0-7 決意
ここが『麗しの君たちへ』の世界で、ここには聖ガスパール学園が実在している
そうとわかればやることはひとつだけ
私は意を決してお母さまにお願いした
「お母さま。お願いがあります」
「なんですかジャンヌ、改まって。願って何? 言ってみてちょうだい」
「私もお兄さまたちみたいに聖ガスパール学園に入りたいです」
「ああ、ジャンヌ、こればっかりは叶えてあげられないの」
「どうしてですか、お母さま」
「学園は男の子しか入れないのよ」
そうだった。なんてことを忘れていたんだ私は
いや、目の前にチャンスが広がっているのに、ここで簡単に諦めてなるものか
私の幸せは私の手で掴み取る
なんとしても、どんな手段を使ってでも、学園の中に入ってみせるんだから
「じゃあ、じゃあ、ちい兄さまに何かを届ける必要がある時に中に入ることぐらいは」
「それもできないの。学園の中には女性はだれひとりとして入ることは許されない。たとえそれが母親であっても」
「そんな……」
目の前で大きな扉がバタンと音を立てて閉じられた瞬間だった
大好物を見せられて、手を伸ばした瞬間にお預けを食らった気分
いや、お預けならまだ後で食べられるけど、これはそうじゃない
こんな仕打ちってある?
「本当に残念ね。ジャンヌほどの優秀な子なら、もし学園に入ることができたなら、武芸は別にしても、学問ではすばらしい成績を修めたでしょうね。お父さまもよく『あの子が男の子であったら』とおっしゃっておられたわ」
お母さまがおっしゃった通り、実は私はこの世界では成績優秀で通っている
いままで気づいていなかったけど、どうやら前世でランクはともかく大学まで出ていたのが、この世界での勉学に影響を与えていたみたい
なんせまだ10才。この年齢での勉強内容は前世で言えば小学生レベル
算数なんか使う数字や記号、式の書き方が違うくらい。「1たす1」が「3」になったりするわけじゃない
理科もそう。幸運にも自然法則が前世とおんなじみたいだからね
問題は国語と社会だけど、前世の受験勉強で身につけた記憶術を無意識のうちに使っていたみたいでなんとかなっている
ん? そういえばお母さま、いまなんて
確か「私が男の子であったら」……
「それだわ!」
「なんですか、急に大きな声を出して」
「ごめんなさい。でもそれですわ」
「いったい何を言っているの」
「私、今日から男の子になります!」