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心理終戦  作者: ゴウシ
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序章                           魔族として生きていきます。

ーーこんなの戦争じゃねー


 数十万もの軍勢を前に、僅か数千で圧倒し蹂躙している戦争記録のビデオを見ながら僕はそう思った。


「えー、このようにヒューマンやエルフ共は非常に凶暴かつ残忍であり、戦いによって敗れた者の死体は魔法の研究や武器、建物の材料に使われ、生きている者は奴隷や人体実験に用いられます。特に我々魔族は狙われやすいので、皆さんはくれぐれもヒューマンやエルフには気を付けてください。以上で道徳の授業を終わります」


 僕は今、魔都ドリアン帝国の首都にあるトガル魔族学校という所で学生をやっている。


 まだ入学して一週間も経っていないのだが・・・・。

いきなりヒューマンとエルフが魔族を虐殺している戦争記録ビデオを見させられた。クラスを見渡すと真っ青な顔をしている者ばかりだ。15歳の子供にはまだ早かったのだろう。


 僕は大丈夫なのかって? もちろん大丈夫さ、人体の構造を調べるためによくネットで調べていたからね。


「おいライ、お前は何か随分と平気そ・・・・オエッ」


 今にも吐きそうな顔で僕を見ているこいつの名前はヒル、中性的な顔立ちをしていて、腰まで伸びた長い銀色の髪が特徴的だ。僕の一番初めにできた友達だ。


「顔が近いって、お前は随分としんどそうだが・・・・大丈夫か?」


「なーに、問題ない。思っていたよりも血の描写が多くてクラっときただけさ」


 僕は『こいつ本当に大丈夫なのか?』と呆れた。なにを隠そうヒルは吸血鬼なのだから。


 少し開けた口の中から今にも嚙みつかれそうなほど鋭い八重歯がこちらを覗いている。


「吸血鬼が血を見てふらつくのは種族的にどうなんだよ」


「仕方ないだろ、普段は血だってパックだし、首が取れてあんなに溢れ出てくるところなんて見たこともないんだから。うっ、また気持ち悪くなってきた」


 ヒルがトイレに駆け込んで行くのを横目で見ながら改めてクラスを見渡す。


「それにしてもこのクラスの連中はキャラが濃いな」


「君だって十分濃いと思うよ」


 おっと!心の中の声が漏れてしまっていたようだ。


 声がした隣を見ると、金色の長い髪にスレンダーな体系で身長は僕よりもちょっと高い、おおよそ180センチそこらの女の子が立って僕を見下ろしていた。頭には白い角が生えているのでおそらく鬼人だ。


名前はたしか・・・


「アリスだよ。今絶対ウチの名前忘れてたでしょ!」


「いや、君みたいなシャボン玉のように華麗な女の子の名前を忘れるわけないじゃないか!」


「それ褒めてくれてるの? まあいいわ。そんなことより私たちのことを濃いキャラ呼ばわりしてるけど、君だって大概だよ」


 自分の名前のことをそんなこと呼ばわりしているけどいいのだろうか、と思ったが僕は言及しない。触らぬ鬼人に祟り無しって言うしね。 


 それはそれとして、彼女の言う通り僕だって普通じゃない。


 そもそも、僕たちは魔族という一つの種族で括られるが、実際はヒューマンとエルフ、獣人以外の種族すべてを魔族と称しているのだ。よって、ヒルみたいな吸血鬼やアリスのような鬼人のように、様々な種族がこの学園には存在している。そんな中で普通を探す方が難しいとも言えるだろう。正しく彼女の言ったとおりだ。


「確かに、僕たち魔族にとっての普通なんて無いようなものだよね」


「いやいや、君は異常だよ。普通は男爵の子が大公爵の公子相手にタメ口なんてきけないもんだし」


「アリスって公爵の子供だったっけ?」


「ち、が、う、! なんでそうなるかな、自己紹介の時に私はベール地方を治めているフシーギ伯爵の娘だって言ったよね。それに、私だったら公子じゃなくて公女って言うでしょ」


 確かにそうだ。なにがとは言わないが平坦だったので無意識に男のカテゴリーに入れてしまっていた。


「なんか今、とっても失礼なこと考えてない?」


 すごい、これが女の感というやつなのだろう。僕の中で彼女の評価がほんのちょっぴり上がった。


「まあいいわ、そんなことよりヒル君のことだよ。どうして君は大公爵の子のヒル君と仲がいいわけ?」


 彼女が不思議がるのも当然だろう。


 アリスの言う通り、いくら学園といえど本来ならば片田舎の辺境貴族である僕が王族のヒル君と話せることなど万に一つもない。


 しかし、僕には特殊な力があった。ファンタジー世界には必ずあると言っていい力。


 そう、スキルである。


 僕はスキルの力を借りてヒル君と仲良くなることに成功した。


 だが、そんなこと言えるハズがない。

 

 王族相手に了承無しでスキルを使った事がバレたら、僕の首はおろか一族全員の首が飛ぶことになるだろう。それだけは何としても避けなければならない。


 なら何故スキルを使ったのかって? 王族に取り入って将来ウハウハ人生を過ごすために決まっているだろう。


ーーおっと、もうアリスが質問してから三十秒は経とうとしていた。よって、これ以上先延ばしにするのは良くない。僕はそう思い彼女の質問に答えた。


「僕のカリスマが彼を引き付けたからかな」


 一瞬、時が止まったように感じた。


「ーーうん、そだねーー」


 あ、こいつに何聞いても意味無いわ、の顔された。


 どうやら僕の答えはお気に召さなかったらしい。


 これから卒業までの四年間、この学園にはクラス替えに加え席替えも無い。普通は隣の席の人に対しては愛想良く接するのが、楽しい学園生活を送るのに大切なのだが、僕はどうやら失敗してしまったらしい。

 

 おそらく彼女はナルシスト的な言動があまり好きではないのだろう。


 僕は結構好きなんだけどな。『自分を好きになれない人は何をやっても他人に好かれない』っていう自論を持っているからかな? 


 そんなことを考えていると、ゲッソリとしたヒル君がトイレから帰ってきた。それと同時にアリスは自分の席に戻り、窓から街を眺めている。


 貴重な休み時間をトイレで過ごしたヒル君は僕に愚痴を言いながらも席に着き、それから間もなくして四時間目の授業が始まった。


 ちなみにだが、僕の席は一番後ろで左隣にアリス、右隣にヒルがいる並びだ。クラスの男女比率は意外かと思うが女子が七割を占めている。これには魔族の体の構造に関係している。


 魔族は弱い者(能力がない者)には教育をしないのが一般的で、長男だからといって家督を引き継げるわけではない。たとえ十歳以上、年の離れた兄弟だったとしても能力の高い方が跡取りとして優先される。もちろん男女問わずだ。しかも、魔族は基本女性の方が何かと能力が高い傾向があるので、女性が家を継ぐことが多いらしい。


 現代日本とは真逆で初めは少し困惑したがさすがにもうなれた。


 そういえば、まだはっきりとは言ってなかったと思うが、僕は元日本人で転生者だ。


 四時間目の授業は退屈だし、僕がどうやって転生を果たしたかここいらで語っておこうと思う。


 自己紹介もまだだったしね。


 えっ? お前はさっきから説明口調で誰に語っているのかって?


 あんまり物語の進行に関わるようなメタいことは言わない方がいいよ。


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