2-16 園内イベント発動!②
もうもうたる土煙がすべてを覆い尽くしていた
何も見えない
中の様子がまるでわからない
会長は……、会長は無事なの?
(まさか……、そんなこと……、ないよね……)
私はただ呆然と立ち尽くしているだけしかできなかった
さっき「ゲームではこのイベントで少ないながらもキャラ=アルバート会長が死ぬ場合がある」と書いたけど
そこには条件がひとつある
それは「アルバート会長がゲームの主人公=プレーヤーキャラである」こと
プレーヤーキャラでない場合は、瀕死の重傷を負うことはあっても死ぬことはない
さすがに運営も「プレーヤーの攻略対象キャラが突然死んでしまう」という実装はためらったみたいね
ただ「プレーヤーキャラが死んでしまう」可能性は排除しなかった
つまりこの事態でもしも……
あくまで「もしも」だよ
もしも会長が死んでしまったなら
それはすなわち「アルバート会長がこの世界におけるプレーヤーキャラ=主人公だった」
ということになるわけ
たしかに私は「メインキャラクターの中のだれが主人公か」を知りたいと思った
でもこんな……
こんな形で明らかになるだなんて……
嫌っ! そんなのは絶対に嫌!
すぐにでもあの中に飛び込んで確かめたいけど
それはあまりにも危険過ぎた
土煙が収まるまで待つしかない
「大丈夫だよ、ジャン」
いつの間にかエドモンド副会長が後ろに立っていた
そしてその両手で私の両肩をやさしく包んでくれていた
おかげで私は自分が肩を震わせていたのに気づけたの
「アルはあんな程度でどうにかなったりはしないさ」
おそらく副会長は私に心配させまいとして言ったのだとは思うけど
でも私には副会長が自分自身に言い聞かせているように聞こえてならなかった
もしかしたら「死」という単語を使うのを避けたのもその現れだったのかもしれない
やがて土煙が薄れてきた
観覧車が横倒しになっている様がうっすらと浮かび上がってくる
だけど動いているものがあるようには見えない
永遠にも等しいかと思われるような時が過ぎていき……
私は何かの影のようなものがポツンと浮かび上がるのに気づいた
その影は縦に長く
次第に大きく、濃さを増してきて……
「!」
声が詰まった。言葉が出なかった
アルバート会長が、力強い足取りで、土煙の中から姿を現した
避難していた人々からいっせいに「おおっ!」という歓声が沸き起こる
すると会長は変装用に顔を覆い隠していた帽子やら他のものをかなぐり捨てた
そして手にした剣を高々と掲げると叫んだの
「我はこの国の第三王子、アルバート・ド・アンセルフてある。この場は今から我が指揮する。力ある者は我とともに怪我人の救護に当たれ!」
周りの人たちは一瞬戸惑ったようだったけど
すぐに中から「本当にアルバート王子だ!」という声があがると
「アルバート王子万歳!」
「アルバート王子万歳!」
の大合唱が起こった
さらに何人もの男たちが会長のもとに駆け寄り、跪いて指示を請うた
私も「会長!」と声を掛けようとしたけど
声に出そうとした瞬間にエドモンド副会長に口を塞がれたの
驚いて振り向く私
だけど副会長は静かに顔を横に振るばかり
しかも私を連れてその場から離れてこう言ったの
「ジャン、君はこの事態に無関係であるべきだ。アルがそう望んでいる」
こんなの、まっすぐな瞳と確信に満ちた口調で言われたら
もう何も言えないでしょ
そして私と副会長は目立たぬように寮へと戻った