表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

金縛り

作者: シリウス

暑い。

夏の暑さで、街の色が抜けていくようだ。

全てが気だるげで、色の褪せたものに変わっていく。

それでも相変わらず空だけは青く透けている。


アスファルトの熱波を感じながら、私は駅に向かっていた。

自分の昨日の足跡を辿って、金縛りに合ったかのように今日も同じことの繰り返しだ。

退屈だった。


今日を乗り切れば、明日を乗り切れば。

いつまで乗り切れればいいのだろう。

もう日がだんだん溶け合って境がつかない。

意味もなくスマホを手に取って、気持ちを紛らわす刺激を脳に与える。


あまり何も見ずにふらっと歩いてると、誰かにぶつかってしまった。


すみません、と小さな声で謝る。


その人も私と同じ電車らしい。


少しするといつもの電車がガタンゴトンガタンゴトンとやってきた。


解放された水のようにわっと人が出ていって、そしてぞろぞろと人が入っていく。


扉がしまって、冷房の効いている車内でも、人の熱気で空気が少し息苦しい。


ふと扉の方を見ると、さっきぶつかった人がいた。


じっと見つめる先は青い空。


その時、激しい嫉妬心が心を渦巻いた。

と同時に、この繰り返す日々のループに囚われた自分に絶望した。


揺れる電車の音も、車内アナウンスの音も、女子高校生の話す声も。ざわざわ、ひそひそ自分を責めるように。


うるさい。


それでも、体は逃げれずに金縛りにあったままだ。


「大丈夫ですか。」


いつのまにかその人は私の前にいた。


声を出そうと思っても、何を言えばいいのかわからない。


混乱した頭は何も考えられず、手を引かれるがままに次の駅で降りた。


屋根以外、ほとんど外だ。


暑い。


そう呟くとごそごそと鞄を漁ったかと思うと、水筒を取り出して頬に当てた。

ひんやりした金属が心地よかった。


ぼーっとしたのも束の間、恐怖が襲う。顔が歪みそうになる。


自分がどこにいるかも分からない。周りには誰もいない。


間に合わない、間に合わない。


泣きたかった。


勝手に何をしてるのと怒りたかった。


そんな私の心情を読んでか、困ったように笑ってる。


私より少し若いのか、なんだか凛としている。


「次の電車、すぐに来ますから。」


なんと返せばいいのか分からなくて、私は閉口してしまった。少しだけ頷くことしかできなかった。


遠くからまたガタンゴトン、ガタンゴトンと聞こえてくる。

安心して、身体の力が抜けそうだった。大丈夫だと安心してもらうためにへらりと笑いかける。


そんな私を見て、不思議なことにどこか寂しそうな顔をしている。


音を立てて電車が止まる。


やっと声をみつけて、聞く。

「乗らないんですか?」


今度は閉口される番だった。

そして黙って首を振る。


それがなにか残念で、どこか苦しい気持ちを抑えて、小さく手を振る。


電車がゆっくりと動き出す。


ホームに残された人影を私は最後まで見つめていた。目を閉じても、瞼の裏にくっきりと残像が残っている。




いつか、同じ駅で降りよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ただただ連綿と続いていく毎日に、逃げ出したくなってしまう日がくるのかも。 勇気を出せばこの輪の中から抜けられるのかどうか。 それは誰にもわからないのかも知れません。 主人公は自由への一歩をいつか踏み出…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