昔の原作小説 VS 現代版アニメ&ドラマ
初出:令和7年5月19日
中学生のとき、菊池寛の戯曲「父帰る」を読んだ。
中高年の父親が妻子を残して家出して、またしばらくすると家に戻ってくるというダメンズの物語。
あるとき父親が家に戻って来た。
妻や子供たちがさんざん父親を非難するが、父親は憐ったらしい言葉を残してまた家出する。すると残された家族はしばらく話し合った後、家出したばかりの父親に戻ってくるよう外に出て父親を呼び戻すというストーリーだ。
大正時代に書かれた作品である。
その後、高校生ぐらいのときだったと思うが同作が原作のテレビドラマ「父帰る」を見た。
原作と違い、父親の友人が新キャラとして加わる。父親が戻って来たとき、父親がなぜ家出したか、父親の友人が涙なくしては語れない深い理由を延々と家族に説明した後、父親は家族の理解が得られなかったとして再び家出する。なるほどこれほどの事情があれば家出したのも仕方ないと視聴者は納得する。その上で家族は父親を呼び戻す。
原作の通りでは、現代人は父親に同情できない。そこで父親に同情してもらうよう現代風にアレンジしたのだろう。
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子供の頃、「アンデルセン物語」というアニメドラマを見ていた。アンデルセンの童話をアニメで紹介するのだが、「旅は道連れ」という六話程度で完結するストーリーが一番印象に残っている。
その後、GYOかYouTubeで全話無料で配信していたので久しぶりに観た。
ところで原作のアンデルセンの童話は読んだことがなかったが、先日、青空文庫で「旅のなかま」を読んでみた。
原作はアニメと少しストーリーが違う。
やはりアニメでは現代風にアレンジしてあった。
父親と二人暮らしの少年ヨハンスは、あるとき父親が亡くなり、天涯孤独になってしまい、旅に出る。
すると旅の途中で一人の青年に出会い、一緒に旅をする。この青年は名前がなく、原作では”旅のなかま”だが、アニメでは”道連れ君”と呼ばれる。
道連れ君は不思議な魔法を持っており、冒険の途中、何度もヨハンスのピンチを救う。最後にヨハンスは美女のお姫様と結婚して王様になり、めでたし、めでたし。
ところが最後に道連れ君は自分の正体を明かしてヨハンスのもとを去っていく。
実は道連れ君はすでに死んだ人間の幽霊で、あの世からヨハンスに恩返しするためにやって来たのだ。
原作ではヨハンスが道連れ君に会う直前、墓地で墓あらしに遭遇する。墓あらしをされたら遺体がかわいそうだと思い、ヨハンスは墓あらしになけなしの金を与え、去ってもらい、墓に花を添える。ところがこの墓が道連れ君の墓だったのだ。
アニメでもほぼ同様のストーリーだが、原作と違うのはヨハンスが当初、自分の父親の墓があらされたと誤解していたことだ。実はその墓は父親の墓でなく、道連れ君の墓だったのだ。
アニメと原作で違うのは道連れ君のキャラクターだろう。
最初、登場時は生意気で嫌な奴という印象だったのが、物語が進むにつれて魔法を使うスーパーヒーローになっていく。
原作では終始、いい人だ。
またアニメでは途中でサーカスの少女が加わり、三人で旅をする。この少女が全編のヒロイン役だ。
ヨハンスが王女と結婚しようとすると、少女が嫉妬するというのも原作にはない、アニメならではのストーリーだ(この少女も実は王族で最後にヨハンスと結婚するのだか)。
現代人受けする改良がアニメでは随所にみられる。
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ということで今回も結論はないが、昔の原作は今の時代に動画化するとき、現代風にアレンジしているのがあえて言えば結論か。
だから何だと言われても元も子もない。
本当は藤沢周平の短編小説「帰郷」にも言及したかった。
「父帰る」と同様、ふらふらした父親がときどき家に戻ってくるのだが、それにプラスしてチャンバラアクションがある。ダメンズの父親が小太刀を使った剣豪という設定なのだ。
比較的最近の作品で作者はテレビドラマの時代劇を見ているだろうし、すぐにもドラマ化できる小説だとしたかったのだが、調べてみるとすでに映画化されているようだ。
映画「帰郷」を観ていないので何とも論ずることができない。
いずれにせよ、どうでもいい話ではある。
(つづく)




