常闇のアーティファクト
/3人称視点/
ある日。
天より9つの偉大な力が人類に齎された。
老若男女問わず。
善悪問わず、無秩序に、無造作に。
天より与えられたのだ。
まるで人類を試すかのように。
物語を加速させるかのように。
主要人物全員に配られたのだ。
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危機が去った王宮。
その日は満月であった。
貴人集う場に、術師が1人闇から姿を現した。
偉大な力を授かりしリリアナ王国戦士長フォルテは瞬時に君主を庇うように前に出ると、禍々しい雰囲気を纏う術師に切っ先を向け警戒する。
「お前は……何者だ」
「私は選別者……とでも言うのかな」
「選別者? 答えになってないが……」
「そのままの意味さ。それ以上でもそれ以下でもない」
「侵略者……の間違いではないのか?」
「違うね。奪いに来たのではない、侵しに来た訳でもない。選びに来たのだから。侵略ではない。選びに来た。選ばれる機会を与えに来た。人が辿る結末を。行く末を」
「……問答になってない。言葉が足らないぞ」
「いずれわかるさ」
「……では、あれはなんだ?」
フォルテは生唾を飲み、意を決して続け様に疑問を口にする。王国の先には巨大な黒い闇が天から地に幕のように下りていた。
余りにも異様な光景。
「暗闇。夜。呪いの塊。そう。あれは結界」
「結界だと?」
「人が人を。魔が人を。神が人を。
異能を与えられた者同士が殺し合いをする為の装置。
闇、穴。大穴、奈落の呪い。
最果てだよ」
「終末か!?」
王は何かを察したのか声を荒げた。
「そうだ。またはこう言う。ゲートだと」
「ゲート?」
「新たなフェイズに移行する選別装置。異界を繋げるゲートさ」
王は目線を鋭くすると。
「奈落の魔術。異界魔界冥界を繋げる闇」
「ご名答。ごめんね。ここは選ばれたんだ」
「選ばれた?」
「世界の臍にさ。
あの穴には数千万の呪いの渦が蠢いている。
いずれ常闇の結界がこの国全土を覆う。
この国は殺し合いの場となる。
人類の命運を懸けた殺し合いの場に成り代わる。
それを告げに来た」
術師はそれだけを述べると踵を返す。
フォルテは切っ先を向け闖入者を睨みつける。
「待て。ここで逃がすと思うか?」
「急くなよ。戦士長。今回は宣戦布告しに来ただけ。儀式の縛りを果たしに来ただけなんだ」
「なに?」
「次に月が隠れた時。呪いの渦で存分に殺し合おうじゃないか」
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リリアナ王国領土。
首都から離れた土地に僕らの拠点1号である屋敷はあった。
この地に来てから暫く経とうとしていた。
そんなある日であった。
テラス席の眼前には夜と昼がせめぎ合っていた。
不思議な光景。
光と闇が境界線を作っているのだ。
奇妙な天体・気象現象。
「あれは何?」
「闇だ。常闇」
ポンさんはなんでもないようであったが目線を鋭くする。
それまで黙っていたムーさんは一言。
「……常闇のアーティファクトが発動している」
「へぇ~」
常闇のアーティファクト……なんかどっかで聞いたカッコイイフレーズだな。まぁいいや。答えになってないけど。隣で虚ろな眼をするムーさんもさして驚いていないようなので異世界あるあるなのだろう。
「よくあるの?」
「まぁな。終末には、よくある現象だ」
「ふ~ん。週末にはよくあるんだね。なんだか幻想的な光景だね」
毎週ここら辺ではよくあるイベントらしい。
「……という意見もあるか。随分余裕じゃないか? ここは確かに安全だろうが。随分と肝が据わっているではないか」
安全???
あ~。気象がやや狂うのかな?
