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寡黙な自称ドラゴン バハムートのムーさん

 

 【バハムート】と、あだ名を付けた円卓(ラウンズ)メンバーの1人。

 通称ムーさん。

 高貴そうな雰囲気を醸し出すムーさん。

 きっと、いい家柄出身の人だ。

 雰囲気が『お嬢様です』と言ってるのだ。

 長い黒髪に切れ長の眼の和風美人。

 巻型の2角を持ち、黒い尻尾が生えている。

 

 ムーさんは寡黙だ。

 喋りかければ返してくれる。

 だけど、ムーさんから積極的に話しかけてくる事は滅多にない。

 

 そんな寡黙な彼女とは川釣りをよくする友人である。

 寡黙な彼女とせせらぎの音を聞きながらする川釣りは僕の癒しタイムだ。


 そんな二人で今日の夕飯の魚を釣りに来たのだ。

 桶には結構な量の魚が入っている。

 大漁であった。


 少し息抜きも必要。

 なので、僕はムーさんに切り出す。

「ムーさん。前教えた水切りやろうよ」

 川釣りを一旦中断しそんな提案をした。


「うん」

 ムーさんは足元にあったゴツゴツとした角ばった石を手に取る。


「それじゃあ、あんまり飛距離でないよ」

 僕は平べったい凹凸の少ない石を見せる。

「こんな感じのやつがいいよ」


「そう……」

 ムーさんは角ばった石を放り投げると足元をキョロキョロとした。


 少し時間が掛かりそうだ。

 ムーさんは真剣にどの石にしようか悩み始めていた。

「ほら。僕の拾ったやつあげるよ」

 僕は手元にあった平べったい石をムーさんに手渡した。


「ありがと」


「ムーさん。今日は手加減してね。本気でムーさんが投げると川が爆発するから」

 

 以前ムーさんに水切りを見せたところ、子供のように目をキラキラさせていた。

 そんな彼女に水切りを指南したが、ムーさんが投げると凄い威力だった。

 水を切るどころか川の地形が変形したのだ。

 爆発した。

 この表現が一番近いだろう。


「うん。前よりも力抜く」

 

