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さあ帰ろう 03



ボーゼマル王国はこの世界でもっとも大きな国だ。

俺が召喚されたのもこの国。


「魔王なきこの平和な世が永遠に続くことを!!」


『平和が続くことを!!』


王様が右手に持ったグラスの中身を飲み干す。

あれは水だな、王様は酒が呑めないことを俺は知っているから。


同時に会場にいる人達も同じように飲む、

俺も一口飲む、うん悪くない味だ。


「あら、美味しい」


俺の隣でティアーナ殿下がグラスをあけてた。

イッキとは、父親と違いこの娘は酒に強い、ウワバミなのだ。


「っていうかティアーナ殿下はあっち側にいなくていいのか」


あっちでは国王と王妃がいて貴族達の挨拶待ちができていた。


「また・・・いいんですよ、あれはまだわたくしの仕事ではありませんので

お酒も飲みたいですし」


いつのまにか2杯目を手にしている、

デカイねそのグラス。


『ティアーナさま』


貴族の御令嬢様たちがやってきた。

ティアーナの友達である。

みんな綺麗に着飾って、君達の持っているグラスもでっかいですな。


『福太郎さま、魔王ご討伐おめでとうございます』


そういって挨拶してくれる彼女達は俺にとっても知り合いである。

一度彼女達のお茶会という名の呑み会に付き合わされて酷い目にあった記憶が。

全員強い、ウワバミ。

ああ恐い。


まあまあ、

あらあら、

うふふふふふ


そして始まる女子トーク、立ち飲みしながら。

呑むペースはやいね。


最初は会話にくわわることができたが

話が盛り上がるにつれ、すぐについていけなくなった。

女子の会話にははいっていけない。


周りのを見ると他の人達とは少し距離がある。

男性貴族も声をかけない。

なぜかって?

知っているのだ彼女達の怖さを。


「さてと」


俺は気配を消して

話に盛り上がっている彼女らから離れていくのであった。


テーブルに並べてある料理をつまみながら

パーティー会場を見渡す。


大きく豪華な会場には貴族や周辺諸国の王族などの

お偉い方々がたくさんいる。

そしてときどき俺も挨拶される、

偉いさん相手は面倒だが無視するわけにもいかない。

だいたい魔王退治を労ってくれるが

なかには遠回しに嫌味を言うやつもいる。

だからか

貴族に慣れないのは

俺もいちおう貴族なのだがね、だめだ。


ピノなんて貴族を憎んでいるからね。

ここについてきていないのも無理はない。


さすがにこの空気に疲れてきたんで外にでも逃げるか、チラリとティアーナを見てみると

盛り上がってるなぁ、若い女子の集団ができてら。

あれにはいっていく勇気はないな。


俺は気配を消して外に出た。


日はとっくに暮れ星空が広がっていた。

王城の外にあるバルコニーから王都を見渡す。

綺麗な夜景だ。

この世界に電気はない、雷ぐらいだ。

しかし太陽石のおかげで人々の暮らしはなかなかに快適である。

太陽石とは充電しなくていいバッテリーのようなもの、地球にもあればとても便利だろう。

たとえば自動車などの乗り物につかえれば・・・


「魔国のあった場所に太陽石の大きな鉱床がみつかってるからな、これからもっと発展するだろうな」


「そうですよ、この世界はこれからです」


俺の横に静かに歩いてきたのは

この国の第二王子、ティアーナの弟


「タンガルか、お前も涼みにきたのか?」


「ええ逃げてきました。」


はははっと笑う、まだ幼さを残した王子。

こいつが赤ん坊のころから俺は知っている、

良い男に育ったな。


「向こうは盛り上がってるなぁ」


「あれはもうパーティーではなく宴会ですよ、

父上も母上も諦めて放置してるし、当たり前のように

ぼくの婚約者も巻き込まれてます」


「そ、それは大丈夫なのか?」


「姉上に鍛えられてますからね、ぼくよりも強いですよ、いろいろと」


「それは心強いじゃないか」


「もう尻にひかれてますよ」


13才が言うセリフじゃないな、と思いながら

俺の分の飲み物をもってきてくれてたのでそれを受け取る。


「ほんとう気の利くやつだな」


「福太郎さんにいろいろ学びましたからね」


と二人で乾杯をして夜景を見ながら談笑だ。

なぜだろう男同士のほうが落ち着くのは?


「2週間後ですか送還の儀式は」


「ああ、日本に帰れるよ。」


「帰らないといけないんですか?」


「家族もいるしな、」


「家族ならこっちでも作れますよ、

姉上だって・・・」


とめてくれてるのか、

少しうれしくなる。


「・・・不思議なもんだよな、」


俺は夜景を見つめながら言葉を続ける。


「この世界に来たとき俺は14だったよ、

あれから15年、こっちでの想い出のほうが多すぎてな、向こうの記憶が薄くなっちまった。

でもな帰りたいんだ日本に、

なぜだろうな・・・」


「故郷だから、ですか」


「だろうな」


はっきりいって味噌汁の味すら覚えていない。

ほんとうに薄っすらとした記憶になった生まれ育った街。

でも帰りたいという想いは年々強くなっていく。


「姉上が婚約者を頑なにつくらない理由、福太郎さんは気づいているでしょ」


第1王女が20歳にもなって婚約者もいないなんてありえないことだった。

でもティアーナは男を寄せ付けない。

俺以外は・・・


「ぼくは福太郎さんが次の国王になられても文句はいいませんよ?」


そういうタンガルの目は真剣だった。

いいやつだよお前。


「・・・腹がへったななにか食うか」


そう言いながらパーティー会場に足をむける。


「福太郎さん・・・」


タンガルも俺について会場にもどっていく。


会場では


「ヒック、今日はとことん飲みますわよ、皆さーーん」


「わかってますわ、ティアーナさまー、ヒック」


『朝までお付き合いしますわー』


「あたくしは限界です、うっぷ、義姉さま、、」


わーー

きゃははは

響き渡る女性たちの楽しげな笑い声

ティアーナが会場の女性達をまきこんで大宴会をはじめていた。

あれ?

王妃さまとかも混じってんだけど。

あれは隣国の姫さんもいるな。


「なあタンガル、お前の姉に婚約者ができない理由って、あれが問題じゃないか?」


俺の隣にいる第二王子を見ると

頭をおさえながら天井を見上げていた。


「とりあえず止めてきます」


そういいながら戦場に向かって歩いていくタンガル。


「いや無理だろ」


そして俺は料理を片手に会場の角へと避難するのであった。

























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