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吸血鬼の王らしいっすよ


 冒険には出会いが付き物だ。

 僕は晴れて観光……いや違う。

 過酷な冒険を歩み始めたのだ。


 みんなで訪れた始まりの拠点である巨大な湖の(ほとり)

 ボーっとしてるムーさんがはぐれないように手を繋ぎながらムーさんと散歩していた。 


 しばらく浜辺を歩くと大きな城が遥か彼方に見えた。


「す、すげぇ」

 この世界に来て初めて人工物を発見して僕はテンションアゲアゲになった。

「あそこ誰か住んでるのかな?」


「知らない」

 湖をしばらく散歩していると現れたのだ。

 第一村人……いや第一亜人が。


「我が領域に無断で入って来たのは貴様らか」


 大きな黒い翼をはためかせ、コウモリ型の亜人が月っぽい衛星を背景に僕らの前に降臨した。


 ・

 ・

 ・


 血飛沫が目の前で飛んだ。

「なんだ。錯視か」


 僕はボーっとしていた。

 錯視である。

 今、目の前で人型の亜人が瞬殺された。

 触れてもないのに瞬殺された。



 戦闘描写は割愛。

 だって、ムーさんが眼力……

 メンチを飛ばした瞬間に木っ端微塵に吹っ飛んだから戦闘もクソもない。

 僕はギャグを見せられている気がする。


「こんな役者を雇ってたのか」


 僕の為にこんな余興を用意してくれてたんだろうか?

 僕は腕を組んで三文芝居を鑑賞していた。

 四散した肉塊は映像を巻き戻すかのように再び人型となった。


「一体何回やるんだこれ? 再放送早すぎない」

 お昼のドラマでも少しは時間を空けてるはずだ。


「貴様ァァァァァァ!?」

 コウモリ型の亜人の方は犬歯をむき出しにし、禍々しいオーラっぽいミストガスが背後に蔓延していた。


「おならか」

 ミストガスの正体はおならか体臭だろう。

 

「何もしてない。名前を"視た"だけ」

ムーさんは興味なさそうに目をこすった。


「おならの色が異世界の人は青いんだね」


「おならに色なんてあるの? 初めて知った」


「知らないよ。あ、そういう事なんで」


 僕は自称吸血鬼の王とかいう恥ずかしい二つ名を名乗るハンサムな男に会釈して、ムーさんの背中を押してその場を去ろうとする。


「逃がすか! この我を愚弄、」


 と咆哮した瞬間であった。

 トマトを握り潰すような血飛沫が目の端に入った気がした。


「命拾いしたのに……蚊の癖に凄い再生力」


 ムーさんは明後日の方向を見ている。


 もう何度も、ハンサム自称吸血鬼が食って掛かり、ムーさんが眼力を飛ばし、肉塊になる。

 そして再び人型になるの繰り返しであった。

 もう飽きていた。このループなんだもん。

 なんでこんなスプラッター三文芝居を見せられなきゃいけないのかと辟易していた。


「何が……起こった?」


 再び肉塊から戻ったハンサムな自称吸血鬼の王を名乗ったコウモリ型の亜人。

 彼は、手を地面に付いて滝のように汗を流していた。


「ムーさん。この人知り合いなの? こんな大根」

 芝居は言い過ぎだな。

 彼も必死に役を演じているに違いない。

 称賛こそすれど批判などもっての(ほか)だ。


 このループから抜け出すには……僕がこの芝居に付き合うしかない?

 そうか。このバイトは僕の言葉を待っているのだ。


「素晴らしい能力」

 僕は鷹揚に手を叩いた。

 僕がアクションしなきゃ、この芝居は終わらないと悟ったのだ。

「見事な再生。君のような逸材を探していた。強敵であろうとも果敢に挑む胆力称賛に値する」


 それっぽい事を言ってポンさんあたりが雇ったバイトであろうコウモリ型亜人の彼に称賛を送った。


「貴様……何者だ?」

 ようやく僕に気付いたのか名を尋ねてきた。


「僕? あ。僕なの?」


 今までと違う展開だ。

 なるほどねぇ。正解のようだ。

 僕がアクションを起こすのを待ってたのか。

 彼も内心。

 『早くなんか喋れよ! 同じ演技して待ってんだぞ!』と、僕に苛立ちを覚えていたのかもしれない。

 空気が読めなくて申し訳ない。


「そじゃない?」


 ゴホンと僕は役に徹する事にした。

「我は総司令官……いや。それじゃあ面白くないな……」


 僕の小さな脳みそは中二ワードを脳内から抽出し始めた。

 バイトの彼の予想を超えるワードを生み出さねば。


「「???」」

 2人は僕の事を不思議な顔をして見ていた。


 しばらくの間であった。

 かっこいい単語を繋げればいいんだ。

 深く考えるな。


「我は原初なる森羅万象、混沌の中から生まれた。

 豊穣なる大地を荒廃させ、奈落より這い出た万物の頂点に立つ裁定者。

 この世界を天秤に掛ける、この世を見定める使命を持つ神を凌駕する存在。

 人はこう呼ぶ。竜魔王と」


 意味不明である。

 我ながら何を言ってるのかさっぱり意味不明な単語を無理矢理繋げた。

 英語に訳したら翻訳機が『お前は馬鹿か?』とツッコんできそうな意味のない言葉の羅列。

 だが、これが中二クオリティなのだ。

 中二セリフは雰囲気さえカッコ良ければいいのだ。

 意味を考えたら負けなのだ。


「竜魔王……この世界の裁定者だと?」

 ハンサム亜人は僕を見つめ恐怖していた……という完璧な演技をしていた。

 アカデミー賞ものである。

 

「その通り。我が軍門に下れ。吸血鬼の王よ」


 ど、どうだ? 

 これは正解なのか? 

 間違いなのか?

 僕の演技はどうなのだ。こんなアドリブを披露させるお遊びなんだろう。

 全く、ポンさんもムーさんもサプライズが好きだからな。

 乗るしかないだろう。

 このビックウェーブに!


「貴方は全ての魔を統べる王なのか……」


 しめしめ。新たなセリフ頂きました。

「その通り。我が手中に全ての魔はひれ伏すだろう」

 禍々しい雰囲気を作るフリ……をした。


「なんという、魔力だ……」

 頭を垂れ、膝を着く。

 

 なにこれ? 率直な感想だ。


 気を取り直して。

 僕はこいつの名を知らない。

「貴様名は?」


「私に名などない。人は私を闇と呼んではいるが」


 闇ってなんだよ。頭おかしいだろ。そんな名前恥ずかしいよ。

 中二センスがなさすぎる。

 ポンさんの差し金だとわかっているが、名前は適当なのは頂けない。


「では、貴様に名を与えよう」


「な、なんと!?」


「貴様に、ファ」

 ふぁ? ファから始まるカッコイイ言葉ってなんだ?

 咄嗟にファって言ってしまった。

 う~ん。考えろ僕。

 

「ふぁ?」


「ファウスト。貴様の名はファウスト。いいな?」


 その瞬間黄金の粒子がハンサム亜人に纏わりつく。

「私の名はファウスト。承知した。竜魔王よ」


 鱗粉をまき散らす演出。

 わかってるじゃないか。これこれ!

 僕は満足して。

「うむ。ファウストよ。我らは帰る。来るか? 我々と」

 打ち上げに。


「いい……のですか?」


「構わん」


「なんという寛大なお言葉。お供致しましょう」

 深々と頭を下げるファウスト。


 終わった~。

 スプラッター再放送終わったよ~。

 僕はファウストさんを連れて拠点に戻る事になった。

 

 


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