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常闇の獣


/3人称視点/


 渦巻く人と魔。

 人魔入り乱れる戦場。


 常闇の決戦。


 道化が嗤い、選ばれし人の子が佳境に立たされる。

 

 だが、それは前座でしかなかった。

 それは脅威ではない。


 最も脅威。

 最も警戒せなばならない存在。

 ポンはそこから視線を外す事が出来なかった。

 

 闇の中で暴れ回る4匹の猟犬。


 否。あれを猟犬と比喩するには無理があった。

 

 ――― 獣 ―――


 想像を絶する力を有する異形。


 ポンは高見から。

「厄災か? 見た事はない。が。異様なほどの魔力保有量」

 

 湧き出る魔物は成す術はない。

 魔神と呼ばれうる魔人すらも太刀打ち出来ない。


 白い獣が[自害しろ]と唱える。

 魔人は自身の首を掻き切った。

 

 赤い獣が[潰し合え]と唱えると。

 魔物は仲間割れを引き起こした。

 

 黒い獣が[食らい尽くせ]と唱えると。

 異形は共食いを始めた。

 

 青白い獣が[死ね]と唱えると。

 命が消えた。


「厄災の獣。どこの時空から招かれた?」


 ポンは冷静に戦況を見守りながら多重結界を張り直す。

 時空。次元を分断する障壁を作り、簡易的に世界を隔絶させる。


「危険だ」


 この世界に招いてはいけない。

 常闇から出してはいけない恐るべき獣だと本能で認識したのだ。

 この世界で対処できる者など数限られるだろうと。


「因果を捻じ曲げている……な」


 世界の仕組み、そのものに干渉しているのだ。

 そのどれもが地上に於いて強力無比。

 4匹同時ならば……


「或いは、神を殺せるか」


 我らに及ばずとも。

 危険な権能を有しているだろう。

 

 生物に対する。

 

 絶対的な権能。

 支配し、闘争心を煽り、腹を空かせ、死に至らしめる。


 邪悪なる魔の獣。


「あれは人がどうこう出来る代物ではないか……征士郎は人が好きだ。故に。あれが闇から出れば多くの人が死ぬだろうな……」


 一匹でも野に放たれれば、世界が終焉に向かう。

 魔王など相手にならない。

 あれは概念に近い。

 信仰であり、象徴であり、恐怖なのだ。


 アレが呪詛を一言でも唱えれば。


 国が。

 大地が。

 海が。

 空が。

 生きとし生ける小さきモノ達が。


 瞬く間に滅ぶ。


「違うな。死ぬ。ドラゴンや神々が出張って討ち滅ぼせるといった所か」


 ポンは『はぁ』と、ため息を漏らすと。


「仕方ないか」


 ポンは翼をはためかせ、闇の中の激戦の大地に降り立った。

 独特な光彩を放つ竜の眼が煌めいた。


「塵すら残さぬ。消し飛べ」


 ポンは大きく息を吸うと、破滅の吐息を吐いた。

 放たれるは黒い(いかずち)

 黒雷が白い獣に標的を定める。

 必ず殺すと。

 大地すら両断する絶死の雷が命を刈り取ろうと……

 

 白き死神は犬歯を剥き出しにし。

 

 たった一言。


 ―――曲がれ―――


 そう呟いたのだ。


「!?」

 ポンは信じられないモノを見るように目を見開く。

「信じられんな」 


 自身の吐いた絶死が闇の彼方に軌道を変えたのだ。


「へぇ。強者だ。久しいなぁ。ここまでやるのは。強いねお前。僕一人じゃちょっとキツイかなぁ」

 

 白い獣は、白い外套を纏う白髪の青年の姿に変化すると流暢にそんな風に嗤った。まるで小ばかにするように。


「それが本性か? 犬?」

 ポンは肩と首を鳴らしながら笑い掛ける。

 久々に出逢った強者に胸が躍っていた。


「さぁね」 

 青年は飄々とした態度を崩さず。

「出番だよ。みんな。面白い獲物だ。神に匹敵するご馳走さ」

 と快哉を宣言しながら指を鳴らす。


 刹那。

 隔絶されたはずの空間に気配が増える。

 

 ポンの四方は瞬時に取り囲まれていた。


 赤、黒、青白の獣がポンを逃がさぬように取り囲んでいるのだ。


「流石に、時空間を超越する(すべ)を心得ているか」

 ポンは目線を鋭くした。

 

 獣たちは徐々に白い獣と同様に姿形を変えていく。

 まるで、それが本来の姿であるかのように。


 赤い獣は筋骨隆々の歴戦の戦士のような風貌。

 彼は一言。

白き獣(ルール)の支配が効かぬか。ふむ。確かに強いな。で? どうだ黒い獣(ペコリーヌ)。我らに勝機はあるか?」


 黒い獣(ペコリーヌ)は、天秤を片手にした、頬がこけ、眼の下に隈を作る不健康そうな女であった。

「天秤は傾いていていない。全員で勝率は……五分……かも」


 赤い獣(レクイエム)は眉根を寄せた。

「なに? 青白い獣(デス)の権能があってもか?」


「そうだね。殺せない。核がデカすぎて砕けない」


「魂の格が我らを凌駕していると?」


「そのようだね」


 赤い獣(レクイエム)は狂戦士のように不適に嗤うと舌なめずりした。

「興味深い」

 

 青白い獣(デス)は、闇のようなローブを目深に被る表情すら視えぬ者であったがたった一言呟いた。

「……我らは我らの主の障害を取り除くだけ」

 

 白い獣(ルール)はその中でもリーダー格なのかポンに向かって。

「では、始めよう。簡単に死んでくれるなよメイド。幾星霜ぶりに本気が出せそうなんだからなぁ!」

 

 ポンは殺気が込められた表情を作り。


 フンと鼻を鳴らした。

「都合がいい。まとめて仕留めて見せよう。この私の力量を見誤ったな。犬畜生如きが!」


 常闇の中。

 そのさらに闇の中。

 闇の世界すらからも隔絶されたこの世の果てとも言うべき異空間で4匹の獣と世界最強の一角である竜との激闘が開始されたのであった。


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