エレクトロニクス右翼 VS IT左翼① SHマイコンは右翼
初出:令和6年3月17日
小生は全共闘世代より10年下だが、80年代末の学生時代、その名残は残っていたような気がする。
あらゆる物事を右翼か左翼かに分類し、右翼的なものはまちがい、左翼的なものは正しいと主張する学生がよくいた。
彼らはそれこそ漫画を読んでも、スポーツ新聞の記事を読んでも、右翼的か左翼的かに分類する。
また彼らはこの世のあらゆる思想は右翼か左翼の二通りしかないと考えているようなのだ。
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さて、シリーズ「エレクトロニクス右翼 VS IT左翼」と題してPC、IT、半導体業界における右翼的なるものと左翼的なるものの両方について論じてみたいと思う。
今回は右翼である。
現在のルネサス社はもともと日立製作所と三菱電機のマイコン事業部が合併してできた。
ルネサス社が誕生する前の日立製作所の半導体事業部は、小生に言わせればエレクトロニクス右翼だった。
右翼とはもともと愛国主義、民族主義を指す。
いかなる工業製品も外国人でなく日本人自らが設計開発する、という”右翼思想”が日立の長所だった。
最先端のハイテク分野ほど自国で設計開発するのは難しい。しかし日立はそれに果敢に挑戦した。
たとえばSHマイコンというRISCマイコンがある。これはアーキテクチャ自身が同社のオリジナルである。
これに対し、NECはVRシリーズというRISCマイコンをSHマイコンの対抗馬としてラインナップした。これは米国ミップステクノロジーズ社のアーキテクチャを搭載したものだ。
90年代、日本の半導体メーカーは人件費の安さからアジアに工場を移転した。NECの広報発表では、製造はアジアに、アーキテクチャの設計は米国に任せ、最終製品として日本製のVRシリーズを開発したとのこと。アーキテクチャの設計が日本製でなく、米国製なのはそれが適材適所だという説明だが、これが当時の日本の半導体業界の標準的思想だったと思う。
アーキテクチャまで日本民族が設計開発するという日立の思想は標準より”右寄り”だった。
SHマイコンが誕生したバブル時代、ちょうど国産OSトロンが東京大学で開発された。
今日、PCと言えばOSはマイクロソフト社のウインドウズ、CPUはインテル社のCORE プロセッサーファミリーを思い浮かべる。
スマホではOSがアンドロイドかiPhoneのアイOS、CPUはARM系だろう。
ところが当時、OSはトロン、CPUはSHマイコンというオール国産の情報端末を通産省(現在の経済産業省)は企んでいたのではないか。
これこそ究極のエレクトロニクス右翼といっていい。
現在、ルネサス社で生産されているSHマイコンは実質、生産中止に近い状態のようだ。
かつて世界シェアの半分を占めていた日本の半導体業界だが、現在の凋落ぶりは目も当てられないありさまだ。
もう一度、日の丸半導体を復活させるには極右のエレクトロニクス右翼イデオロギーが必須だろう。
(つづく)




