」
「へえ〜、あんたら凄いじゃん、とっくに死んでるとおもってたのにさ〜、よかったじゃんよ」
嬉しそうに飛び回るピノ
それより猫又に犬神か、それって妖怪なのでは?
まあ、死んでると思っていた友人が生きてたのは嬉しいことだ、悪くはない
「それより2人共なんでここにいるんだ?」
「墓参りにゃ、地球に行く前にお花をあげようとおもったにゃ」
「お姉さん達、もうここには来れないからねー、最後に綺麗にしてあげないと悲しいから」
墓?
俺は世界樹の根元に立っているものに気づく
小さいけど綺麗に手入れされている墓石に、そこに刻まれている名前は
「・・・ティアーナ」
俺とピノは墓石を見て驚く、ティアーナの国がある大陸はブラックホールの卵に飲み込まれてるのでティアーナに関する物は無いと思っていたのだ、それは当然墓も・・・
「形だけでもね、作ってあげたかったから」
エレムミーネが墓石の前にしゃがみながら語る
「ティアーナ達の遺体はまとめて焼却されたらしいの、そのあと穴に埋められて王家の墓にすらいれられなかった、それを聞いてね、遺品は無いけどお墓だけでも作ってあげなくちゃって・・」
エレムミーネは魔法で花束を出す、色鮮やかな綺麗な花束を
「うちもティアーナが殺されたのを知って獣人国を捨てたにゃ、太陽石なんて石ころの為に醜いいざこざをしている国に心底愛想がつきたからにゃ」
タマコが墓石の前で項垂れる
「お姉さんもね同じよ、ティアちゃんが殺されたのを知ってそれはもう腹がたったわ、でもねどうにもできなかったの、無力だったわ、だから国を捨ててあげたの」
寂しそうに笑うワンコ
「獣人国の重要な役職に就いていた2人が居なくなって大変だったみたいよ」
「あんな国なんてしらないにゃ、それよりあの裏切り者のクーズガリオ公爵を殺してやるつもりだったにゃ、でもティアーナにとめられたにゃ・・」
「お姉さん達2人で暗殺の計画をたててたんだけどね、同じ日に同じ宿で寝てた時に枕元に立たれたの、ティアちゃんがね『くだらないことはやめなさい』って頭を優しく撫でてくれたの」
タマコとワンコは墓石の前で黙祷をする
獣人と人族はもともと仲は良くなかった、魔王が現れる前は国同士で戦争までしてたらしい、だがティアーナはそんな壁すらぶち破った型破りの王女様だった、俺も側で彼女達が打ち解け仲良くなるところを見てきたので知っている
「皆さま考えることは一緒ですのね」
後ろから声がしたので振り返るとフーナが花束を持って歩いてきた、そして墓石の前に花束をそえる
「ティアーナ叔母様はわたくしにとても優しかったんです、まるで自分の娘のように可愛がってくれましたわ、ふふっ、おかしいですよね、エレムミーネ様とはケンカして口もきかなかったのに」
フーナの言葉を聞いてエレムミーネは口を尖らせ
「謝っても許してくれなかったのよ・・」
「あれはエレが悪いにゃー」
「お姉さんも話を聞いてドン引きしちゃったからねえ」
2人がジト目でエレムミーネを見る
いったいケンカの原因は何だったんだ?と俺が聞くと、それは、ゴニョゴニョ、日本に帰ってからちゃんと話すわ、と教えてくれない、すると
えっ?まだ言ってないの?とタマコとワンコがビックリする
「福太郎さん、ティアーナ叔母様は生涯独身でしたのよ」
「えっ」
俺とピノは驚く、ティアーナは第一王女である、しかも才色兼備、史上初の女帝になるかもと言われていたほどの人物だ、婿をとらないなど周りが許さないだろうに
「あのこ頑固だからね、周りがなんといおうと独身をつらぬいたのよ」
「わたくしティアーナ叔母様に結婚しない理由を聞いたことありますの」
フーナが真っ直ぐ俺の目を見て
「『福太郎とまた会った時、独身じゃないとこまるじゃない』って笑ってましたわ」
「ティアちゃんらしいわね、言葉だけじゃなくて実際にそれを行動でしめしちゃうあたり」
「うちは好きにゃ、そういうちょっと頭のおかしいところ」
タマコ達は笑っているが、俺は笑えなかった
「わたしがね福太郎の世界とゲートを繋げようとテレサ様達と頑張ったのはね、この頑固者の親友に好きな人とまた会わせたかったからなの」
エレムミーネは墓石の前で
「でも、時間がかかりすぎちゃった、間に合わなかった、ごめんね、ごめんね、ティアーナ、遅くなっちゃった、ティアーナ、ティアーナ、連れてきたよ、福太郎だよ、遅くなってごめんね、ごめん、なさい」
墓石の前で泣き崩れるエレムミーネ、タマコもワンコもフーナも泣いていた、
でも俺は何故か涙が流れない
ただ、ただ、静かに墓石の前で立っていた・・・




