シン・ガンダム VS 時代劇 前提知識エンタメ
初出:令和7年5月10日
テレビドラマや映画の時代劇には昔から”お約束”がある。
織田信長がドラマに出てきたら、クライマックスシーンで信長が必ず”敦盛”を舞う。扇子を広げて舞いながら、「人間50年...」の歌も信長役の俳優が吟ずることもある。
武田信玄と上杉謙信は川中島の合戦で、直接対決する。
見ている視聴者からすると「待ってました」という血沸き肉躍る気分になる。というか最初から信長が敦盛を舞うシーンや、信玄と謙信のチャンバラシーンを見たいためにドラマや映画を観ているのだ。
忠臣蔵にいたっては全編”お約束”だ。
時代劇は観客に歴史の前提知識を必要とするエンターティメントなのだろう。
厳密には観客に歴史の素養を求めているのではない。
川中島の合戦では実際に信玄と謙信はチャンバラをやっていないというのが歴史学者たちの説のようだ。江戸時代の講談でそういうストーリーが出来上がった。ちなみに「敵に塩を送る」という謙信が信玄に塩を送った話も史実ではなく、講談から来ているようだ。
こうして考えると観客にフィクションの前提知識を求めるのが時代劇かもしれない。
1.日本誕生
最近、アマプラで映画『日本誕生』を見た。
1959年のカラー映画。主演は三船敏郎でヤマトタケルを演じた。
古事記、日本書紀にある神話のストーリーで、あらすじは観る前から検討はつく。だがそれでも楽しめる。というか神話を全く知らない人だとかえって楽しめないのではないか。
よく知っている神話のストーリーながら、それを現代ドラマ風にアレンジしてあるのが見事だ。特に男女の三角関係などメロドラマが記紀で見られるとは思わなかった。
さすがに特撮(SFX)は古い。これだけは今の人が見たら辟易するかもしれないが、チャンバラシーンは十分楽しめる。
時代劇の江戸時代向け殺陣は、ヤマトタケルがいた弥生時代を舞台にしてもそのまま使える。
2.ガンダムとスターウォーズ
最近、ガムダムシリーズの新作『ガンダム ジークアクス』にはまっている。
『新世紀エヴェンゲリオン』の庵野秀明監督が脚本に参加しているとのことで、タイトルは『機動戦士シン・ガンダム』にした方がよかったのではないかと思う。
いずれにせよ、小生が見ている最大の理由はネットの番宣がすごいからで面白いからではない。
しかし『ガンダム ジークアクス』が全くつまらないかというとそうではなく、小生のようなファーストガンダム好きの年寄り世代にも楽しめるような仕掛けがしてある。
特に第2話は完全なファーストガンダムのオマージュだ。
女子高生が主人公で、あくまで現代の若者向けアニメのノリだが、随所に”黒い三連星”だとか、”ゲルググ”だとか、”ミノフスキー粒子”といった、ファーストガンダム世代が喜びそうなネタが出てくる。
このようなオールドファン受けをねらった作品と言えば、小生はスターウォーズを思い出す。
スターウォーズのエピソード1が最初に米国で封切られたとき、戦争から帰って来た戦闘機に搭載されていたロボットが”R2-D2”だと紹介されると、観客が映画館で拍手喝采したという。
スターウォーズはエピソード4,5,6が本来の映画シリーズで、エピソード1,2,3はその続編ならぬ、前編のストーリーであり、オールドファンに”懐メロ”を楽しんでもらうために企画された。
だからエピソード4,5,6に出てくるキャラクター、”R2-D2”がエピソード1に登場したとき観客は拍手したのだ。観客に前提知識としてエピソード4,5,6を知らないと楽しめない趣向になっている。
エピソード7,8,9ではさらにエピソード4,5,6で登場した俳優を再登場させた。かつて青年だった俳優たちは中高年(といより初老か)になっていたが、昔を覚えている観客は大喜びだ。
一方、昔を知らない若い世代にしてみれば中高年の俳優を見て面白いはずはない。若者にとり、老人たちの”懐メロショー”に付き合わされるほど退屈なことはない。
3.まとめとして
時代劇にせよ、ガンダムにせよ、スターウォーズにせよ、鑑賞する側に何らかの前提知識を要求した上で楽しめる仕様になっている。
だから何だと言われると元も子もない。
時代劇を楽しめない若者は歴史の素養がないからけしからん、と上から目線で言うつもりもない。
小生自身、歴史は不勉強だと思うことがある。
実は韓流ドラマでも時代劇があり、高句麗、新羅、百済の三国間の戦国時代を舞台にした戦記物らしいが、歴史を知らないので楽しめない。
中国の歴史ドラマでも同様だ。渤海?の話を描いた戦記物の映画もあるらしいが、これも歴史をよく知らないので敬遠している。
「三国志」や「水滸伝」なら、ストーリーを知っているのでかろうじて楽しめそうだが。
時代劇はともかく、ガンダムやスターウォーズはオールドファン向けに”懐メロ”を楽しむエンタメと化している。
そうではなく、今の時代に新登場するオリジナルのエンタメシリーズを制作できないものか。
行き詰っているのは世界の資本主義経済だけでなく、エンタメ界も同様なのか。どうでもいい話だが、そんなふうにも懸念している。
(つづく)




