1-11 はじめてのお買い物
「なら、僕が案内しましょうか」
「本当かい。助かるよ。ありがとう」
フェリックスは私の手を握って何度もブンブンと振った
ああ、やっぱりよほど困っていたのね
だけどもひとつ問題が
「案内しますけれど、いまから食堂に行っても、午後の授業まで時間がないから、ほとんど何も食べられませんよ」
「そうだよね。どうしよう」
はてさて、どうしましょうか
放課後まで絶食?
いやいや、さすがにそれは可哀想
なんていうのは冗談で、ちゃんと代替案のプランBは立ててある
だれでも思いつく、簡単なものだけどね
「なら、購買に行きませんか」
「コウバイ? それは何」
「学園内にある雑貨屋みたいなものですよ。学園生活で必要になるさまざまな物を売っているところです。食べ物もあるので、そこでパンでも買うといいですよ」
「そんなところがあるんだね。知らなかった。ありがとう。連れて行ってくれるかい」
「もちろん。こちらです」
購買へ行く間に互いに軽く自己紹介
私の方が年下だけど
互いに「ジャン」「フェリックス」と呼び合う仲になった
ところが購買でまたもやひとつ問題が
フェリックスが言ったの
「実は僕、自分でお金を払って何かを買ったことがないんだ。いつも全部付き人がやってくれるから」
「そんなのじゃだめですよ。僕がやり方を教えるから、これも勉強のひとつだと思ってやってみて」
で、ひとつひとつ丁寧に教えた
お金の種類。お札と硬貨それぞれから始めて
値札がどの商品と対応しているか、とか
代金の受け渡しのやり方まで
おつりについては計算はちゃんとできたので問題はなし
ということで、フェリックスの「はじめてのお買い物」は無事に完了
「僕、生まれて初めて、自分でお金を払って物を買った!」
フェリックス、私から見たらちょっとオーバーなくらいの喜びよう
「ありがとう、ジャン。これもみんな君のおかげだ」
うん。たしかに私のおかげかな
それにまあ、そう言われて悪い気はしないわね
「君のような素敵な人に出会えるなんて、これはきっと天の導きだ。運命だ」
ちょっとフェリックスったら。いくら何でも表現がオーバーすぎるでしょ
ゲームではこんなにオーバーな表現するキャラだったっけ