なんだって作れる
姫路の郊外には空き地が広がっている。
整地されているこの広大な土地は未だに何もない空き地だらけだ、そんな空き地のずっと奥の山側にとてつもない大きな建造物がある、食料プラントだ。
「で、でけえ!!」
その建物は横にも縦にも巨大だった。
「大きさを解りやすくいいますと、東京ドーム10個分ですね」
アンドロイドのトワが教えてくれるが、いまいちピンとこない、東京ドームに行ったことないし、ただデカイということは伝わってきた。
高さは50メートルぐらいか、外壁は緑色で大きな扉がいくつもあるが窓は少なめだ。
「へえ〜、この中で食料を作ってるの〜?」
「はい、ここでピノさんがいつも食べてる物が作られてますよ」
ピノの疑問にトワが応えた。
「よし、謎は解けたな、帰るか」
俺は回れ右をして帰ろうとするが
「福やん、建物の中を見学せんと意味ないやん」
そう言いながら俺の肩に手を置くのはナナだ、今日はこの四人で食料プラントを見学しに来てるのだ。
そしていつのまにか俺は福やんと呼ばれている・・・
今日の朝食中にピノが、こんな美味しいお肉どうやって作ってるの?、との疑問を口に出して、それを聞いてたトワが、それでは見に行きますか?、となり、じゃあウチも行くわとナナが言って、そこに居た俺も当然のごとく行くことになったのだが
「いやいや、こんなデカイ建物の見学なんてしたくないんだけど」
日が暮れるわ!!
「ああ、そんなら大丈夫や、見た目と違って見るとこなんて少ないから1時間もかからんよ」
「それに自分達が普段食べている物がどうやって作られているのか見ておくべきだと思いますよ?」
「そうだよ、毎日の美味しいご飯に感謝するためにも見ておくほうがいいよ福太郎!」
・・・しかたがない行くか
ということで食料プラントの見学が始まった。
俺達がエレベーターに乗ると
プシューー
とエレベーターの壁から消毒用のエアーが吹き出て全身を消毒された。
「それでは皆さんエレベーターに乗って二階に行きましょう」
「一階はいいのか?」
「一階は保存庫や加工場となっているので興味があるのでしたら後で行きましょう」
そう言っているうちに二階に到着、廊下に出ると内側にも壁があるのだがその壁は全て透明になっており、その向こうには見渡すかぎりに小麦が実っていた。
「建物の中に小麦畑があるとは」
「ここは小麦とお米の栽培をしています、畑の中には入れませんのでここから見て下さいね」
「え〜中に入れないの?なんで〜?入りたいよ」
「あ〜ピノたん、色々とな、ほら天井から照らされてる灯りとかな、あまり人体にはよろしくないんや、作物には大変よろしいんやけどな〜」
天井からは赤とか青とかの光が照らされている、あまり目とかにはよろしくなさそうだ、この透明な壁はそういうのを防いでくれてるのだろう
「ん?土じゃないな」
俺は小麦の根本を見て気付く
「それは特殊なジェルです、栄養や水分を自動的に調整してくれてます、この時代は作物を作るのに土は一切使われていません」
「この方法なら1年に4回も収穫できるんやで、植えるのも刈るのも機械で自動やしな〜ウチらはなんもせんでもええんや、居るだけでええんよ」
楽ちん楽ちん、とナナは笑っているけど、なるほど食料不足が解消されるわけだ、工場で機械が自動で大量生産してくれるんだから。
10分ほど見てから次の階へ行くことに
「次の階は野菜や果物を作ってますが、小麦やお米となんら変わらない方法で作ってますので4階までとばしますね」
エレベーターの中でトワはそう言いながら4階のボタンを押す。
「次はピノたんの大好物な肉と魚やで〜」
「牛さんやお魚さんが見れるんだね、この世界のお魚って初めて見るからちょっと楽しみかも、ワクワク」
そして4階に着くとさっきの階と同じような透明の壁があった。
「もしかしてまた入れないの〜ええ〜〜」
