プロローグ④
「なるほど。こういうのに興味があるのか」
さっきのと同じ声が今度は頭の上から降ってきた。背の高い、おそらく上級生のその生徒は、いつの間にか僕のすぐ脇に立ってあのふたりの様子を眺めている
「い、いえ……。偶然見てしまって……」
「別に隠さなくてもいい。ここではこういった光景は日常茶飯事だからな」
さらっとした言葉。本当に見慣れているのだろう。「こんなことは特別でもなんでもない」といった様子がうかがえる口調
そしてさらには僕の目の前に顔を近づけると、右手で僕の顎をくいっと持ち上げた
「ふむ、見かけない顔だな。新入生か。君、名前は」
ハッとした。似たような場面、確か“アレ”の中であったよね。ええっと、こういう場合に取るべき態度は
僕はその手をはねのけた。そして少し下がって距離を取ると、いくらか強めの口調でこう言った
「人の名を尋ねる時は、まず自分から名乗るのが礼儀ではありませんか」
上級生の取り巻きの顔色がさっと変わった
「こいつ、殿下に向かってなんて口のきき方を」
「よい。それより“殿下”は止めろといつも言っているだろう」
「殿下」と呼ばれた彼は、なんならすぐにでも僕に向かって飛びかかって来かねない取り巻きを、手のひらひとつでさっと制した
「すまない。私が悪かった。たしかに君の言う通りだ。こちらから名乗るのが筋だったな」
そして姿勢を正すとこう言った
「私の名はアルバート・ド・アンセルフ。この学園の生徒会長をしている」