やってくる者たち 08
駅前にあるホテルの最上階、
姫路の街を見渡せる展望レストランで俺は姫路城をぼーっと眺めていた。
「今日も1日が終わるなー」
日が暮れていくにつれ白い姫路城がオレンジ色に染まっていく
「綺麗な景色ですわね」
いつの間にか隣に来ていた黒髪エルフのフーナが窓から見える夕暮れ時の街に感嘆する。
「これほどの街なのに人が居ないなんて・・・」
昼間、エルフ達には喫茶店でこの世界が滅びる様子を博士の説明に映像をつけて見せている。
超高次元体が地球人を皆殺しにする映像をだ。
「福太郎さんは超高次元体がこの世界にまた出現するとお考えになってるんですね」
「出る、と思う」
超高次元体は地球を滅ぼさなかった、
滅ぼしたのは人類だけ。
人間を皆殺しにする、それが目的だったなら
今、ここに、その人類がいる。
俺だ。
「そして私達エルフも人類として狙われると」
「ああ」
昼間、喫茶店で師匠達はエルフの地球への移住を提案してきた、しかし1万人のエルフだ。
地球で1万人のエルフが生活を始めたとして
それを超高次元体が気づかないとは思えなかった。
「福太郎ーー呼んできたよー」
声のするほうを見ると
ピノが師匠とエレムミーネを連れてきてくれた。
「よし、夕食だ」
俺はフーナを連れてテーブルに移動する。
5人で窓側の席につくとウェイターをやっているアンドロイドさんが飲み物や料理を運んでくれた。
「美味しいわね、見た目も綺麗だし」
エレムミーネが上品に料理を食べる様子を見て、そういえばコイツはエルフのお姫さんだったなと思い出す。
「地球人の料理はどれも素晴らしく美味しいですわね」
フーナのテーブルマナーも上品だ。
「わしは酒はあまり好きではないが、この梅酒とやらは凄まじく飲みやすいのう、おかわりじゃ」
師匠はあまりマナーとか気にしてない様子。
「師匠、梅酒は飲みやすいけどアルコール度数が高いんで気をつけてくださいよ」
「そうなのか、わかった」
本当に分かってくれたのだろうか?
「聞いてよ福太郎、エレったら案内した部屋にケチをつけたんだよ!」
「別にケチなんてつけてないわよ、少し狭いかな、って言っただけでしょ」
「あんた、ロイヤルVIPルームを狭いだなんて、あー嫌だ嫌だ、お姫様の感覚はやっぱり贅沢だわー」
このホテルのロイヤルVIPルームは金を出せば泊まれるような類の部屋ではない、泊まるのにお偉い肩書が必要になるような部屋だ、たとえば国の要人とか皇族、
あっ、でもコイツ王族だったわ。
あーだ、こーだー、言いながら食事をする
久しぶりだなこの感じ
だっていつもはピノと2人だからな。
そして、いつの間にか日は完全に暮れて夜の街が無数の灯りで彩られていた。
「凄い、なんて美しい夜景」
フーナは食後の珈琲を飲みながら姫路の夜景に見惚れている。
「たしかに綺麗な夜景ね、でもなんだか寂しいわ・・」
エレムミーネは紅茶を飲みながら悲しげに言った
「ゴーストタウンか、、これは言い過ぎじゃな、すまん」
師匠はグラスの中の氷を転がしながら
「昼間に博士殿から教えてもらった歴史を知れば、
今わしらが見ているこの夜景を作るのに彼女達がどれほどの想いをこめているのか分かるからのう。
そしてその想いは、、あまりにも悲しいと感じてしまうのじゃよ」
彩り豊かな灯り、カラフルなネオン
店頭では音楽が流れてるだろう。
だが賑やかではない。
人がいないから
「愛弟子よ・・・
いや、なんでもない、ヒック」
師匠は何かを言いかけたが言うのをやめて肘をついた姿勢で目をつむってしまった。
あれ?これ寝てないか?
「寝てるわ・・テレサ様お酒弱いのに呑むから」
エレムミーネが師匠の頬を指でつついて確認している。
「じゃあ私達は部屋に帰らしてもらうわね、よっこいしょっと」
寝ている師匠を背負いながらエレムミーネがおやすみなさいと言った。
「今晩はあたし、エレ達の部屋で寝るから、
この娘達ったらエレベーターの使いかたも知らないのよねぇー、じゃあね、おやすみ福太郎」
ピノがそう言いながらエレムミーネの前に飛んでいった
「それでは、わたくしも失礼しますわ」
ぺこりと頭を下げてフーナもついて行く
でも途中で俺の方にに振り向いて
「福太郎さん、また明日ですわ」
そう言いながら手を振ってきた
そんなフーナに俺も軽く手を振り返した。
しばらくの間、彼女達は姫路に留まる予定だ、
1日では何も決められなかったから。
それに俺もいろいろ考えをまとめる必要がある。
昼間、喫茶店で話を終えたあと博士は
『福太郎くん、我々は君の考えにしたがうとしよう、
月に居られる「初姫」様がそうしろと言っておられるからね。』
そう言い残して帰っていった
ちなみに俺はまだ初姫さんとは話をしたことは無い。
『少年、なんか難しいことになりそうだけどさ、
本官は福太郎殿にしたがいますぞ!なんちって、
はははっ、じゃあね〜~』
パチンカス婦人警官は笑いながらパチンコに行った。
『どないな結果になるか知らんけど
行動せなアカン事もあるやろし
別にエルフの事も福やんが背負うこともないとウチは思うけど、まあ、でも君は決めるんやろなぁ
そのときは手を貸したるやかいな』
親指を立てながらナナも帰っていく。
この街は彼女達が作った街だ、
その街に俺は住まわせてもらっているだけ。
この世界にとって俺はなんなんだ?
「これじゃ、ただのヒモじゃないか・・・はあ・・」
考えれば考えるほどにだんだんと今の自分が情けなく思えてくる。
「はあ・・」
そして良い考えはでないのに
自然とでるのは溜息だけだった・・・




