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人の街に着きました。多言語翻訳機はどこですか? 


/3人称視点/


 人の世に仇なす七角の魔王。

 七罪と呼ばれる災厄の一角はある日を境に堕とされた。

 人知れずリリアナ王国は滅亡を回避したのであった。


 ・

 ・

 ・


 辺境の都市に僕は居た。

 特に入国審査みたいなのもなく、普通に入場した訳だ。

 そして現実という障害に僕は打ちひしがれていた。

 ようやく念願となる人里に到着した僕は期待と不安に胸を躍らせたのだ。

 そして不安が期待を上回った所。

 懸念していた事なんだけど……


「マイ、ネームイズ外国人。アイキャントスピーク外国語。ウェアイズここ?」


 身振り手振りで語り掛けた。

 

「◇?Σ♪ΔΠ」


 道行く話しやすそうなお婆さんに声を掛けたのだが、全く喋っている言語がわからない。お婆さんにしか僕は声を掛けていない。珍しいタイプのナンパ師みたいな事をしている。

 これは幾つか理由がある。

 最も安全な可能性があるからだ。

 見知らぬ男だと、何かあった場合僕は死ぬ可能性がある。

 少女に声を掛ければ事案になる。

 故にお婆さんが一番声を掛けやすいのだ。

 そう、これは完璧な計画の上に動いているのだ。


 『見ず知らずの土地で声を掛ける場合はお婆さんを狙え』

 孫子の兵法にも記述されている古来伝来の技と古き学友高岡が言っていた。


「●!ΡΛζ」


 お婆さんは哀れみの眼を向けた後、頭を横に振った。

 すると、手に提げる籠から赤い果実を手に渡してきた。

 

「АΦΜ」

 

 なんか『頑張んなよ』みたいなニュアンスで肩を叩かれた後、会釈すると去って行ったのだ。

 道行く人に話しかけてこれが7回目。

 7回も失敗したのだ。


「言葉がわからん!」


「……」


 トカゲの尻尾を巧妙に隠したポンさんが僕の事を白い眼で見ていた。

 ポンさんは僕の事を人里に降りるべきではないと言っていたが、つまりはこの状況を予期しての事だったのだろう。


「ポンさん。辞書って持ってない?」


「なぜだ。どうして……さっぱりわからん」

 ポンさんはブツブツと何か呻いていた。


「ポンさん!」


「ど、どうした?」


「辞書、もしくは多言語翻訳機ってない?」


「なにを言ってるんだ? ジショとはなんだ?」


 辞書も翻訳機もないっぽい。

「い、いや。いいんだ。その、言葉が……言葉が……さっぱりわからないんだ!」


「……だろうな」


「やっぱり。やっぱりわかっていたんだね」

 

 打ちひしがれた。

 地べたに手をつき項垂れた。

 わかっていた。

 日本語が通じない事ぐらい。

 そんな予感がしていた。

 いや、ポンさんと会話出来ているじゃないか?

 なんでだ?


「征士郎。お前はこの世界の人間と会話する事はできないだろう」


 衝撃の事実を突きつけられた気がしたが気のせいだろう。


「なんで? ポンさんとは喋れてるじゃん」

 言葉の壁えぐくない?


「そちらの方がおかしいのだ」


 いや、待てよ。冷静になれ。

 よく考えろ。


「はは~ん。なるほど。流石に、遠方に来すぎて僕の通じる言語圏を外れたという事か」


「何を言ってるんだ?」

 

 ワイに乗り飛行し続けて早1週間経った。

 そこそこの距離を遠征してきた事になる。

 何百キロでは済まないだろう。

 つまり、ポンさんに通じた日本語もここでは通じない。

 日本語が通じる言語圏を外れたのだ。

 ならば、全て合点がいく。

 

「さて、わかっただろう。もう行こう。お前は人の世で住まうべき存在ではないと」


「断る!」


「なに!?」


「待ってくれ。未知の言語があるのはわかった。だが、それは解決可能」

 

 言語の壁は練習すれば突破できるはずだ。

 多分。あんまり外国語得意じゃないけど……

 人の叡智を舐めない方がいい。

 

「解決などできる訳なかろう。お前の発する言葉は人にとっては滅びの呪文にしか聞こえぬはずなのだからな!」


 何を言ってるんだ?

 言葉が通じない事を、ま~たそんな中二病みたいな事で返してくるなんて馬鹿みたいじゃん。僕は真剣なんだぞ。ポンさんさ。もうちょっと大人になろうよ。田舎者と中二病の掛け合わせは流石に痛いよ。まぁ僕が言えた義理ではないが。


「わかったわかった。それよりもさ。ポンさん。お金はあるかい? 少し貸して欲しいんだよね。もしかしたら貨幣制度ではなく物々交換かもしれないけど」


 ちなみに僕はお金がない。

 だって無職だもん。

 外国の硬貨とかも勿論持っていない。


「なんだ。やけに冷静になって」


「とりあえずさ。宿屋を探そうと思ってね、宿に泊まり食事を摂りたいんだ。その為にはお金が必要」


「宿?」


「そう。せっかく人の街に着いたんだ。宿とご飯、そして観光は必要だろ?」


「そんな事はすべきではない」

 

 ポンさんは頭でっかちだ。

「ムーさんはもう野宿は嫌だよね?」


「べつに」


「暖かいお布団で眠れるよ」


「魅力的」


「だそうだ」


「だそうだ……じゃないんだが」


「ムーさんお金あるかい?」


「これ?」


 ムーさんは懐から水晶のような輝きを放つ半透明な硬貨を摘まみだした。


「へぇ。なんか。銀貨とか金貨とかだと思ったけど。これが硬貨なんだね?」


「多分」


「ありがとう!」


「おい! それは常闇の……」

 僕は小銭を握りしめて宿マークのある宿屋? に視線を定める。


「善は急げだ。さぁ行くよムーさん」


「ん」

 僕はムーさんの手を握り走り出した。


「おい! 待てと言ってるだろ!」



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