0-4 疑念①
はいはい、話がずれてしまったわね。元に戻さないと
ええっと、どこまで話したっけ
そうそう。お父さまが子爵ってとこ
で、私はその子爵さまの娘。三人兄弟の末っ子
上のふたりはどっちも兄
どっちもかっこよくて素敵なお兄さま
上の兄さま、私が「おお兄さま」って呼んでる方は、武勇に優れて皆を引っ張っていくタイプ
私より8つ上
下の兄さま、私が「ちい兄さま」って呼んでる方は、優しくて周りの人たちみんなに気配りできるタイプ
私より3つ上
で、上のお兄さまの名前は……
ここで突然、今日2回めの「雷に打たれたような」衝撃が走った
まさか、まさか、そんなことが……
私の中にひとつの“疑念”が生まれた瞬間だった
大きな、私自身やこの世界そのものに対する、圧倒的な“疑念”が
(確かめないと)
私は立ち上がると、部屋を出て下に降りていった
目指すものはすぐに見つかった。一階の談話室で、ちい兄さまがお母さまと和やかに話をされていた
「まあ、ジャンヌ。そんな青い顔をしてどうしたの」
私が部屋の入り口に立っていることに気づいたお母さまが声をかけてきてくれたんだけど、私の目はちい兄さまの顔に釘付けになっていた
(この顔、たしかに同じだわ)
膝がガクガクと震えた。そのまま立ち続けていたら崩れ落ちたかもしれない
(落ち着くのよジャンヌ。まだよ。疑いを確信に変えるには、まだ証拠が足りないわ)
私は震えているのを悟られないように、ゆっくりと部屋の中へと進んだ。そしてふたりが囲んでいるテーブルの脇までどうにかたどり着いた
「ジャンヌ、大丈夫かい。顔色が悪い上に何だか震えているように見えるんだけど」
「いいえ大丈夫ですわ、ちい兄さま。それよりちい兄さまにお聞きしたいことがあるんですけど」
「いったい何」
「おかしなことを聞くと思われるでしょうけど、まじめに答えてくださいね」
「うん、わかった。まじめに答えるよ」
ちい兄さまはいつもの優しげな眼差しで、こくんと頷いた
そこで私はひとつ深呼吸をしてから言ったの
「ちい兄さまのフルネームは」