ほう、貴様の実力を見せて貰おうか
僕らは旅を続けた。
街は全然見えてこなかった。
世界は広い。というか、広すぎないかと些か疑問だった。
ワイの速度はそれなり早いにも関わらず全く街がないのだ。
おかしいと、思い始めていた。
そう感じていた矢先だった。
僕が野営の番をしていると、現れたのだ。
「あ。終わったわ」
空飛ぶムカデの大群が宙に浮いていた。
ワイは巨竜。
それと同じぐらい巨大なクリーチャーの大群が南勢に向かって飛んでいるのだ。
それだけじゃない。
その中でもひと際大きなムカデが天空に蠢いている。
あまりの大きさに僕は足がガタガタと震えた。
絶体絶命のピンチ。
異世界の魔物の大群にエンカウントしたのだ。
「まだ気づかれてないのは運がいいぞ……って! 多頭飼育ってレベルじゃない! この世界の保健所は何をしてるんだ!」
僕は梅干しを食べたような顔をして彼方に見える大群を見て唸った。
あんなのモノがこの世界には居るのか!?
凄すぎないか!?
異世界魔物半端ねぇわ!
「何を1人で騒いでいるんだ? 全く騒々しいな」
隣に座り眼を瞑っていたポンさんは僕の絶叫を聞くと目を開けた。
「ポンさん。あれだよ! あれ! あんなのが居るの!?」
僕は大群に向かって指差した。
「ほう……ベルフェゴールか。随分と眷属を引き連れているではないか。なにをしているんだ? あの羽虫は?」
「羽虫ってレベルじゃないよね!?」
「羽虫さ。気にするな。それよりも征士郎。お前はもう寝ろ。火の番は私が変わろう」
ポンさん何でもないように、焚火を木の棒で突き始める。
「違うよ! あんな化け物ヤバいよね!? 寝れないよ!」
「我々が気にする事ではない。虫にも虫の生き様がある。必死ではないか。いや。愉快愉快っと」
「愉快愉快……じゃないよ! アレ大丈夫なの!?」
ポンさんは顎に手を置き、少し考え『ああ、そうか』と1人合点がいったようで。
「大丈夫だろう。あれは、これから人間でも食いに行くのだろうな。あちらは人の国だしな。一つの国の終わりか。さっ寝ろ! 旅は長いのだからな」
なんか国が終わるみたいな事を言った気がしたけど。
頭を振るう。
「あっちに人の国があるの!?」
「あ」
ポンさんは『マズイ事を言った』という顔をした。
「もうすぐ人の街があるんだね!?」
ポンさんに詰め寄ると。
「ないが」
目線を逸らされた。
「嘘つけ! いや、今はいい。緊急事態だ! みんな起きるんだ!」
ワイとムーさんに向かって僕は大声を上げた。
「ファウストさん! 手品はしてないで出てきてくれ!」
「ここに」
「おっわ!?」
ファウストがいつの間にか僕の後ろに立っていた。
滅茶苦茶驚いて僕は尻もちをついた。
「いつの間に」
「影にいつもおります」
でたぁ~。
意味不明な影に潜んでいる発言。
この人神出鬼没なんだよ。
って今はそうじゃない!
「全軍進軍だ! 進軍の時間だぞ!」
訳すると。『まだ気づかれていない。逃げろ! 危険だ!』と、みんなに伝えたのだ。
手で号令を取ると、みんなに指示を出した。
アレヤバいよね。逃げよう。早く。今すぐに。
「御意!」
ファウスト氏は理解してくれたようだ。
話が早すぎた。
わかってるんだよなぁ?
「ファウスト。遂に動くか。なるほどな。征士郎そういう事か。配下の実力を見る。これは試験的な意味合いだったか。確かにこれはいい機会か」
ポンさんは何やら1人納得し始めていた。
「はい?」
意味不明だった。
意味不明すぎて啞然としてしまった。
「ベルフェゴールが試練の相手ですか。私一人では、やや荷が不足していますが。請け負いましょう」
何を言ってるんだこいつら。
「ほう。よい意気込みだ。さて、三下の貴様の実力を見せて貰おう。我が主に相応しいかをな」
「いいでしょう。原初の龍王よ。私はこれでも鮮血の王。その実力、とくと見せましょう」
ポンさんは腕を組みながら余裕綽々だ。
ファウスト氏は手のひらに力を入れていた。
何をしているんだ!? この人達は!?
そんな高みの見物みたいな雰囲気を醸し出して!
馬鹿なのか!?
やれやれ。わかるよ。やりたくなるよね。
それ。
地方の強豪戦を観に来た全国大会でぶち当たる強敵みたいな雰囲気。
でも、ふざけてる場合じゃないよね!?
「ZZZ」
1人まだ寝ていた。
「ムーさん! 起きてよ。ダメじゃないか!」
ムーさんの肩を揺さぶって起こした。
「なに?」
「進軍の時間だよ。あれ見てよ!」
僕はポンさんを揺さぶりながら天空を指差した。
「あ。あ~。七罪の一角。まぁ。いいんじゃない?」
光の宿らぬ眼がボーっと空を眺めていた。
「いいんじゃない……ってなんだよ」
「ちょっと。まだ眠いかも」
「そっか~。お眠の時間か。夜中だもんね……って違う!」
じゃ。じゃあ隠れなきゃ。
僕はムーさんが地べたで寝始めようとするのを無理矢理担ぐと。
岩陰に身を潜めた。
「ポンさん! ファウストさん! 早くこっちに! ワイは森の中に潜むんだ!」
「あい。わかった」
ワイは大人しくドスドスと巨体を揺らしながら森の中に消えていく。
「よし。一番気づかれそうなワイが離れたぞ」
「進軍ではないのか?」
ポンさんは不思議そうな顔をしていた。
「進軍って逃げろって事だよ!」
わかりにくかったか。
「そうなのか。逃げる必要があるのか疑問だが、ファウストは既に戦禍に向かったぞ」
「ええぇぇぇぇ!? 何やってんだあのバカ!!」
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/3人称視点/
冒険者稼業で栄える交易国家。
300年の安寧を築いたリリアナ王国。
肥沃な大地に、美しい建造物が立ち並ぶ豊かで穏やかな国。
そんな国家が危機に瀕していた。
遂に七罪の一つ魔王ベルフェゴールが国を滅ぼすと宣告したのだ。
猶予は七日。逃げる事は許されない。
強力な呪印で封じられた退路。
逃走、遁走を封じられたこの首都から決して逃げる事はできない。
戦士長フォルテ・スターライトは、遥か彼方から迫る邪悪な瘴気を感じ取り覚悟を決めた。
「遂に決戦の時が来るか。人の世を守る戦いが」
七罪。人の世を仇なす七角の魔王との決戦に息を呑んだ。