他心
ぼくの心は、ここには無い。
いつも、身体の外に、出ていて、
微かに震えている。
自分の事が遠く感じる心。
気付けば、いつの間にか、
ぼくの心は色を失った。
「どうして、人をコロシテハいけないの」
知りたかった、どうしても、知りたかったんだ。
けど、誰もぼくの解釈できる言葉を知らない。
教えて欲しい、誰でもない。
ぼく自身に、色を失くした心。
そこに、赤い命があるのなら。
色を失い、鼓動を失っても、
ぼくの息吹は亡くならないから。
だってその心は他心。
「人はその心に神を宿し、その心同士を戦わせてはいけない」
古ぼけた協会。 年老いた神父の言葉。
「戦いは、共存を生まない。 人は弱い、共存しなければ生きれない」
馬鹿みたい。 嗚呼、馬鹿みたい。
この哀れな神父。 強弱を持つなんて、それが愚か。
けれど、どこかで心が大きく波打つ。
ぼくは十字架をはじめて見た。
拳銃より、ナイフより、コトバより、
鋭い凶器。 心は震える。
遠くにある、近くにもある。
ぼくじゃない、人の心……他心。
そこにある時を飛び越える感情。
花売り娘の愛に満ちた心、
森の中に住む魔物の愛を欲する心、
ぼくの心は、どんなんだろう?
「他心を壊す心を持つ、ぼくらは崩壊する」
無関心で、自己愛のみの世界。
それが、みんなの答えだったら……。
十字架を強く握り締める。
どうしてだろう? 溢れる感情は全て、
「憎しみ、自尊心、愛情。 もう全部うざったい憎しみ」
遠くに離れていった他心。
気付かなかった、ぼくの心。
大きな声で呼んでいる。
ぼくは此処にいるから、
此処でずっとその色をまっているから、
ぼくは弱いから。
「あなたが私を殺すというのなら、私もあなたを殺しましょう」
微笑む年老いた神父。 穏やかに言う。
「そんなの哀しすぎるでしょう、憎まれるのは辛いでしょう」
背に隠した、カッターナイフ。
たったそれだけの同情みたくな馬鹿な言葉。
なのに、心が熱く、染まっていく。
手にとって見ることすらできない。
不確定で、不安定な他心。
分からない、だから、怖くて。
怖いから、消したくなる。
恐ろしいものは、この世に少しでいいはず。
それなのに、多すぎる、他心。
「みんな心を持って、その時を生きています」
「あなたから他心だとしても、その方々からはあなたも他心です」
「あなたは自分も恐ろしいですか」
上っ面に強がって、首を縦に振る。
でも、心が締め付けられる。
「どうして、人をコロシテハいけないの」
教えて欲しい、分からないから。
答えが分かったら他心も分かる気がする。
「分からないから、いけないのです」
そんな不確定な、あいまいな言葉。
納得できない。 もっとはっきりとした答えがほしい。
「いま、わたしとあなたは他心同士で会話し、互いの意見、心を通わせています」
「こうしている今も、あなたは恐怖を感じるのですか」
じんわり広がってく赤い熱い心。
わからない。 けど、満たされるような心。
ペテン師のような神父の言葉。
安売りする語術、
……そんなのいやだ。
自分の心だけにある、
自分だけの答え。
それを導き出すにはまだ幼すぎて。
だから、その答えを知るために……。
ぼくが殺すと言えば、君もコロスというのだろうか。
わからない。 ――他心。
「どうして、人をコロシテハいけないの」
「あなたは自分も恐ろしいですか」
ぼくの心にまだ答えはない。
他心、それに触れることで見えるものがあるなら。
怖いからと恐れていては何も出来ないから。
時は戻らない、ぼくも戻らない。
遠くにある心、ぼくの命。
時を飛び越える感情、時と共にある命。
他心と自心。
ぼくにはまだ分からない。
けど、それは教わることじゃない。
だから、他心、ぼくもそうだろう……。






