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もういいよ♪

作者: 田中浩一

 17年、やっと返事がもらえた気がした。

  高校2年で改造バイクでの新聞配達に通学。3年生に睨まれていた。

 ある日、1年生が何人かで僕を呼びに来た。行き先は、やっぱりトイレ。

 入ると3年生がひとりで換気扇のまえで、プカプカ。

 1年のひとりが口火を切った。セリフはまんま3年の受け売りだろうが、1年にタメ口きかれると燗に触る。

 と、いきなり平手が飛んできた!普通、タンカ切ってから手を出すだろう?説教途中に手を出しやがった。しかも薄ら笑いしてるんですぐさま殴り返した。

 前歯が飛んでくのがみえた。唇を切って血しぶきが賢い犬の尻尾のように舞い上がった。

 イイ絵だな。と思ってたら、一斉にボコボコにされた。

 でも、不思議とその後の1年は僕に丁寧に挨拶してくれた。 

 負けるとわかっていても出てきた僕に対する気持ちの表れだろうか?

 自衛隊を除隊して、一般の会社に就職した。

 自己紹介の時、僕の前に並んだ人たちの中に、前歯が一本だけヤニに汚れてないやつがいた。

 3年ぶりの再会だった。

 ことあるごとに前歯の「彼」は僕に反対した。嫌われてるのは明めい白はくだった。

 僕が会社では後輩だからとタメ口だったし。でも、周りは僕らの事をイイ、ライバルだと思ってたらしい。

 4歳下の弟と同い年の、プレリュード乗りの奴が僕に「田中さん、けんかしないでくださいよ。話が前に進まなくなりますから」と言われてから考えた。

 昼飯の時、みんなの前で「彼」に言ってみた。

「僕は、○○君のことが好きなんだけど、僕は嫌われてるみたいだ。どうしたらイイのか?」

「彼」は黙っていたが、翌日から態度が優しくなった、タメ口はそのままに(笑)

 2交代制になってから僕らは別々の班になった。

「彼」が健康診断で引っ掛かったと聞いたが交代の時には元気でいた。

「彼」が倒れたのはそれからしばらくしてからだった。

 腎臓をやられていた。バイパス手術をした。その後は透析。

 夜勤はできなくなり、会社をやめることになった。

 最後の日。夕方だった。

 トイレに行く振りをして裏口から外に出た。

「彼」が事務所に挨拶して出てくるとこだった。

 痩せて、肌色も黒くなっていた。

 手を上げて「俺が見えなくなるまで見送ってよ」と言った。

 細い影が見えなくなるまで見送った。

「もういいかい?」と言ってみたが聞こえはしなかった。

 その後もお別れ会やら、たまにカラオケやらしていたが、それぞれに結婚してからは会うことも減った。

「彼」は通院先の看護師さんと結婚。

 式にも呼ばれ、家を建てたときは、家にも呼ばれた。

 2階の子供部屋は、間仕切りで、ふた部屋にもなるんだよって笑って話してくれた。


 2年後、プレリュードの奴から、電話が、メールじゃなくて、電話が来た。虫の知らせってあるもんだ。そう思った。

 出ると案の定だった。

「彼」の家でのお通夜に、前の会社の同僚が集まった。

 顔を見てやってくれと言われて、棺の中の「彼」を見た。とたんに涙が溢れた。先輩に腕を引かれないと、棺から離れられなくなっていた。

 家に帰るとかみさんがひとりで待っていた。

「浩ちゃんの泣いたとこ見たかったな」と言われたのを覚えている。

 あれから17年、「彼」の事を急に思い出した。

 もしかしたら、そばにいるのかもしれない。ならば、聞いてみよう。

「もういいかい?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 突然の終わり。 ふと思い出すことってあるなと思い出させてくれた作品でした。
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