「ここは見学できますよ、こっちです」
透明な壁の一部は自動ドアになっておりそこから室内に入ると大きなカプセル型の水槽が並んでいた。
水槽の中には透明の液体が入っておりその液体の中心には大きな肉の塊が吊るされている。
「これは神戸ビーフですね、ここまで大きくなるのに2週間かかります、あとは冷凍室で寝かせるだけですね」
「へえ〜、で、牛さんはどこ?」
ピノは辺りを飛び回り探すが、あるのはカプセル容器だけだった。
「前にも言ったやおもうけど、肉や魚は全部こうやって細胞から培養で量産されてんのやで、牛も豚も魚も鳥もおらんよ、その肉だけやで育てとんのは」
「この方法のおかげでどこでも簡単に肉や魚が作れるのですよ、ちなみに日本人がこの方法を作り上げましたがC国やK国のスパイにやられて大損したのは有名な話ですね」
なるほど、とんでもない技術だな、しかし日本は未来(過去)でもやられてるのか・・・しっかりしろよ日本政府!もう存在してないけど。
「ほ〜〜ん」
牛や魚が居ないと知り、あきらかにテンションが下がっているピノを連れて色んなカプセル容器を見て周る。
「これが松阪牛、近江牛、これが鹿児島の黒豚、ああこれが名古屋コーチンやな」
歩きながら培養されている肉を紹介してくれるのだがどれもこれも超有名なブランド肉ばかりだ、どおりで毎日食べている料理がめちゃくちゃ美味いわけだ。
「ここからは魚介類ですよ」
と、トワが言うが肉と同じようなカプセルが並んでいて別に変わったものが見れるわけでない。
ただ、
「ここからはマグロやな、これは本マグロ、大間のマグロのトロやで」
瞬間、ピノがカプセルに飛びついた
「ふおおおおおおーーー、美味しそう!!」
ヨダレを垂らしながら見つめるピノ、そうコイツはこの世界に来て大トロのにぎりを食べたときに美味すぎて寿司にはまってしまったのだ。
妖精の大好物が寿司?
「た、食べたいんだけど!!マグロ丼!!」
「う〜ん、そうやな見学はここまでにするか」
「まあ、あとは香辛料やそういったものぐらいですしね、終了にしましょうか」
こうして食料プラントの見学は30分ほどで終わった。
俺達は駅前に戻ってきて昼食をとる。
「美味しい!トロ最高!!」
マグロのトロ丼をガツガツ食っているピノとは違って俺はそんなに腹は減らなかった。
なので軽食ですませている。
トワとナナはコーヒーを飲んでいる、アンドロイド達は食事はとらないがコーヒーなどのドリンクは飲んでいる時がある、あまり意味はないらしいが雰囲気的に飲みたい時があるらしい。
「しかし食料プラントって凄すぎるな、見学して良かったよ、アレのおかげで沢山の人が救われたんだな」
俺がそう言うとトワが
「いえ、食料プラントが救ったのは人間ではなくて地球の自然ですよ」
「そうやでプラントが出来るまでに人間さん達は少ない食料を作るのに広大な森林を焼き払って畑を作って地下水を大量に消費してたからな、環境破壊の権化やわ」
大昔、貧しい国の人々が生きるために自然を破壊して、人工の多い国がそれを食い物にした、その結果の大自然災害らしい。
「食料プラントは地球の自然を救いました、そのオマケなんです飢える人々が助かったのは」
「食料プラントがなかったら超高次元体が現れる前に環境破壊で滅んでたやろな人間さんは」
そんなことを言うアンドロイドさん達だが、俺にとってはただの過去の話、どうでもいいことなんだよな、問題なのはこの世界で食料を消費しているのが俺とピノの2人だけということ
トワとナナが言うには生産量は十分の1程度におとしているらしいが・・・
「美味いかピノ、いっぱい食べろよ」
「めちゃくちゃ美味しいよ!おかわり〜〜」
その小さな身体のどこに入っていくのか知らんが、いっぱい食べて減らしてくれよ、と思いながら俺は箸を置くのだった。