霰や雹が降って来るみたいな。確かに屋根があるのとないのでは全然防御力が違う。野営中心の冒険者には危険な現象なのかもしれない。
僕は優雅にテラス席にて渋~いお茶を啜りながら目を細め口角を上げた。
「美しいモノは好きだ」
咄嗟に口を吐いて出てしまった。
ちょっとしたカッコつけ。
中二ムーヴである。
もう病気であるが、ペラペラと口から出てくるのだ。
「?」
「人は自然の摂理には抗えない……」
花鳥風月を噛みしめながら僕は続けた。
「それをこの肌で感じ取る。生を実感する瞬間」
両手を広げ深呼吸する。
草と土の匂い、太陽の温もり。
生暖かい、それでいて時折闇から流れ込む冷気を感じ取りながら呟いたのだ。
ポンさんは。
「何を言ってるんだ?」
僕は無視して鷹揚に手を叩く。
「ブラボー」
感動を共有したかった。
こんな豪邸にダラダラしながら農作業に勤しめる環境に。何より田舎を出て良かった。異世界のトンデモ気象現象も観測できるのだから。
「ぶら、ぼー?」
「素晴らしい。アメイジングという事さ」
僕は悪い顔を作りながら『クハハハハハハハ』と嗤う。
そして続けた。
「実に愉快。これだよ。世界に出て良かった。楽しい祭りをこんな特等席で見れるんだからねぇ」
「……」
ポンさんは呆れ顔であった。
僕はフッと笑う。
しばしの沈黙の後。
「なんと恐ろしい御仁だ」
いつの間にか背後にて佇むファウスト氏は顔を青ざめさせながら一言投げ掛けたのだ。
ファウストさんは一体なぜそんな冷や汗を掻く演技をし始めた?
ちくしょう。
求められているコントに乗るんだ!
僕!
「祭りか……言い得て妙だな。終末を見てもなおその度量。やはり流石か」
呆れ顔からポンさんはふむふむと頷く。
はぁ~。
乗って来たぁぁぁぁぁ。
みんなノリが良すぎる。
最高だ。
中々にいい演技力。
役者が揃ってるよなこのメンバー。
劇団でも作ろうかな。
コント集団:異世界ドラゴンズとかどうよ?
球団っぽい名前だけど。
それまで黙っていたムーさんは。
「これも手の平の上」
ポンさんは目を見開くと。
「そうなのか? 故にあのような力を創造した……そういう訳か」
??? 何を言ってるんだ。
くそ。中二病のデメリットはみんながやりたいムーヴを雰囲気で解釈しないといけない。言葉が全く足らないのを脳内で補完しながら、波に乗らねばならない。
非常に難しい、高度なコミュニケーション能力が要求される。
現代文偏差値72の僕ですら容易ではない。
高度な読み合い。
考えたら負け。
感じるんだ。
テンポが大事なのだ。
話の腰を折ってはいけない。
それが中二の世界のルール。
「そうだよ。この為に創り出した」
「やはり……そうであったか。機会を与える。そうだったな」
ムーさんは。
「征士郎はこう言いたい。可能性を知りたいと」
ファウスト氏は合点が行ったのか。
「なんと……そうでありましたか」
難しいコミュニケーション。
意図は読めない。
しかし!
とりあえず肯定から入り、コントに深みを持たせるんだ。
「そう。これは可能性を僕の前に示さねばならない。つまりはそういう事」
僕にもどういう事なのかはわからない。
つまりはそういう事なのだ。
ポンさんは目を見開いた後。
「……であったか」
と呟くと瞼を深く閉じた。
「祭りは間もなく観れるだろう。だが、未だ可能性は示されていない。僕はただ待つ事しか出来ない。この場で」
そう、珍しい天体観測をこの場で待つ事しか出来ない。ただそれをカッコよく伝えるだけの意味のない会話。
ポンさんは鋭い目を作ると。
「運命に選ばれし者をだな?」
「え? ああ。うん。そうそう」
運命に選ばれし者?
月は綺麗ですね並みに難解な言い回しだなぁ~。
ムーさんもすかさず合いの手を入れてきた。
「そして願いを聞き届ける。違う?」
「あ、うん。そうそう」
沈黙。
一同が沈黙したのだ。
求めすぎなんだよ僕に。
ターンを渡しすぎぃぃぃぃ!
オホンと咳払いした後。
「そんな事よりも開墾しに行こうか。野菜作りの」
ポンさんは呆気に取られたのか
「え、あ、ああ。話が変わったな」
「そりゃあ農家に転生したからね。僕は」
「「「???」」」
3人は突然話題を切り上げた僕に疑問符を浮かべた顔を向けたのであった。