 ムーさんは素直だ。


「うんうん。そうだね」

 ムーさんはラウンズ随一の実力者とポンさんが言っていた。

 きっと滅茶苦茶強いのだ。

 亜人の力がこんなに凄いのか、と当初は驚いた。

 最近になって驚く事も少なくなったが、ムーさんの腕力や膂力は凄いのだ。

 華奢に見えるムーさんの身体だが、きっと魔法とか亜人パワーとか超常のエネルギーがあるに違いない。


 困った事に、寡黙で素直。

 力持ちのムーさんも自分の事を『ドラゴン』とか言ってるのだ。

 自称ドラゴンを名乗っている。

 でも僕はツッコまない。

 もう基本的にみんな中二病なんだなと思ってる。


 そんな事を考えていると。


「もう一回みせて」

 ムーさんは僕にお手本を見せてくれるよう、せがんできた。


「いいよ。じゃあ先に僕が投げるね。こうやって水面を走らせるイメージで!」

 僕はフリスビーを投げるように。

 まるで水面を滑らすように石を投げた。


 石は、水上を1回、2回、3回と跳ねていく。

 そしてポチャンと川底へ沈んでいった。

「6回か。結構飛んだなぁ」

 6回は水切りプロにとっては少ない回数かもしれない。

 でも僕にとっては中々いい成績だ。

 僕はしたり顔でムーさんを見る。


「すごい……」

 ムーさんは感嘆の声を上げていた。


「次はムーさんの番だね」


「……うん」

 ムーさんは自信なさげに返答した。


「リラックス。リラックス」


「やるよ」

 ムーさんは意を決したように石を投げた。


 ムーさんの投げた石は全く放物線を描かず水面を平行移動する。

 水切りでなく、まるで弾丸であった。

「あれ!?」

 僕は咄嗟にそんな言葉を発してしまった。


 そんな弾丸のつぶては40メートルはある川に一度も水面みなもに掠る事無く。

 対岸の岸壁にぶつかると、轟音を起こしながら土砂崩れが起きた。

「また……できなかった……」

 悲しそうな声音。


「ドンマイ。まだりきみが取れてないのかも」

 川の地形がまた変わったなぁと思いながら僕はムーさんを慰めた。


「そだね」


「じゃあ、川の形も変わっちゃたし、今日はもう水切りはお終いだね」


「やだ」

 ムーさんは頭を振った。


「え? まだやりたいの?」


「うん」

 コクり頷くムーさんは目に涙を溜めていた。


「そっか。いいよ」

 前回もできなかったし、悔しいのだろう。

 仕方ない。もう少し付き合ってあげるか。


「ありがと」


「そうだなぁ。もっと力を抜いたほうがいいかも」

 そんなフワフワしたアドバイスをした。

 

 ・

 ・

 ・

 

 川の地形がグチャグチャになり、ちょっとした谷が出来た頃だった。

 ポチャんと1回、水面を撥ねると。

 石が沈んでいった。

「できた」

 ムーさんは、よほど嬉しいのか、いつものポーカーフェイスが崩れ始めていた。

 頬がピクピクしてる。


「うん。凄いね! じゃあ釣り再開しよっか」


「……うん」


「ここはもう魚居ないかもしれないから。上流の方に行こう」


「……そだね。あの……」

 ムーさんはいそいそと準備をし始めながら。

 モジモジとしだす。


「どうしたの?」


「また……やりたい」

 恥ずかしそうにそう呟いた。


「いいよ。今度は多分もっと上手く行くよ」

 力の抜き方を覚えれば、あとは早いと思う。

 多分だけど。

 僕は川の対岸が谷になった光景を見て……

 前言撤回。

 道のりはまだまだ長いかも。


「ありがと」

 ムーさんはいつも無表情な事が多い。

 そんなムーさんにしては珍しく微笑んでいた。


「僕も……頑張るよ」

 そんな笑顔で言われたら……

 一緒に水切りが出来るまで付き合ってあげよう。

 また地形が変わらなければいいが。

「そんな事より、ムーさん。今度ポンさんに頼んで外の街に行く事になったんだけど、だ」

 と話を続けようとしたのを被せるように。


「ダメだよ。外に行ったら……危険……」

 ムーさんはポツリ。


 出たよ。

 ムーさんも僕が山から出るの反対派なんだよな。

 でもポンさんも説得できたし。

 大丈夫でしょ。

「でも決めたんだ。ポンさんも了承してくれたんだ」


「あの子が……」

 ムーさんは神妙な面持ちである。

 よほど意外だったのかもしれない。


「ポンさんも連いてきてくれる事になったけど、

 ……僕はムーさんにも連いて来て欲しいんだよね」


「え? 私も行くの?」

 一転キョトンとした顔をする。


「いやぁ。僕弱いじゃん。

 でもポンさんもムーさんも多分強いじゃん。

 ムーさんが居ると心強いんだよね。ダメかな?」


 少しムーさんは顎に手を当てて考えた後。

「……いいよ」

 ムーさんは二つ返事で了承してくれた。

 

 あっけなかった。

 なんだ。

 一緒に連いて行くなら大丈夫なのか。

 もっと早めにムーさんを説得して、ポンさんに相談すれば良かった。

「ポンさんの眷属ペットが来てからになるけど」


「わかった」


「じゃあ。川釣りの続きだね」


「うん。それ……持つ」

 ムーさんはどこにそんな力があるのか意味不明なぐらい魚が大漁に入った桶を片手で易々と持ち上げる。


「よろしくね」

 よし。

 ボディーガードを2人確保だ。

 女の子にボディーガードを頼むなんて我ながら情けないが彼女達は多分強い。

 クソ雑魚の僕を精一杯守ってもらおう。



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